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Vol.3 - Mr. Scruff / Keep It Unreal

Mr. Scruff
Keep It Unreal
(1999)
Ninja Tune

高校生・大学生の頃の自分は、ブレイクビーツの音楽をあまり好んで聴いていなかった。ケミカルブラザーズにはビビッと来たが、きっと彼らは電子音のような音を頻繁に使っていたからなのだと思う。まりんのファーストアルバムのようなラウンジっぽい軽い印象のものは大好きであったし、DJシャドウのファーストアルバムにも流石にビビった。それくらい。

当時(94年くらいから98年くらいまで)のブレイクビーツ二大レーベルと言えば、ジェームズ・ラベルのモ・ワックスと、コールドカットのニンジャチューンで、前者はよりヒップホップ的かつ煙たく、後者はよりユーモアを大事にしているといったような紹介のされた方をしていたように思える。あまり詳しくない自分にはこれくらいの印象でしかない。

1999年にロンドンに旅行に行った時に、本当にたまたまなのだが、DMXクルーのブレイキン・レコーズのコンピを買った。写真の引き伸ばし方が縦横比ずれているようなジャケットがひどく、面白半分に買った覚えがあるが、そのコンピが素晴らしく、エレクトロ(オールドスクール・エレクトロ)にどハマりした。DMXクルーはまんま80sエレクトロの音で、そのアナクロさみたいなものが評価されていた印象があったが、それを聴いて自分が感じたのは、懐かしさなどではなく、これはテクノ世代のポップミュージックだなということだった。

それまでは当たり前のように家でもダンスの12インチを聴いていたのだが、家で聴くのに最適なエレクトロニック・ミュージックもあるなという気持ちになり、家における音楽の聴き方がちょっと変わったような気がしている。
その流れで、アイデアのたくさん詰まったブレイクビーツの音楽も、家で聴く用の音楽として好んで聴けるようになっていったという経緯がある。

A2: Spandex Man

ファンクっぽいギター&ベースのサンプルとブレイク・ビーツと電子音。それらの抜き差しだけでこれだけ楽しげでノリの良い音楽を作れるというのは、眼から鱗と言うか、そのシンプルさに結構本気で驚いてしまった。BPMの割に縦乗りが可能な感じもすごく良い。

A3: Get a Move On!

ビバップのようなサンプルに四つ打ちのキックというスタイルで音数も大変少なく、ヴィラロボスに近いような気がする。勘違いかもしれないが、雑に言ってしまえば、ヴィラロボスのFizheuer Zieheuer以降2007年あたりに流行ったミニマルテクノ+古い音楽のサンプルの源泉の一つなのではなかろうかと。知りませんが。

B1: Jus Jus feat. Roots Manuva

ルーツ・マヌーヴァのラップをフィーチャーしたオーソドックスなヒップホップ。ずっとこれを聴くのは正直きついが、バラエティーに飛んだアルバムの中でこういうのが流れるととてもハマる。

B3: So Long

ビブラフォン系とエレキギターの鳴るルパン三世ぽいジャズ。とても夜的。こういった質感の音楽はほとんどオリジナルでは聴くことがなく、ハウスだったりこういったブレイクビーツものでしか聴いたことがない

C1: Travelogue

とても美しい、これも夜的なジャズのような曲。しっとりとした曲ながら、サンプルチョップなどもしっかりと入る、サンプリングミュージックのお手本のような曲と言ったら言い過ぎだが、サンプリングを使ってパーティー感ではなく、こういった手の曲を作れるのは、本当に才能豊かだなと思う。

C2: Blackpool Roll

マンボのようなサンプルに、クレジットを見る限り、手弾きのオルガンをのせ、そこに強烈なブレイクビーツを載せた横乗りのダンスミュージック。軽やかで明るくて子供でも躍り出しそうな曲。

D1: Cheeky

四つ打ちビートに、割れ気味のベース、そこにピアノサンプルが絡み、80s的なボーカルサンプルが乗る、非常にタイトなダンスミュージック。吉祥寺にこのタイトルと同じ名前のDJバーがあり、いつかのこの曲をそこでプレイするのが夢でもあります。

D3: Fish

モッコモコのバックトラックに、ボーカルサンプルが乗るスタイルの曲で、これも元は昔のポップスとしてのジャズ的なサンプルか。コミカルでもありつつ、カッコ良さも、和み要素もあるというセンスの光るトラック。CDもレコードもこれが最後の曲として決めているので、そういう役割の曲なのでしょう。

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このアルバムを聴いていて、ブレイクビーツものはアルバムに限るなと改めて思いました。彼のセンスがあり過ぎるだけなのかもしれませんが、サンプルさえあれば無限のバリエーションの楽曲が作れそうな気がしてきます。この90年代後半くらいの時期のブレイクビーツのアルバムは中古盤屋でかなり安く手に入るので、とても買い易いです。

まだブレイクビーツのアルバムを数多く揃えているわけではないので、このアルバムの世間的評価などがどれほどなのかもよくはわかりませんが、これだけ楽しめるアルバムはなかなかないのではないかと個人的には思います。その世界では名盤とされているといいなと思うくらい素晴らしいアルバムでした。

余談ですが、こちらはフランスのアーティストですが、この頃Mr. Oizoという人もいて、この二人がごっちゃになっておりました。

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