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Vol.9 The Orb / Okie Dokie It's The Orb On Kompakt

The Orb
Okie Dokie It's The Orb On Kompakt
(2005)
Kompakt

The Orbはイギリスの90年代初頭のアンビエント・ハウスと呼ばれたムーブメントを牽引したグループ。アンビエント・ハウスとは、文字通りダンスミュージックに70年代のイーノやクラスターなどのアンビエント要素やピンク・フロイド、10ccなどの音楽的要素を掛け合わせたような音楽で、セカンド・サマー・オブ・ラブで盛り上がり切ったイギリス人たちの体を癒すのに一役買ったらしい。

クラブのサブフロアで開催していた「Land of Oz」というパーティーで流していた音楽から、こういったムーブメントに発展していったと起源が明確になっており、その成り立ちもなんだかセブンイレブンがイトーヨーカドーを食うような物語のようでワクワクさせられる。例えは悪かったが、ストリートというかクラブのパーティー、しかもサブルームから誕生していずれ、ナショナルチャートでも一位を取ってしまう程に発達するという過程は、今ではちょっと起こりづらい気がして羨ましくもある。

そのパーティーを主催していたDr. Alex Patersonという人物がジ・オーブの中心人物で、パートナーはコロコロ変わっているが、ジ・オーブと言えば、彼という認識で間違い無いと思う。初期はKLFのジミー・コーティーと一緒にやっており、かの有名な「Chill Out」もこのメンツで作っているらしい。余談だが、KOYAS&DJ Yogurtでこの「Chill Out」を丸々リメイクした作品があるのだがそれがオリジナル以上に素晴らしい。オリジナルはリアルタイムではなかった上に、後年聴いた時にはそこまでの衝撃はなかったので、余計にそう思う。

細野晴臣の一時期のアンビエント趣味も、間違いなくこのジ・オーブからの大きな影響の一つであり、1993年の再生YMOの東京ドームライヴの前座もやっているらしい。

ジ・オーブの特徴と言えば、ダブ処理されたサウンドと、ブレイクビーツ、そしてユーモア溢れる長尺のボイス・サンプルが挙げられると思う。ノン・ビートの曲もあるのだが、きっとパブリック・イメージのオーブサウンドと言えばこれだろう。出てくる音はまるで異なるが、このサンプリング&エディットで新しい音楽を作る感覚は、アンディー・ウェザオールと似ているなと思ったことがある。ちょっと違うか。

今回紹介するアルバムは、ドイツの名門テクノレーベルKOMPAKTからの初のアルバムリリースであり、つまりアルバムタイトルはそのままそういうことであり、この辺りがジ・オーブらしい。しかし、このタイトル以外の音方面では上記の特徴はほとんどなく、レーベル・カラーを意識し過ぎたのか、アレックス・パターソンが手を抜いたのか定かではないが、いわゆるオーブ・サウンドとは少々趣が異なる。しかし、自分はこのアルバムは最高傑作ではないかと思っている。

トーマス・フェルマン(元パレ・シャンブルグ、元3MBの80年代から活躍するドイツ・エレクトロニック・ミュージック界の偉人)と二人組になってから初めてのリリースということもあり、彼を立てた可能性もあるが、トーマス・フェルマンのソロ作品としてリリースされても気付かれないのではないだろうか。

要するにダブテクノ的な要素が強く、前半はダンスものもかなりある。そして後半はズブズブのアンビエントという構成なのだが、そのバランスが自分にはちょうどよくアルバム通しても単曲でも楽曲が立っているなという印象。

実は自分がこういったエレクトロニック・ミュージックを聴き始めた時には、Aphex Twin真っ盛りであり、ジ・オーブはちょっと古い音楽という位置付けであった。つまりアンビエントと言えば「Selected Ambient Works 85-92」のことであり(個人的にはサワサキヨシヒロのMushroom Now!、Meditation Y.S.なども)、今となってはジ・オーブの初期作品も素晴らしいと思えるが、ジャケットのダサさもあってか、当時はピンと来てなかったというのが正直なところである。そんな中このアルバムはジャケットもいいし、音楽的にも当時の自分の雰囲気にビシッと来たという、個人的な思いも強いのかもしれない。

A1:  Komplikation

いわゆる、まんまノン・ビートのミニマル・ダブの音で、実質トーマス・フェルマンのソロ作品ではないかと思ってしまうような音だが、少しオーブらしいサンプルも載る。

A3: Ripples

しっかりビートの入るダンストラックだがテンポは遅めで106BPMほど。ディスコ・ダブなどとの相性が良さそう。アナログシンセらしい不安定なベースの音とかっちりしたリズムがとても心地よい。

B1: Captain Korma

ジ・オーブとは思えない純粋にカッコ良いダンストラックで、DJの時には相当使わせてもらった。走るリズムと、それに絡むワンショット系のシンセ音が絶妙で、出たり入ったりするシンセのフレーズもとてもかっこいい。

B2: Kan Kan

こちらも前トラックに続き、早めのテンポのダンスものだが、リズムが走る系のトラックというよりは、ジ・オーブお得意のアンビエント的ボイス・パッドやコミカルなシンセ音なども載るダンストラック。

B3: Rolo

短いアンビエント作品。今までのまでのジ・オーブ作品にとても近い、ブレイクビーツ&フワフワとしたシンセが心地よい。これが10分くらい続くのがオーソドックスな彼らの音という印象。

C1: Cool Harbour

またしてもダンストラック。2拍がループする系のトラック。二拍子ってことでいいのかしら。ボイスサンプルなども時折乗りつつ、淡々と続くトラックで、ハマり系のトラック。

C2: Traumvogel

このトラックからアンビエント・タイムがスタート。ハープシコードのような音や弦楽器系のサンプルを基調に、若干の緊張感を持った闇夜のような和みトラック。

C3: Because/Before (Sibirische Musik)

Ulf Lohmannという人の曲のリミックスとのことだが、このアルバムで一番好きなトラックかもしれない、とても美しい極上のアンビエント。一転してこちらは日の出あたりの清々しさを持っており、コード感から光のような高音、メロディーまでイーノの「Another Green World」に収録されていそうなドラマチックなトラック。ちょっと短いのが惜しいくらい。

D1: Tin Kan

グリッチノイズなども載ったズブズブのダブ的アンビエント。しかし、暗黒のトラックではなく、とても希望的な明るさを持っており、途中から入るベースラインも素敵。

D4: Snowbow

クラシック音楽のオーケストラ演奏まんまのサンプルを使用したトラックに、何とも言えないくすぐったいような音が絡むだけ、と言えばだけの曲。最後は歌舞伎の拍子木のような音でフィニッシュ。

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ここまででアルバムは終わるのですが、データ配信だともう一曲追加されておりました。そのトラックも可愛らしくとても良いトラックでした。

先述のように、これがジ・オーブのオースドックスなサウンドではないのですが、ともするとダラーっとしガチな彼らのアルバムとは一転した、緊張感のある、非常にまとまるのある仕上がりになっており、非常におすすめです。

アンビエントはぶっ続けでCDで聴くに限りとは思っておりますが、意図的なのか、このアルバムはいい感じで裏返しのタイミングが訪れるので、レコードで聴くのもとても良いです。

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