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ラジオドラマ脚本 025(長文)

登場人物

荒石雪雄【アラセキユキオ】39歳
 自然に憧れているプー太郎。都子という彼女がパワーの源。ミスターポジティブ

相良都子【サガラミヤコ】29歳
 プー太郎の雪雄と結婚を望んでいるが。性格的に素直になれない頑固女子。

鉢呂征男【ハチロイクオ】47歳
  雪雄のカウンセリングの先生

上川役場 職員

あさひ総本店 店主

【あらすじ】
荒石雪雄、震災からの心の傷も癒え、自分の人生を取り戻すために、東京から北海道に移住し、人生の再起を考えている。最愛の都子とともに。都子は、今回の旅が、どのような意味を持つのかも、分からず、のんきに同行している。雪雄の日頃のチャラい言動に腹を立てる事もしばしば、今回の北海道旅行に関しては都子も少しばかりの覚悟を決めていたのに。その気持ちを隠すように「大好きな!味噌ラーメンが食べたい!」という意味不明な行動を起こしたりする都子。雪雄は、都子の事を寛大な心をもって包み込んでいこうと思っている。上川町の夜、今にもあふれ出しそうな星の群れの下、二人の気持ちがすれ違い、意見を戦わせる二人。雪雄のは、いつでも、都子を受け止め守り通そうとする気持ちを伝えようと頑張る雪雄、愛されている事を上手に表現できない都子。


(N) 機内アナウンス 旭川の天気。晴れ時々曇り。気温23度。湿度40%

雪雄「俺には、朝の太陽がよく似合うよ!都子!都子!来たぞ!旭川!よし、レンタカーを借りて、目指すは、大雪山系の麓、上川町!」
都子「あまり興奮しないでね。面倒くさくなるし、ろくな事がないんだから」
雪雄「新天地で心機一転!わかってるって!」
都子「なに?心機一転って?どういう事?」

(N) レンタカーカウンターを目指して、意気揚々と歩く雪雄さん。興奮を隠せないようですね。

雪雄「すみません!予約を入れた荒石です。店員さん、いますか?」

店員「はい、はい、はい!少々お待ち下さいね。」

(N) 店員にプリントアウトした書類を渡す雪雄さん。

店員「車のご確認をお願いします」
雪雄「はい!はい!問題なしおくんです」

(N) 雪雄の腕を引っ張る、都子さん。

都子「ほら、もう、ちゃんとしてよ!何度も言わせないで、お願いだから」
雪雄「わかった!わかったから!わかったよ!」
都子「もう、その三段活用みたいなの言わないでよ!変なんだから!」
店員「あの?こちらが、キーになります。満タン返しでお願いいたします」

雪雄「都子!いくぞ!上川町まで、かっとばすぞ!」
都子「ゆっくりで!いいよ!」

(SE) エンジンの音が切れ、ドアの開閉音

雪雄「都子!着いたぞ!上川町!都子が寝てるうちに到着!俺のスムースな運転が心地よかっただろう!」
都子「もう!着いたの?」
雪雄「ほら、見てみろよ!大雪山系が目の前だよ!凄くないか!なんか、もう、わかんないよ、凄すぎて!風の中にローズマリーの香りがするなんて、もう、信じられないよ」
都子「もう、大袈裟なんだから。ほんと!なにこれ!どうしたらいいの?雪雄!どうしよう!ねぇ!」

(SE) 風の音

雪雄「想像を超えてるよ!なぁ!都子。」
都子「大好きな味噌ラーメン、美味しいかな?ねぇ、味噌ラーメン!味噌ラーメンだよ?聞いてるの?ねぇ?」
雪雄「はい!はい!はい!聞いてるよ!夜は、ラーメンににしよう!北海道に来てラーメン食べないなんて、カッパのいない石狩川みたいだからな!俺は、これから、役場で色々と話を聞いてくるからその間に、お店を見つけておいてくれよ!」
都子「カッパって?なに?」
雪雄「そうだよ?カッパだよ!都子、知らないのカッパ?カッパを知らないなんておかしいよ?」
都子「別に、おかしくないでしょ。そっちこそ、なんで?カッパ?変なの?」

(SE) 役所の扉が開く音

雪雄「すみません!すみません?移住について、聞きたいことがあってきたんですが?」
職員「はい!はい!はい! ちょっと、待って下さい」

雪雄(M)返事は、一回だよ。

雪雄「ここに、座ってもいいですか?」

(SE) スイングドアの開閉音

職員「はい?お待たせしました。移住の事ですね?」
雪雄「上川町移住定住計画というのをホームページで見て、こちらに伺ったのですが」
職員「はい、移住する案件は、私が伺います。道内の方でしょうか?」
雪雄「いえ。東京からの移住を考えています。これといった親戚もいないし、さらのままで移住を考えています」
職員「最近は、そのような方も多いので、心配はいりませんよ。仕事については、どのようにお考えですか?やはり、酪農とかですか?」
雪雄「農業をしてみたいと思っています。経験もないんですが、おそらくですよ?おそらくですよ?本当に、おそらくですよ!僕、簡単にこなせるような気がするんです!カッパの川流れみたいな?」

職員(M)三回は多いっしょ!

