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宿泊施設のデジタル化の重要性(3) 〜デジタル化を推進する企業の動き

第ニ回では、宿泊施設におけるデジタルマーケティングとエクスペリエンスの重要性について述べたが、今回はデジタル化を推進している企業について、詳しく説明していく。

5. デジタル化を推進する企業の動き

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5.1 デジタル化を推進するCDO(チーフ・デジタル・オフィサー)の存在**

唐木 明子, 岡崎 良 (2017)による2016年の調査によれば、日本においてデジタル化を推進しているという企業は88%にのぼった。

しかしながら、グローバルで増え始めているデジタル化を企業として推進する責任者CDOという存在はまだまだ日本の宿泊業界では少ないのではないだろうか。
着目したいのは、Pierre Peladeau, Mathias Herzog, Olaf Acker (2017) による2015年の世界大手の公開企業2500社調査で、“transport and travel”部門において、14%の企業がCDOを設置していることだ。

デジタル化を推進している企業のケースを見てみる。

5.2 日本ロレアルのケース

2015年10月に日本国内初となるCDOを設けた日本ロレアルについてはどうだろうか。
これまでロレアルでは研究開発を中心にした製品を中心としたプロダクトアウトのマーケティング発想であったが、顧客中心のマーケティングへ転換していくために、このCDOというポジションと部署を設けたという経緯ある。デジタルマーケティングの責務を担うにあたっては、消費者のことを誰よりもよく知り、消費者に寄り添う施策を立案する役割を果たそうと考えているということだ。

また、このポジションと部署を設けたロレアルは、デジタル化していくことを明確にする意図も見受けられる。CDOと呼ばれるポジションの人々が増えていく中で、日本では依然としてマーケティングやウェブのプロモーションにのみ関わっていくCDOが多いのが現状である。その中で、日本ロレアルのCDOとなった長瀬氏はデジタル世界のマーケティングのみならず、デジタルと呼ばれるものすべてに関わり、企業としてのビジネスの仕方やマインドセットを変えることも責務と考えていることはとても興味深い。

そして、ロレアルはCDOの前身であるCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)というビジネス戦略におけるマーケティング管轄を残している。デジタルマーケティングを特別なものではなく、普遍的な存在へと変化させることで、最終的にCDOという役割をなくすことができればと考えていることもとても興味深い。

5.3 宿泊業界のケース

宿泊業界においてもCDO職新設の動きがあり、2017年2月にアコーホテルズがモード・ベイリー氏をCDOに迎え入れた。

アコーホテルにおいてこのポジションの人物が管轄するのは、「セールス&マーケティング」、「データ分析」、「カスタマーエクスペリエンス」、「Eコマース」、「IT」の5部門である。
ここまで広い範囲をカバーしているのは、デジタル変革を起こす上でどれも必要な要件だと考えているためだという。「セールス&マーケティング」や「Eコマース」はホテルにとって売上を生み出す重要な要素であり、「IT」は新たなソリューションやツールを生み出し、「データ分析」はデジタルマーケティングを行う上で必要不可欠と言える。そして、新たな技術やツールを使ってさらなる顧客満足を生み出すのが「カスタマーエクスペリエンス」である。

またCDOのDにはDisruptionの意味合いもあり、アコーホテルズのデジタル化へと変革することへの決意が強く感じられる。

ここで述べたデジタル化はデジタルマーケティングを含む広義の定義であるが、企業としてデジタル化を推進するのであれば、経営のトップならびに幹部がCDOというポジションにつき、デジタルマーケティング部門も同時に作りあげられていくのが理想的と言えよう。
しかしながら、現実的にはそこまで至っていないというのが、日本の宿泊業界の現状であると考えている。ただし、デジタル化の一端を担うデジタルマーケティング分野の芽が少しずつ出てきたことも事実である。そこで次回はデジタル化を推進するデジタルマーケティング部門の組織としてのあり方を考察していく。

次号へ続く

この記事は第11回 タップアワード 最優秀賞を受賞した論文を一部抜粋・再構成したものです。

参考文献

• 唐木 明子, 岡崎 良 (2017) 『日本企業のデジタル化とCDO (Chief Digital Officer): Disrupt, Develop, Drive and Disappear
• Pierre Peladeau, Mathias Herzog, Olaf Acker (2017) “The New Class of Digital Leaders
• Insight for D (2016) 『日本ロレアルがCDOを設置した理由:デジタル時代の顧客中心主義とは[前編]
• Insight for D (2016)『日本ロレアルがCDOを設置した理由:デジタル時代の顧客中心主義とは[後編]
• SELECK (2017) 「「ボトムアップの限界」を打破。日本ロレアルのデジタル化を推進する、CDOの役割
• 週刊ホテルレストラン (2018) 『トップインタビュー  アコーホテルズ モード・ベイリー氏、マーカス・ケラー氏 デジタル領域への積極的な取り組みを行なうアコーホテルズ “完成”はない。常に変化をしながら戦い続けていく


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