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2019ベルリン観劇記録(12)『Medea』

10月17日

Medea メディア

劇場 Berliner Ensemble (Großes Haus)ベルリナー・アンサンブル

作 エウリピデス

演出 Michael Thalheimer ミハエル・タールハイマー

舞台美術 Olaf Altmann

衣装 Nehle Balkhausen

音楽 Bert Wrede

映像 Alexander du Prel

照明 Johan Delaere, Ulrich Eh

ドラマトゥルギー Sibylle Baschung


この演出のMedeaは2013年が初演のため、今更といえば今更の観劇となるが、あの頃の私は長期のドイツ滞在を目指し仕事に明け暮れていたので致し方ない。(レパートリーシステムって本当にありがたいなあ!)タールハイマーの演出といえば、シャウビューネでトルストイのDie Macht der Finsternis『闇の力』, モリエールのTartuffe『タルチュフ』, ゴーリキーのNachtasyl 『どん底』, シラーのWallenstein『ヴァレンシュタイン』、ベルリナー・アンサンブルではクライストのPenthesilea『ペンテジレーア』を観ているので、今回のMedea も「まごうことなきタールハイマーだ!」と愚にもつかないことを思いつつ、窮屈なほど緊張感に満ちた芝居を楽しんだ。

シャウビューネの上演では、空間を丸呑みにしてしまう舞台美術やどこまでも続く闇を思わせる照明が美しかった。観客席もろとも劇世界の箱庭に入れられてしまうような、ある種のおぞましさ、恐ろしさを持っていたのだが、ベルリナー・アンサンブルの空間ではそうはいかない。デコラティブな装飾、シャンデリア、プロセニアムアーチがどうしても目に入る。タールハイマーの劇世界はプロセニアムの向こう側で、安心した距離を保っていられる、とも言える。Olaf Altmanの美術は、上記の作品名のリンクから紹介ページへ飛んでいただき、ぜひ写真で確認して欲しい。

2013年にこのメディア役でファウスト賞の最優秀女優賞を獲得したConstanze Becker は、凄まじい引力を持つ俳優だ。彼女の語りは集中力を切らさずに聞いていられる。観客たちのエネルギーがまっすぐ彼女に集約していくのだ。あの「私を見ろ!」と命令せんばかりの気迫と場の支配力は主役に相応しい。

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地位と権利のために新たな縁組を受け入れ、糟糠の妻とも言えるメディアと子どもを追放しようとする夫クレオンへの絶望、忿怒、恨みが子殺しに発展するのだが、その場面はユニバーサルデザインな記号のヴィデオアートで表現される。今まで観たことのあるタールハイマー演出に比べると意外で、少々驚いた。Mogwai のような作りの音楽とのコンビネーションにより、箸休めの役を果たしていたように思う。

最後の場面の、怒りのあまり冷酷に覚悟を決め、実行した母親、妻、女、人間であるメディアの冷え切った心、それでも消えはしない元夫への絶望と呪いが、その背筋や声音から伝わる。情けなくぐしょぐしょに濡れた状態で現れ、声にならない悲痛な叫びで表現するクレオンとの対比が素晴らしい。辛い悲しい酷いと泣き叫ぶメディアではないところが、非常に気持ちよかった。

余談。wikipedia情報だが、メディアはB.C. 431年の悲劇演劇祭で3位入賞だったそうだ。優勝は先々週コヘスタニ演出で観た『フィロクテテス』。

最後に。この日は月1回の全席一律格安デーだった。2階席1列目の眺めは最高!




ドイツで観られるお芝居の本数が増えたり、資料を購入し易くなったり、作業をしに行くカフェでコーヒーをお代わりできたりします!