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Vol.5 - Khruangbin / Mordechai

Khruangbin /
Mordechai
(2020)
Dead Oceans

初めて彼らの存在を知ったのは、友人に教えてもらったMVだった。アジア人のおばちゃんがフラフープを腰で回しているフリをずっとしているMVで、絶えずニコニコと幸せそうに腰を振るおばちゃんがとても愛おしくなる素敵なビデオだが、シュールでもあり、音の方もアジアっぽいと言うかファンクぽいというか初めて聴くような昔からあるような何とも言えない気分になる不思議な音楽だった。

早速調べるとタイ・ファンクに影響を受けたテキサスのバンドであるとのことで、ますます?が止まらなくなった。タイ・ファンクなるジャンルも初耳だったし、何より彼らのビジュアルが強烈で只者ではない空気が漂っていた。

出落ち感のあるバンドかしらとちょっと甘く見ていた節もあり、2019年のフジロックに行った時に、彼らのライヴがあったのだが、「心地よさそうだしボケーっと観ようかしら」と椅子を持って後方に座っていた。しかし、登場して音を奏でた瞬間にびっくり仰天してしまい、前列まで大急ぎで移動した。

ギターはカツラと思しき前髪ぱっつんのような長髪(ゆらゆら帝国のベース的)で、格好はラメ入りかと思うほどキラキラ光るヘビ柄の上下スーツ。エフェクターをふんだんに使用した時折シンセの音かと聴きまがえるような音を超絶テクニックで奏でるガタイのいい男性、Marko。

ベースは70-80年代の女性のようなズボッとした黒髪で、花柄のような派手めの柄の七分丈、七分袖のブルース・リーのような格好で(途中でピンクレディーへとお色直しあり)、時折ユラっと膝を曲げるような動きをしながら淡々と正確にメロディアスなベースラインを刻む女性、LL。

そしてドラムは、アフリカの民族衣装のようなポンチョぽい服装で、これ以上無いほどの無表情で延々とマシーンのように叩き続ける男性、Deej。

たった三人で異常なほどグルーヴ感のある演奏をし、基本無表情で淡々としながらギャグなのか本気なのかわからないアクション(電話がかかってきてそれを取る、ワイングラスで乾杯をするなど)を挟むというエンターテインメントとしても超一流なライブで、大笑いしながらもひたすら踊り倒してしまった。間違いなく個人的にはあの年のベストパフォーマンスは彼らであった。

また来日するようなことがあったら絶対に行こうと思うし、行った方が良い。チャーミング過ぎるだけでなく、めちゃくちゃ踊れて一発でファンになるに違い無いと思う。

ちなみに椅子は高いヘリノックスではなく、安物の偽物だったので盗まれるようなことはなく無事に回収できた。(フジロックには椅子泥棒が多くいるらしいので注意)

A1: First Class

アンビエントとも呼べるようなゆったりと始まる1曲め。ボーカルには深いエフェクトがかかっており歌らしさはなく、代わりにベースラインがまるでメインメロディーのように鳴っており、軽いミニマルなドラムと、軽い賑やかしのようにエフェクターがかかりまくったギターが鳴る。まるで夜の始まりを祝福するかのような、これから始まる楽しみの準備のような曲。

A2: Time (You and I)

先述のビデオの曲と似た方向性のボーカルトラック。ただし、ベースラインが超メロディアスで、ボーカルがサブのようにすら思える。走るリズムと、ワウワウと鳴るギターのコンビネーションが、ノリにのっており、体の揺れが止まらない。クルアンビンのオーソドックスなスタイルとはこれなのかもしれない。

A3: Connaissais De Face

まんが日本昔ばなしのような曲でずっこけそうになるが、これはこれで山の中で聴いたらめちゃくちゃ気持ち良さそうでもある。この曲では流麗なギターがメインメロディーを奏でている。ボソボソと呟かれているのは、フランス語であろうか?知らないが。

A4: Father Bird, Mother Bird

こちらもA3同様、とろけてしまいそうになるギターが美しいまったりとした曲。ただし緊張感はあり。この旋律もアジア的に感じるが、これがタイらしさなのだろうか?アトロクのタイ・ポップスには無い感触だが、「不思議」と感じる曲かもしれない。

A5: If There Is No Question

珍しくサビのようなボーカルが聴ける曲で、大きくアレンジが変わるわけでは無いが、途端にポップスとも言えるような軽やかな曲になっている。これまでのアルバムでは若干退屈になる時があったのだが、こういった曲を挟むことで、このアルバムをとても聴きやすいものにしているのではないかと思う。

B2: One to Remember

のちに紹介するSo We Won't Forgetの序章のような、インタールードというか、ディレイを多く使っていることもあり、ダブバージョンといったところか。

B4: So We Won't Forget

このアルバム屈指の名曲で、彼らのこれまでのキャリアの中でもベストとも言える出来の曲だと思う。跳ね回るギターとベース、明るくはしゃいでいるようなドラム、そしてボーカルのメロディーという組み合わせはこれまでにないような多幸感を得られる。きっとMTV全盛の時代などであったら一日中この曲が流れているのではないかと思う。

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今までの作品はアンビエント感覚で聴いていたところがあるのですが、あのライヴを体験して自分の意識が変わったのか、このアルバムはフィジカルな歓びが増しているように感じました。

トータルの出来もジャケットも最高傑作だと思いますので、是非いい音でより多くの人に聴いてもらえたいなと思える作品です。

ちなみに先述、マイブラ特集がされていたために、ギターマガジンを生まれて初めて買ったのですが、ギターのMarkoが連載を持っているようでした。

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