龍ちゃん

デザイナー。趣味で映像とか文章とか写真とか。 Instagram→https://w…

龍ちゃん

デザイナー。趣味で映像とか文章とか写真とか。 Instagram→https://www.instagram.com/ishiryu3 website→http://ishiryu3.pb.design

マガジン

  • 短編小説

    短編小説集。 ぜんぶ一話完結。

  • 個人制作【デザイン・映像】

    載せれそうなもの載せます。

最近の記事

今日はバレンタインデー

【1】 水深1.35メートル、幅12.5メートル、長さ25メートル。 水量にしておよそ422立方メートルを貯水できる我が校の25メートルプールには、高純度の濃硫酸が張り巡らされていた。 濃硫酸から発せられるミストの影響か、辺りの空気は心なし歪み、赤紫色に変色したよう錯覚する。 中の液体のほか、一般的なプールと比較した際に生じる最も大きな差異は、プールの上面一帯が巨大なランニングマシンで埋められていることだった。 ランニングマシンは全部で8コースあり、それぞれのコースで速度

    • +6

      直近イラスト集

      • ベッドメイクの街

        【 first half 】 視界の端から端までに満遍なく君臨する比叡山は、巨大な蛞蝓(なめくじ)によって覆い尽くされていた。辺りに充満している甘さと刺激とが混在した魔性的な香りは、どうやらこの蛞蝓が出処のようだった。 私の傍には、2年ほど前に死んだ元彼がニコニコした顔で佇んでいる。巨大な蛞蝓を指差しながら、「おで、あの蛞蝓が、すき」と囈言のように繰り返す。 見ると元彼は、目を見張るほどの大きな骨壷を抱えていた。聞いていると、どうやらその骨壷の中に、あの蛞蝓の体液を注いで

        • カエサルの瞳

          友人の牧田が校内でゲリラ的に開催するバザー(基本的には牧田の実家に眠っていたガラクタの叩き売り)、『マキタスポーツ』が、今日も懲りずに開催された。 マキタスポーツの品揃えは壊滅しており、大抵は2、3品しか売られていない。以前、牧田が母親と喧嘩をした際には、『活きのいい熟女』と称された牧田の母が3万円で売られていた。 「このコラショの目覚まし時計、なんで5万円もすんの?」 「バカ!小学生の頃の俺が、毎晩愚痴をこぼしていた相手だぞ。そんなに易々と手放せるかよ」 「なら売るな

        今日はバレンタインデー

        マガジン

        • 短編小説
          15本
        • 個人制作【デザイン・映像】
          5本

        記事

          RUKO

          海底でのっしり息を潜めているような、素晴らしく愉快な夜を過ごしていた。俺の全身を覆うこの倦怠感は、きっと水圧に違いない。多幸感は酸素だ。まるで魂魄がぺりぺり剥がされてゆくように、緩やかに俺の口から抜け出てゆく。 「四面楚歌なんて言葉を、楽しい飲みの席で遣っちゃいけない」 昨晩、たまたまバーで隣り合ったおじさんの言葉を思い出した。その時は俺も良い具合に酔っていて、アル中の戯言もありがたいお説教くらいには聞き入れていた。 「はあ、それじゃあなんと言ったらいいんです」 「三

          イカロスの墜落のある風景

          【 僕の章 】 彼女と別れたきっかけは、今思えば些細なことだったように思う。 当時、彼女が僕に昨日購入したばかりだと言うリップライナーを見せてきた。きっと彼女は、僕に可愛いねであるとか、綺麗な色味だねとか、そう言うことを言って欲しかったのだろうけれど、何を血迷ったか、僕がそのとき言った感想は「実家で買っている犬のペニスみたい」だった。 ねえなにそれ。どういうこと。彼女が僕に詰め寄る。 「犬のペニスには、陰茎骨と呼ばれる骨が付いている。だからと言うわけではないが、そのリ

          イカロスの墜落のある風景

          アマニータ・ビスポゲリゲラ

          睡眠薬は、もともと寝付きが悪いという理由から服用していたものなのだけど、酒の飲み過ぎなのか煙草の吸い過ぎなのか、はたまたそのどちらもなのか(どちらもなのかもしれない)、何にせよ最近のおれにはてんで効かなくなってしまった。 医者が言うには日に2錠が限度らしいのだが、そもそも質のいい睡眠を手に入れたいがために処方してもらった睡眠薬を、身体にわるいとか肌が荒れるとかいったくだらない理由から制限していたのでは本末転倒だと思った。別におれは多少体調を崩すくらいならば気にしないし、肌に

          アマニータ・ビスポゲリゲラ

          たけし君の学級裁判

          「先生!たけし君が学校にエッチな本をもちこんでます!」 ホームルームの最中、クラスメイトの芳子ちゃんが元気よく叫んだ。その隣で、たけし君がぷるぷると震えながら座っている。滝のように流れる脂汗は、まるでシャブ中のごとくだ。 「ばっ!バカ!僕がそんな、いかがわしい本を持ってるわけがないだろう」 「たけし君、本当ですか?」担任の麻理先生が、目を細めて問いつめる。麻理先生はいつもはとても優しいのに、怒るとこわい。彼女の大柄な体型は、見るものすべてを圧倒する。優しいときの麻理先生

