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Vol.7 - Benny Sings / Music

Benny Sings
Music
(2021)
Stones Throw Records

ベニー・シングスはオランダのミュージシャンで、かなり前から活動しているようだが、実は自分が知ったのは一昨年くらいのこと。コーネリアスと一緒に作った曲があるとのことで初めて耳にした。

ジャザノヴァのレーベルなどからもリリースしていたらしく、初期はクラブミュージック寄りのサウンドであったのかもしれないが、自分の耳には恥ずかしながら全く届いていなかった。

今の音を聴いても、クラブミュージックを作っていた人の作品とは思いづらい、ピアノ主体の軽やかで素敵なポップスで、先述の「City Melody」というアルバムもポップな音によく似合うイラスト調のジャケットが可愛らしい良作であった。

そんな音楽性から、本人は洗練された好青年を思い浮かべていた。なので今回の、この乞食然とした風貌で、口を半開きにした姿のジャケットには少なからず驚かされた。がっかりしたわけではなく、むしろ信頼を持った驚きであり、これからも応援したい。

しかし、このストーンズ・スローというレーベルはヒップホップのレーベルだと思っていたのだが、本当に幅の広い音楽をリリースしている。ミュートのようなエレクトロニック一筋のようなレーベルもいいが、ヒップホップが一番好きだけど、いい音楽であればなんでもという姿勢もある意味筋が通っており、こっちの方ができそうでできない気がする。

A1: Nobody's Fault

同じリズムのキーボードの音が延々と刻まれながら、高めの優しい歌声で素敵なメロディーを奏でる曲で、一曲目からグッと引き込まれる。彼の全ての楽曲に共通するのだが、ドラムの音がとても気持ちよい。手数は多くないがレコードで聴くとより良く聴こえてしまうのはこのドラムの音の仕業かもしれない。

A2: Here It Comes

物憂げなメロディーと雰囲気だが、悲しさというよりは気怠さとものんびりとも言えるような雰囲気の曲。アンニュイとも言えるかもしれない。この曲はドラムが打ち込みのようだが、生に近い音ではある。このシンプルビートにシンセが絡むスタイルで、クレジットによると演奏も全て彼一人で行っているらしい。

A3: Sunny Afternoon

タイトルの通りとても落ち着いた曲で、再びバンドスタイルに戻るが、質感は打ち込みの曲とさほど違いはない。しかし最後の方に入るストリングスの音が若干の豪華さを演出してくれる。

A4: Rolled Up feat. Mac DeMarco

細野晴臣の「No Smoking」にも出演していたMac DeMarcoとの共作。マック氏のことはよく知らないので、この共演に感慨などは全くないのだが、休日にゆっくりしている時に流れたら嬉しいとても良い曲。

A5: Lost Again

これはどこかで聴いたことがあるようなメロディーで、カヴァーなのかと思い調べたが、彼のオリジナル曲のようであった。車のCMか何かで聴いたことがあるようなお馴染み感のある素敵な曲。途中ヴォコーダーなども入ったりしてアップテンポではあるが盛り上がるようなことはなく、あくまで日常的。

B1: Break Away

イントロから入るストリングスが出過ぎず心地よい。ポップスの見本のような曲で、マイケルジャクソンが「本当にいい曲とはピアノ一台で弾いても良い曲だ」と以前言っていたが、シンプルなアレンジで展開される彼の曲を聴くとその言葉を思い出す。

B3: Run Right Back

最近、ソウルミュージックを少しずつ買い集めているのだが、この曲を聴くとボーカルスタイルこそ異なるものの、ソウルなどのブラックミュージックの要素を感じる。サックスの音が入るからなんて単純な理由ではなく。Stones Throwから出ているのはこの辺りの仕業なのかもしれない。自分が詳しくないから気付かなかっただけで、これまでの曲もとてもブラックミュージック的な要素に溢れているのだろうか?

B4: Miracles feat. Emily King

女性ボーカルとの共演でピアノの音がとても気持ち良い。ポップさ全開で、途中ゴスペル的なコーラスまで入るのだが、決して下品にはならないこのアルバムは本当に素晴らしい。そしてやはりブラックミュージックの影響は小さくないのかもしれないなという思いが強まる。

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徹頭徹尾、良質なポップスで、延々と流していられるようなタイプのアルバムです。何度も書いているようで恐縮ながら、ピアノとシンプルなドラムとベースが基本なのですが、ベン・フォールズ・ファイヴのようなダイナミックさ(ロックさ?)とは無縁の休日散歩型のポップスです。先述の過去作よりも格段にポップネスが磨かれており、圧倒的に今作の方が優れているように思えます。

だいぶ違うかもしれませんが、ドラムの質感は何と無く堀込泰行の最新作、「Fruitful」に近いような気がしております。もう一度書きますが、勘違いかもしれません。

いずれにせよ、うるさい音はいらないけど何か耳寂しい時などにはぴったりだと思いますよ。

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