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不便さが生む必然的な人間ドラマがじれったい、『ザ・ファブル』南勝久の原点『ナニワトモアレ』

【レビュアー/松山洋

実写映画も大ヒット公開中&第二部連載スタートで大盛り上がりの『ザ・ファブル』南勝久先生の原点をご存知でしょうか。

その原点とは――平成元年の大阪を舞台に環状族と呼ばれる若者たちの群像劇を描いた傑作『ナニワトモアレ』&『なにわ友あれ』です。

同じようなタイトルでカタカナとひらがな表記になっていますが、要するに第一部と第二部だと思ってください。(時間軸も登場人物もそのまま出てきます)

私が初めて南勝久という漫画家に触れたのは『ナニワトモアレ』でした。

そもそも大阪の環状線をグルグル車で走るだけの環状族にはなんの興味も関心もありませんでした。(それは今だってそうです)

しかし環状族という人々を描いておきながら『ナニワトモアレ』という作品の本質は、別に『頭文字D』『湾岸ミッドナイト』のような車モノではなくて、そこに生きる人々=登場人物たちの生き生きとしたリアリティでした。

平成元年という時代背景から今ほど便利じゃない時代だったことが作品を通して常に描かれています。

連絡を取りたくてもみんなスマホどころか携帯電話も持っていない。だから必然的にすれ違いのドラマが生まれるし、ポケベルが導入されてもやっぱり不便の中にしっかりとドラマがある。

私はこういった不便なリアリティから起きる必然的なドラマが大好きなんです。『ナニワトモアレ』シリーズはある意味では『ザ・ファブル』以上にリアリティがあって人間ドラマが鬼気迫る部分もあって本当に読んでいて体温が上がる作品なのです。

またこれは著者自身が語られていることでもあるのですが、登場人物の多くはかつて実在した友人・知人などをモデルに執筆されているようで、だから誰一人としてフルネームで登場する人物は存在しません。

グッさん、マーボ、ヒロさん、ゼンちゃん、ハマやん、ユキ、ナオさん、ハジメちゃん……こんな感じでみんな愛称やあだ名で呼ばれていて、ついに『なにわ友あれ』の最終話までその本名が明かされた人物はひとりもいませんでした。

十代の若者であれば必ずといって通る道というか、思い悩む時期ってあるじゃないですか。

「なにか夢中になれるものが欲しい」

ふとしたきっかけから車で環状線を走ることによって目的が生まれ、仲間が出来てさらに(大人から見ればくだらない)夢が出来てそれに熱中になれるなんて、実はすごく幸せなことだと思うんです。

それが若いその瞬間にしか出来ない馬鹿なコトであればなおさらです。

別に環状線で車を早く走らせることが出来たって誰も褒めてはくれませんし、むしろ迷惑行為として取り締まられるだけの存在です。

しかし、確実にその時代のその場所に存在した若い男たちの熱とリアリティを本作は与えてくれます。

『ナニワトモアレ』全28巻、『なにわ友あれ』全31巻、とそれぞれが手ごろなボリュームで描かれています。

熱くなりたい人に届け!『ナニワトモアレ』&『なにわ友あれ』!

*****

*ここからは第二部が始まったばかりの『ザ・ファブル』について熱く語るだけのおまけです。最新話のネタバレを避けたい人は読まないでください。

『ザ・ファブル The second contact』の未来予想

まだ第二部の連載が始まってわずかです。が、早速イヤな予感というか怖い伏線が張られている気がしてなりません。

連載5話目でアキラとミサキちゃんの幸せな新婚生活が描かれたじゃないですか。私の目にはアレがもう伏線にしか見えません。

ミサキちゃん、死にますね、アレ。

恐らくは殺されて死んでしまう展開になるのではないでしょうか。

そもそもの第一部『ザ・ファブル』という作品は単行本全22巻で描かれていて大きく分けると3ブロックに分かれています。

①ファブル登場編
②ウツボ編
③怪人・山岡編

『①ファブル登場編』はボスからの命令で「一年間誰も殺さずに普通に生活しろ」と言われたアキラ&ヨーコが普通の生活をやりながらも、ヤクザ組織のゴタゴタに巻き込まれる話。

『②ウツボ編』はかつてアキラが殺しそこなった(正確には指令がキャンセルされたため生き延びただけ)ウツボと呼ばれる悪党と闘う話で、同じような殺し屋稼業の男も出てきますが、ファブルという殺し屋がいかに他と格が違うかということを見せつけるようなものでした。

『③怪人・山岡編』ではついにファブルvsファブルが実現してしまいます。ファブルとは個人ではなく組織を指していて数多くのファブルの中でもアキラはボスから最高傑作と呼ばれるほどの完成された殺し屋だったということが明かされる話です。

そして第一部のラストでボスからは「これからは普通の人間として普通の暮らしをしろ」と告げられて、殺し屋稼業としての生活は終わります。

第一部を通じてもついにアキラの殺し屋としての真の力は明かされることなく、どんなピンチ(に見える)状況でも「大丈夫や――問題ない――」でクリアしてきたので全く底が見えません。

もし、第二部のこれから先に待っている展開としてもし「本気になったアキラの姿が見れる――」としたら、それはもうミサキちゃんの死に対する復讐しか無いのでは、と思ってしまった私です。

しかも5話で描かれたのは夫婦仲良く「毎日少しずつ組み立てていこう」なんて言いながら立体パズルを組んでいたのです。

こんなの、絶対に完成させないためのパズルじゃないですか。

もう、怖い、やめて、ミサキちゃんだけは殺さないで!けど、アキラ兄さんの本気は見たい――!

ともあれ、毎週のヤングマガジンを開けば『ザ・ファブル』の続きが読めるわけですから。

少しずつ読み進めながらドキドキワクワクと今後の『ザ・ファブル』を楽しませていただきますよ、兄さん――。