『沈黙する教室』のこと(0)

はじめに

こんにちは! 

映画(5/17より全国で順次公開, アルバトロスフィルム配給)の原作(ディートリッヒ・ガルスカ著, アルファベータブックス刊)を翻訳した大川珠季と申します。

ここ、noteを利用し、原作本の内容を紹介することにしました! この作品をより理解するお手伝いができれば幸いです。

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なお、私は東欧史や東ドイツ史の専門家ではありませんが、本文は学術的正確さにも充分配慮されています。編集担当氏が拙訳を携え、その道の某大家氏による三日間に渡る特別集中講義を受けて下さいました。細かくご指摘を頂き、訂正を反映しています。(両氏の意向によりお名前は伏せています)


『僕たちは希望という名の列車に乗った』予告編🎬


すべては、たった2分間の黙祷から始まった――なぜ18歳の若者たちは国家を敵に回してしまったのか?ベルリンの壁建設の5年前に旧東ドイツで起こった衝撃と感動の実話 (映画公式サイトhttp://bokutachi-kibou-movie.com/info/introductionより) どうして解説をするの?


どうして内容紹介をするの?

例えば、Amazonhontoを利用して本書の購入を検討してくださっている方は、中身をほんの少し立ち読みしたり、目次を確認することで、どんな本なのか? 自分に合った本なのか? を判断することができません。

あるいは、映画は観たもののドイツのことは詳しくない、原作にも興味があるけれど理解できるか不安翻訳作品ってとっつきにくい、という方もいるでしょう。

また、この時代のドイツのことをもっと詳しく知りたい! と好奇心に突き動かされて本書を手にとってくださる方もいるかもしれません。

今後の記事で、そんな皆さまの不安や期待に応えられたらと考えています。


翻訳こぼれ話なども!

映画ではスターリンシュタット(現在のアイゼンヒュッテンシュタット)に舞台が移されていますが、実際にこの事件が起こったのは、スターリンシュタットよりはベルリン寄りにある、シュトルコーというより小さな街です。私は昨年2018年の10月に訪ねました。郷土資料館や著者ディートリッヒ・ガルスカ氏とその同級生たちが通っていた学校に潜入した話など、写真を混じえながら翻訳裏話もする予定です。


映画と原作、どちらを先に?

ドイツに馴染みのない方は、映画『僕たちは希望という名の列車に乗った』を先に観るとよいでしょう。視覚的イメージを持った状態で本を読むと、頭の中で場面がスムーズに動きます。ただし、気をつけていただきたいことが一つ。映画はあくまでもガルスカ氏の手記を元にした創作です。例えば実際の先生の年齢、容姿などは映画とは異なります。クルトやテオは登場しないのでご注意ください。

もちろん、ガルスカ氏をモデルに造形されているのがクルトですが、他の登場人物は誰がモデルなんだろう? と推理し、時にイメージを修正しながら、その違いを面白がりながら、読んでいただけたら幸いです。

一方、ドイツ映画を見慣れている、ドイツに馴染みがあるという方は、予習のために先に原作を読むのもよいと思います。例えば私は、もともと演劇畑出身ということもあり、映画を観る前のネタバレを全く気にしません。前知識を持ちストーリーを把握した上で映画を観た方が、内容理解が深まり、些事にも気が付けるからです。

もちろん、前情報なしでワクワクしたい! という方のお気持ちもわかります。皆さんに合った順番でお楽しみくださいね。


ところで、どんな時代のことが書かれているの?

本作は、著者のディートリッヒ・ガルスカ氏が経験した、1956年10月の黙祷、クラスのほぼ全員が西側逃亡に至った経緯、その後のそれぞれの人生を、シュタージ・アーカイヴ、新聞記事、当時のクラスメートや教師へのインタビューを通じて残そうとした労作です。

ガルスカ氏は1939年生まれで、第二次世界大戦のさなかに幼少期を過ごし、戦後のパラダイムシフトの中で成長しました。日本でいう「焼け跡世代」に当たります。戦後の日本は連合国により占領されていましたが、ドイツは東西に分断されており、その東側を占領したのが当時のソ連軍でした。

ベルリンの壁が建設されるのは1961年ですから、1956年当時は検問所などはあったものの、比較的自由に東西の行き来ができていました。(映画では、冒頭で主人公たちが西ベルリンの映画館に乗り込んでいます)ちなみに、ベルリンは当時の「東ドイツ側」にあります。更にベルリンも東西に分けられ、東ベルリンはソ連に、西ベルリンはイギリス、フランス、アメリカに分断統治されていました。

(難しいですね! 混乱しますよね! この時期の比較的移動の自由な分断状況をうまく利用し、例えば安い東ドイツ製品を西ベルリンに「輸入/輸出」して差額で稼ぐ、給料の高い西ベルリンで稼いで生活費の安い東ドイツに住む、など市民は工夫をこらしていたそうです。興味のある方は、ぜひ図書館で「東ドイツ」と検索してみてください)

私自身は旧イギリス占領地域と旧ソ連占領地域に住んだことがあります。都市の景観が大きく違うのですが、特に住居の設備などに占領国のお国柄(や予算)が出ています。

よくお世話になっている旧西ベルリンにあるお宅は50年代に建てられたというイギリス式のセミデタッチハウスで、4ヶ月ほど滞在した旧東ベルリンのお宅は、100年近く前に建てられたアルトバウと呼ばれる総合住宅でした。(アルトバウは旧西ベルリンにも残っています) 

映画を軸に考えると、生徒たち一人一人と家族の「その後」の経験や「四十年後」の出来事、そして「その前」、戦後すぐの東ドイツの状況に関しても、原作では充分な分量で語られています。


ここまで読んでくださりありがとうございます。発売直前のため、今回のご紹介はここでおしまいです。

-次回予告-

次の投稿からは、目次と章ごとのネタバレ紹介をしていきます。

明日5月17日(金)から映画『僕たちは希望という名の列車に乗った』が全国で順次公開です。原作の拙訳『沈黙する教室』も納入の早い書店では明日から店頭に並べて頂けるそうです。

引き続きよろしくお願いいたします! Bis Bald!  またね。




拙訳上演台本の一部はAmazon Kindle でご購入いただけます。


ドイツで観られるお芝居の本数が増えたり、資料を購入し易くなったり、作業をしに行くカフェでコーヒーをお代わりできたりします!