職員「えっ?それって。カッパの川流れじゃないですよね」
雪雄「何言ってるんですか?カッパですよ。カッパ!知らないんですか?カッパですよ!」
職員「はぁ~」
雪雄「農業と住居に関しては、ご紹介頂ける。ような事が書いてあったと思いますが」
職員「その点は、ご紹介可能です。条件は、ありますが」
雪雄「その点は、大丈夫です。お任せ下さい。問題はありません」
職員「ポジティブな方ですね!でも、そのくらいの人の方がこの田舎では、向いてるかもしれませんね」
雪雄「そのことに関しては、超が付くほど一流です」
職員「ほんとに、すごいや」
雪雄「この書類を書いて、審査を待つんですね。もう、合格ですよね。僕のこの誠実な個性をみたら!ねぇ!」
職員「さて、どうですか?今夜は、この辺りに宿泊ですか?」

雪雄「オートキャンプ場に泊まろうと思っています。こうみえて、料理は得意なんです。何でもそつなくこなす男です!」
職員「夜は、この辺りは、冷えますので、ご注意下さい。気温の変化を舐めてはいけませんよ」

(SE)自動車のドアの開閉音

(N)レンタカーの車内で、都子さんがネット検索の真っ最中です。

雪雄(M)動き出したんだよな。これからは、自分の人生を楽しむためと、都子を楽しませるためにこの土地で、あらたな人生のリセットだよ。

都子「なんだか、真剣な顔をしてるけど?似合わないよ。この先の事が、不安でしかたないとか?」
雪雄「将来の心配なんかするかよ。それよりも、味噌ラーメン見つかった?こんな田舎だから、数軒規模だろう?おそらく」
都子「正解!流石に鼻がきくね!」
雪雄「くんくんくん」
都子「変態にみえるよ」
雪雄「いまさ、役場で話を聞いてきたけど、上川町定住計画は、使えそう。都子と、ここで住む場所も、助成金もしくは、補助金がもらえそうだよ!やっぱり、俺は、引きが強いね」
都子「調子に乗るなよ。」
雪雄「なんだか、母親に似てきたなぁ」

雪雄(M)女の人は、皆、素敵な美人でも、歳をとると口うるさくなるものなのかなぁ。

都子「雪雄は、さあぁ、なんで今回の移住を考えたの?前から?」
雪雄「東京の生活のテンポが、ずっと合わないと思っていたんだよね。最初は、プー太郎の原因だと思っていたけどね。これは、俺の勘違いだった」
都子「へぇー、判ってたんだ。びっくり」

雪雄(M)おい、都子、いいすぎだぞ!

雪雄「いつも、どこかで、変えたいと思っていたんだ。非正規雇用からも。あるとき、テレビで農業を株式化することで、将来性のある職業になるみたいなのがあって、その中で、農家は、食べるものには困らない。というのを聞いて!これだと!」

都子「相変わらずの閃きと根拠のない自信だね。」
雪雄「人生なんて、ケセランパサラン!」
都子「なに?それ?」
雪雄「ケセランパサランだよ!ケセランパサランって!ケサランパサランだよ?知らないんだ。都子って、言葉を案外知らないよね」
都子「三回は、しつこいぞ!それをいうなら、ケセラセラだよ、雪雄!」
雪雄「大事なことを見つけたんだよ」

雪雄(M)大丈夫、なるようになるさ。俺には、女神もついてるし。

都子「大事なこと?君に?大事なことがあったの?」
雪雄「失礼だぞ!都子!大事なことは、今夜の味噌ラーメンに決まってるだろう。俺、トッピングでコーンとバター!都子は、どうする?」
都子「私は、叉焼は外せないかな」

雪雄「いいね。叉焼をまず、つまみで頼んで 、生ビールで流し込んで二人の未来に乾杯だ!」
都子「なに?二人の将来って?雪雄はさぁ、今後のこと、どんな風に考えてるの?チャラい感じにしか聞こえないよ」

雪雄(M)ちゃんと、向き合わないとだめだよな。

(N)震災から一年。雪雄さん、やっと、精神的に落ち着きを取り戻してきました。週一のカウンセリングが効果を上げているよう。

雪雄「あんな事が起きても、都会に暮らす俺は何も出来ず、そして、自分ひとりのことでいっぱいいっぱい、ほんと、いっぱいいっぱい。どうしたら、よかったんだろう。と、いつも、頭の中で考えてしまうんです」
征男「雪雄さんは、少し、物事を重くとらえがちですね」
雪雄「あの震災ですよ。重くとらえない方がおかしくないですか?俺は、今でも、あのキノコ雲の映像は忘れられません。そして、あんな状況化でも、朝、会社に向かう人の群れが、今でも、俺には、信じれない光景だったんです。会社しかない人生ゲームの終了が見えた気がしたんです」
征男「そうですか?でも、今は、そこまで冷静に自分のことを振り返られるようになったのはひとつ前進ですね」
雪雄「自分の人生、債務でも、リスクでも、いくらでも負う覚悟はあるんです。ただ、会社という組織の中で自分の意思とは関係無しに、飼い殺しに合う恐怖には、もう耐えられないんです」
征男「雪雄さん、大丈夫です」
雪雄「あの時以来、会社組織が無責任な気がして、しょうがないんです。誰に対しても向き合っていない気がして。先生、おかしいですか?こんな性格、面倒なだけですよね。もし、彼女が出来たとしても、この話は、出来ないな」
征男「雪雄さん、今は、だめでも、話せるようにしていきましょう。そして、理解してもらえる彼女さん、作りましょう」
雪雄「そうですね。そうしないと、何のためのカウンセリングかも判らなくなりますね。先生、もう少し時間と力を貸して下さい」
征男「大丈夫、大丈夫!雪雄さんは、大丈夫」

