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過去のレコ評(2018-3)

(2018年「SOUND DESIGNER」誌に寄稿)

「Always Ascending」Franz Ferdinand
Hostess Entertainment Unlimited
HSE-1291

ブラックミュージックが「ベッドでその気になるため」の音楽だとすれば、彼らの音楽は「トランス状態にぴったり」な音楽だ。踊れるロックと言われたデビュー当時から、その作風に変わりはない。元気はつらつでもなく大笑いでもない。ただ気だるく踊りながらシニカルなユーモアを漂わせている。その音楽的特徴はどこにあるのか。MVが公開されている9曲目の”
Feel The Love Go”のコードワークを見てみよう。隙間の多いB♭のリフが続き、フックはB♭→A♭→E♭m→Fmという循環に至る。ところが2コーラスが終わり、いきなりAに転調する。かと思いきやA→Bm→F#→G→G♭m(=F#m)という謎の展開を経て、何食わぬ顔でB♭に戻ってくる。しかも奇数小節を挟んで。なんだこれは。頭がクラクラしてしまう。安定していた地面が揺らぐ感覚。ということは冒頭の目的にぴったりではないか。

「The Thread That Keeps Us」CALEXICO
P-VINE RECORDS
PCD-24693

バンド名はアメリカアリゾナ州南端の地名。アメリカのインディーロックとメキシコの緩さの同居が特徴。ドラム・ベース・ギターを主体にし、要所にオルガン。過去の作品ではホーンが印象的だったが、今作でも何曲かで聴ける。どの曲においても音の処理が70年代っぽい。特にボーカルの録音と空間処理が中域に偏っていて懐かしい質感だ。聴き比べると、前作よりもその傾向は著しい。デビュー当時のミックスに、現代のマスタリングが施された音。アルバムの後半はますます緩さを増している。少し前ならサーフミュージックというジャンルにも分けられていたかもしれない。(実際ボーナストラックに”ロングボード”というインスト曲がある。)西海岸の午後に似合うアルバムだ。

「Sugar」浅井健一&THE INTERCHANGE KILLS
SEXY STONES RECORDS
BVCL-864

ああ、1曲目からやられてしまった。フィッシュアンドチップスの食べ方や皿の洗い方がロックになってしまうのは、浅井健一のチカラ。アルバムを通して、生々しいロックでありながら色っぽい。ドラムスはちゃんと歪むことで録音限界を感じさせエモーショナルだ。しかし音量が抑えめな分、マッチョさは影を潜めている。ミックスエンジニアには中村創を中心に、80年代から日本のロックに携わってきたマイケル・ツィマリングが参加。他には深沼元昭(Plagues
etc.)も参加しており、整然とした周波数使いに人柄を感じる。そしてバーニーグランドマンの山崎翼による攻め過ぎない機能的なマスタリング。8曲目”Fried
Tomato”の空間系エフェクトが好みだ。個々人の丁寧な仕事が官能的なロックを支えている。

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