          たけし君の学級裁判

          adventure girl

          adventure girl

          針供養の日

          僕の右手の中指と人差し指の隙間から、大きな浅間山がみえた。 「大きな山だよな。それに少しごつごつしてて、なんだかムカムカしてくる」 「りゅうちゃん、ほら、よく見てごらんよ。浅間山はそんなにごつごつしてないよ。どちらかというと、丸っこいくらいだ。なんだかかわいくみえてくるだろ」 「ああ、本当だ。確かに丸っこい、お坊さんのあたまみたいなかたちだ。それなら僕がなでてやろう。ほら、よしよし、よしよし」 僕は遠目に見える浅間山のちょうど山頂あたりの位置で、両手をわしゃわしゃとや

          針供養の日

          余生も半ばを過ぎて

          ちょっぴり辛いお酒を少々と、それほど強くない煙草を少々、それと、新種すぎて恐らく違法性も認知されていない(されていたらごめんなさい)ドラッグの力を借りて書き上げた僕の新作小説『余生も半ばを過ぎて』の原稿が、なぜかレイ・ブラッドベリの短編『とうに夜半を過ぎて』にタイトルはおろか中身まで酷似しているという理由で没になってしまった。 なにがブラッドベリだと僕は思った。 ブラッドベリだかブラパットベリベリだか知らないが、僕が死に物狂いで捻り出した妙案を、あろうことかこのジジイは、何

          余生も半ばを過ぎて

          ゴリラを捨てに

          ゴリラを山に捨てにいくことになった。 以前ガボンへ旅行に行ったとき、おれの母ちゃんはZOZOTOWNで買ったというでかいカバンを持参していった。母ちゃんはZOZOTOWNのカバンはでかくていいぞと言った。おれがそうだねと返すと、母ちゃんはこれならゴリラだって入ると豪語した。 おれはさすがにゴリラは入らないだろうと言ったのだけど、母ちゃんは群れから逸れたゴリラを一頭捕まえると、すかさずZOZOTOWNのカバンの中に詰めた。ゴリラはミチミチといって詰まった。正確には詰まったの

          ゴリラを捨てに

          心が雨漏りする夜に

          おれは市内のボロアパートの一室で目を覚ました。 昨晩から降り続く雨は、未だ止む気配がなかった。ほのかにカエルの死骸の匂いが漂う。 隣には薄汚れたお爺さんの遺体があるけれど、それにしても、随分と気持ちよく眠れた気がする。 いつもは公園のベンチの上だったり路地裏のダンボールだったりで睡眠を摂っているので、おれのそれは睡眠というよりは気絶に近かった。その日は久しぶりに出向いた派遣先の日当を手にしていたので、たまには泥酔して寝るのも悪くないと思いおれは薬局に向かった。 昔からの

          心が雨漏りする夜に

          わがままな妻

          『モンブランのケーキが食べたいから、帰りに買ってきてね』 妻からのメールが表示されたスマートフォン端末を覗き込み、僕は右手に持っていたショートケーキの入った袋を力なく揺らした。先ほど届いたメールにはこれを買ってこいと書かれていたのだけど。 僕の妻はわがままだ。ついこの間は新しく発売されたゲーム機が欲しいと言って聞かなかったので会社の帰りに買っていってあげたのだけど、どうも妻には向いていなかったようで、すぐに飽きて触らなくなってしまった。今では専ら、休日に僕のプレイを隣で見

          わがままな妻

          魔人伝ババア

          ぼくの町には魔人伝ババアが住んでいる。 年々ボケが進んでいるのか、今では夜な夜なヘルメットの代わりにキャベツを被って町を徘徊しているのだ。言うまでもなく、あくまで『徘徊』のため頭を守る必要はそれほどはない。 みなさんは魔人伝と聞いて、さも恐ろしい老害であると思われたかもしれないが、実際は魔人と称されるほどには魔人じみていない。 ただ魔人伝ババアは子供が大好きだ。もっと言うなら男の子が大好きで、ぼくたち小学生の男子にいつも絡んでくる。魔人伝ババアは毎回ぼくたちに「おちんちん

          魔人伝ババア

          パピルス紙、もしくは雑多庭園

          僕はペリカンを生涯のうちに3度見たら死ぬ。 これは比喩とかそういうことじゃなくて、物理的に本当に死ぬ。実際に死んだことが無いから詳しいことは言えないのだけど、聞いた話だと四肢がもげて内臓が爆散、その後散らばった肉片にはペリカンがたかり生首はヒグマが持ち去って山で崇めるのだそうだ。 なぜ僕がこんな体質なのかはわからない。しかして僕は、こんな体質なのだ。 どうやら2度までならなんの問題もないらしいのだけど、当然、僕だって疑問に思ったりはする。果たしてペリカンごときが複数回視界

          パピルス紙、もしくは雑多庭園