ある「引っ越し」の物語 ―住み開きのギルドハウスから古民家シェアハウスへ

 「どうして十日町市(松代)の地域おこし協力隊になったの?」この問には、いつもこう答えている。「学生時代ボランティア活動で松代地域に通った経験から、”心のふるさと”であるこの場所で暮らし、松代の地域おこしに貢献したいと思ったからです。」勿論これは心からの本音である。しかし、この地に移り住みたい、との思いを実行するにあたり、背中を押してくれた場所がある。住み開きの古民家「ギルドハウス十日町」である。
 この記事では、私がギルドハウス十日町で得た経験を基に、ある「引っ越し」の物語を記してみたい。

 2018年初夏、私は人生に行き悩んでいた。年初からある地方へ「移住」していたが、様々な出来事が積み重なり「適応障害」と診断され、仕事から身を退かざるを得なくなった(この経験をめぐる思索については、下の記事に綴っている)。

 ぽっかりと空いた時間をどう過ごそうか。旅に出よう。その時、ある場所の名前を思い出した。「ギルドハウス十日町」。「住み開き」という独自のスタイルが話題となり、数多くのメディアに取り上げられ、市外から多くの旅人を呼び込んでいる場所。Facebookページを見ると、夏期の短期滞在者を募集する旨が書かれていた。「あなたのやりたいことをみんなで応援します。」折角なら、この場所でこれからのことをゆっくり考える時間をつくろう。訪問希望のメッセージを送ると、「ギルドマスター」から数十秒で返信があった。
 こうして私は、冒険者の一人となることが決まった。

 6月17日。レンタカーで十日町市の山間部へ。ほくほく線美佐島駅を過ぎ坂道を抜けると、「ギルドハウス十日町」と書かれた古民家が見えてきた。玄関を開け、「おじゃまします、今日から短期滞在する小陳です」と挨拶。すると――
「おぉ、待ってたよ、いらっしゃい。」
 と座敷の奥から手招きするギルドマスター。近くには、くつろぎ漫画を読む住人、奥にはハンモックで昼寝をする住人。
 なんて自由な空間なんだ。
 それが「ギルドハウス」に対する第一印象だった。

 ギルドハウスでは、住人はシェアハウスのような形態で暮らしている。朝はそれぞれの都合によるが、昼と夜は居合わせた住人で一緒に食事をとり、準備から片付けまでを共同で行う。自給用の田んぼ、畑も有している。夕飯後は漫画を読む、テレビを見るなど、各自がくつろぎ思い思いの時間を過ごす。そして旅人が入れ代わり立ち代わり訪れる。古民家のもつ味も手伝い、家族のような雰囲気とゆったりとした時間が流れていた。
 滞在2日目の夜、ギルドマスターから話しかけられた。「小陳くん、残りの日程で、何かやってみたいことはないかい?」「池谷集落の人に会ってみたいです」と答えた。池谷は地元住民の地域おこし活動や移住者の呼び込み等により限界集落を脱した「奇跡の集落」であり、十日町のなかでも気になっていた場所のひとつ(池谷集落も数多くのメディアで紹介されている。最近では、地域おこしの当事者による書籍として、多田朋孔・NPO法人地域おこし『奇跡の集落 ―廃村寸前「限界集落」からの再生』(農山漁村文化協会、2018年)が刊行された)。すると、「分かった。ちょっと待ってて」と言い、PCで何やらカタカタ。数分後に動きがあった。「池谷の元地域おこし協力隊の人にアポが取れたよ。明日、会いに行こう。」
 翌日、案内役のギルドマスターを助手席に乗せ、池谷分校へと向かった。お会いした方は、十日町市の地域おこし協力隊OGで、現在も地域おこしのNPOで働く方。協力隊の活動、現在の仕事、十日町市での暮らしなどについて、ざっくばらんにお話を伺うことができた。
 地域おこしの先進地として名高い十日町市。そこで地域おこしを生業とするためにはよほどカリスマ的な何かを有していなければならない、と勝手なイメージを抱いていた。しかしそれは誤解だった。このまちには多くのプレイヤー(実践者)がいる。そして、一人ひとりが暮らしと仕事を楽しみ、面白い仕掛けを次々に打ち出す。だからこそ、十日町には活気があるのだ、と考え直した。
 十日町で暮らそう。この面白い人たちと共に生きていこう。滞在最終日、そう心に決め、ギルドハウスを後にした。

「(松代に来て)元気になったねえ」
 最近、そう言っていただくことが多い。
 仕事も暮らしもまだ「慣れていく」段階である。それでも、現在の生活は楽しく充実している。”心のふるさと”松代で暮らせていること、学生時代から憧れを持っていた「地域おこし協力隊」として働けていること、それだけでも十分に幸せである。休日も行事の手伝いやイベント参加など、人と関わって何かを楽しめる機会が多い。新しい趣味(フルート)もできた。引っ越し前に不安を抱えた時もあったが、今はこの決断をして本当に良かったと感じている。
 先日、住人の送別会に参加するため、ギルドハウスを再訪した。ユニークな住人の方々と懐かしい雰囲気に迎えられ、この場所と出会えて良かったな、と改めて思った。2月の「豪雪パーティー」が今から楽しみである。

 ところで私は、「移住」という言葉をあまり使わないようにしている。
 この言葉は、大都市圏からそれ以外の地方、あるいは都市部から農山漁村に移り住む(そして多くの場合、同時に仕事も変える)行動を指して用いられる。もちろん、それは人生における大きな決断である。そして、環境を大きく変えるにあたりそれなりの準備は必要である。しかし、行動の実質は「引っ越し」(と「転職」)である。「ふるさと回帰」「ダウンシフターズ」「ローカルキャリア」といった言葉を用い、新しい人の流れを促そうとしているのに、大袈裟な言葉を用いて決断のハードルを上げてしまうことには違和感がある。自分に合った場所で、好きなことを仕事にする。そんな生き方を叶えるための手段の一つが「移住」、というだけのことである。
 あえて「移住」について語るならば、重要なのは決断の「後」である。移り住んだ土地、新しく始めた仕事にどうなじみ、その場所での生活を確立していけるか。「移住」は目的ではなく、最初の一歩に過ぎない。来年は元号も変わり、新しい時代が始まる。私にとっても、この地での暮らしが本格的に始まる年となる。「地方で暮らす×楽しく働く×ふるさとを元気にする」をライフワークにする。松代と早稲田の架け橋になる。「引っ越し」の目的を叶えるため、一歩ずつ進んでいきたい。まずは、この豪雪地で冬を元気に越すことが当面の目標である。

 こうして記事を綴りながら、「引っ越し」を決めたのは私自身だが、想いを温かく受け止め背中を押してくれたのは、ギルドで過ごした時間だったのだな、と改めて思う。
 人生に行き悩むあなた。地方暮らしやコミュニティに興味があるあなた。なんとなく十日町が気になるあなた。ぜひ「ギルドハウス十日町」を訪れてみてほしい。あなたが動けば、そこにはあなたを変える出会いが待っている。

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