20181022VR保健室

VR暮らしの保健室を半年でクローズにした理由

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VALU PITCH.第1回でのプレゼンを機に、半年間続けてきた「VR暮らしの保健室」を、12月で一時クローズすることに決めた。
ツイッターでは先にお知らせしていたが、様々なご支援も頂いていた以上、その理由をきちんとまとめるべきだろう。
一応、今回については「一時クローズ」であり、終了ではない。また今後、時機を見て再開する可能性はある。
※タイムバンクでのリワードにおける「VR暮らしの保健室プライベートルーム利用権」は今後も継続する。

VR暮らしの保健室を始めたのは2018年6月。
VALU PITCH.というVR空間でのプレゼン大会で発表し、「VR空間で、遠方に離れていても、顔を出すことがなくても、医療者に気軽に相談できる場所があったら有用ではないか?」という仮説の実証空間として開始した。

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使用したサービスは「cluster」。
2017年5月に正式リリースされたVRプラットフォームで、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)がなくてもパソコン(しかも低スペックでも可)から利用できるというところが魅力だった。
VR暮らしの保健室には多くのVR初心者を呼び込む必要があり、そのためには特別な機械や高性能なコンピューターがないと入れないという環境は大きなバリアになるからだ。

しかし後々、その認識も甘かったと思い知らされる。

VR暮らしの保健室が失敗した3つの理由

では、どういったところが失敗だったのか?何の認識が甘かったのか?

まず第一に、VR空間そのものがコミュニケーションのバリアになっていることが明らかになってきたこと。
音声が遅延して聞こえたり、声が二重に聴こえたり、そもそもマイクを装備していない参加者などもいて、それぞれの参加環境によって「自由におしゃべりできる感じ」からは程遠かった。
これが、事前に打ち合わせができる参加者だけだったら良いのだろうが、VR暮らしの保健室はそういう場ではない。
VR空間へ接続する環境そのものがコミュニケーションのしにくさの原因となり、空気が悪くなる場面が多々みられた。

第2に、思った以上にVRに興味を持つ方が少なかったこと。
VR暮らしの保健室を立ち上げてから、ツイッターでもFacebookでも、多くの方に参加を促してみたが、実際の相談につながるような方はもちろん、医療者の参加も本当に少なかった。
VR自体が、まだなじみの薄いものである。
医療者は特に新奇性のあるものに対して保守的であり、興味はあっても行動に移す方が少なかったという印象だ。

第3に、これが一番大きな要因だが、最初に目標に掲げていた
「VR空間上における双方向性のコンテンツ」
を提供しきれなかったこと。
第1、第2の失敗理由のせいもあって、結果的に私と、パートナーを務めてくれた加藤Drとの対談のような形が主となり、他の参加者は時々チャットで書き込むような形になっていった。
しかしこれだとツイキャスと基本的にはほとんど変わらず、わざわざVR空間を使ってまで行うような企画ではないことが鮮明になっていった。
主催側が一方的に話し、観客側がチャットで意見を書き込み、それに対して主催側がまた一方的に話す…。とてもじゃないが、「双方向性のコンテンツ」からはかけ離れていく一方だと感じた。

VR暮らしの保健室は本当に失敗なのか

では、VR暮らしの保健室は本当にダメな企画なのか?というと、それはないと思う。
skypeやzoomのようにリアルに顔を合わせる必要がなく、アバター同士で会話ができることには大きなメリットがある。顔出しでは難しいプライベートな相談を匿名で、電話以外の方法でできるというのは、本当に対話をしているような感じが生まれることからはコミュニケーションの促進につながる可能性が高いと考えている(HMDをつけてジェスチャーも自由にできればなおさらだ)。
VRは、まだ始まったばかりで、プラットフォーム側も日々進化しているし、あと数年もすればインターネットが人口に膾炙したのと同様に、世間に広まっていくだろう。そうすれば、音声や参加者の問題も解決していく。
現時点でも、clusterはプレゼンや教育のような一方向性コンテンツにおいては大きな力をもっている。(少なくとも日本で行われているような議論の乏しい)学会のようなイベントは、今後はcluster上でやる部分があってもいいのではないか。ただこれが、双方向性に自由なコミュニケーションが取れるまで発展するには、もう少し時間が必要だろうと感じる。
そしてそれまで、VR暮らしの保健室は休止する。

結局のところ、VRはVRでしか表現できない、またはVRで表現するほうがリアルを上回るものに利用すべきである。実際に、ネット上ではVRアーティストやVR建築家など、すぐれた作品を生み出す方々が既に現れている。VR暮らしの保健室はまだその段階ではなかったということだ。
しかし、半年間その運営ができたことで得られた知見は大きかったし、未来に向けた戦略を立てることもできた。この機会を与えてくれたVALU PITCH.と支援者の皆さんに本当に感謝したい。

今後、知見がたまり、時代がまた変わっていったら、VR暮らしの保健室を再開したい。その時にはまた新しい形で企画したいと思っているので、乞うご期待。

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