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過去のレコ評(2018-11)

(2018年「SOUND DESIGNER」誌に寄稿)

「Sleepless in Brooklyn」[Alexandros]

今更「バンドという形態の定義とは?」などと持ち出すのもナンセンスだが、もはや「数人で生演奏すること」などというのは狭義過ぎる。簡単に言えば「チーム」であること。では、チームであるというのはどういうことか。それは、長い時間軸で互いを必要とすること。そう感じたのは4曲目を聴いたから。REXファイルを加工したようなマシンパーカッションのイントロ。そこに被さるオクターブのボーカルは、英語の部分さえも日本語的に発音することで独特なラップになる。感情を並べるだけで状況が想像できる歌詞。ノイズやギターのハーモニクスを絶妙にちりばめるだけのアレンジ。そしてセオリー通りに弾けるサビ。でもよく聴けば、ねじれた和声が彩りを添えている。皆で持ち寄ったアイデアで新しいものが出来る。順風満帆に活動を続けてきた彼らだからこそ辿り着けた境地だ。

「The Atlas Underground」トム・モレロ

ミクスチャーロックとして政治的メッセージを発信したレイジアゲンストザマシーン。そのバンドの音楽的核であり続けたトムのソロ作。ロック的でありながらもヒップホップ要素の強いギタリストとして独自の存在だ。今作はさらに、シンセを多用してダンス音楽にも接近している。10曲目などは、サイドチェーンコンプの4つ打ちにピアノが加わり、今までのイメージを覆す内容だ。スネアの連打なども、完全にEDMマナー。一方で、8曲目で見られるワウペダルの使い方などは、レイジのファンにも喜ばれるに違いない。アルバム全体を通してスネアの音色の選び方に注意して聴くと、ダンスとヒップホップとロックを行き来する彼のスタンスがよく分かる。そして音楽を作る際の指標にもなる。

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