(N)カウンセリングルームのクーラーが壊れているのか?うるさい音をがなり立てている。

都子「雪雄?大丈夫?なにか?気に触ることいっちゃったかなぁ?」
雪雄「あれ?なんかあった?」

雪雄(M)見つけたんだよ!

都子「雪雄、決めたんだ。今夜の味噌ラーメンは、あさひ総本店に決めた。厚切り叉焼らしいよ。生ビールはお代わり2杯までね。さっさと、キャンプの準備して、味噌ラーメン食べに行こう!」
雪雄「腹減った!」

(N)キャンプ場で、二人でテントを設営中。風が出てきて、少し肌寒い感じになってきました。

雪雄「テントも、楽しいけど。次回は、キャンピングカーで、道内を都子と一緒に巡るのも楽しいと思う。絶対に」
都子「道内なら、どこでも、車止められそうだし、道の駅で休憩しながら、ドライブも時間を気にせずに旅行出来るよね」
雪雄「そのためにも、しっかりと農業の基盤を作らないとなぁ。農業のイロハをしっかりと学ばないと」
都子「そういえば、雪雄って、農業の経験は、あるんだっけ?」
雪雄「あっ!すごいところついてきたね!流石!都子。農業の経験なんて、全くないよ。都子?しらなかった?おかしいな?確か。話したような気がするんだけど?」

都子(M)とぼけるなよ!雪雄!

都子「私に話してくれたっけ?私が、忘れたのかなぁ。」
雪雄「都子?眼が怖い。」
都子「雪雄のさぁ、その根拠ない自信は、どこから来るの?一度、ご両親の顔が見たい」
雪雄「それは、無理だよ。都子に話したと思ってたけど、俺の両親は、震災の時に、津波にのまれて行方知れずなんだ。これは、本当だよ」
都子「別に、嘘だとは思っていないよ。雪雄の日頃の行いが悪いだけだから」
雪雄「都子には、出来るだけ、俺のことを知ってもらいたいと思ってるんだ。これから隠し事はしない」
都子「テント張ったし、味噌ラーメン食べに行こう!喉も渇いたし生ビールが恋しいよ」

(SE)風の音

(N)雪雄さんのカウンセリングも、とりあえず、今回で一段落の模様です。

征男「雪雄さん、今日で、カウンセリングもひとまず、終了しようと思います」
雪雄「本当ですか?辞めても、大丈夫でしょうか?まだ、時々、こう胸の内がもやもやするんです。それが、なんとなく、嫌な感じなんです」
征男「雪雄さん、その事については、今後の雪雄さんの生活の中で、改善させていかないとダメなんです。僕では、解決していく事は出来ないんです。それと、雪雄さんには、都子さんという女神が出来たじゃないですか?今は、まだ、雪雄さんの心の内を話してはいないと思いますが、私の判断では、彼女が今後のカウンセラーです。保証します」
雪雄「実は、このカウンセリングが終了したら東京から北海道に移住しようと思っています。先生どう思います?」
征男「素敵なことだと思います。雪雄さん、もう、本当に大丈夫です。心配は、いりません」

雪雄「ありがとうございます。こんな俺に、時間と勇気を与えてくれた先生は、俺の大事な友人の一人です」
征男「なにかあればいつでも、連絡を下さい。雪雄さん、この先、仮に不安なことが起きたとしても、都子さんと話し合って、よりよい方向を模索して下さい。雪雄さんなら、乗り越えられます」
雪雄「先生、来年の気候のよい時期に絶対に遊びに来て下さい。絶対ですよ!」

(SE)クーラーのうるさい騒音

雪雄「こんばんわ!誰も、いないのかな?」店主「はい!はい!はい!」

都子(M)この町の住民は、みんな、3回繰り返すね。雪雄みたい、へんなの!

都子「ねぇ、雪雄、おつまみ叉焼と、生ビール2杯。とりあえず、注文して!」
雪雄「餃子も、頼もうよ」
都子「ラム餃子なんてのもあるよ。やっぱり、北海道だね。普通のとラム餃子一人前ずつ。きまり!」
雪雄「いい匂いが、してきた。ビール、もう呑んじゃったよ」
都子「雪雄、約束だよ。分かってるよね」

(SE)餃子の焼ける音

雪雄「あぁ~、食べた。味噌ラーメンにニンニク入れすぎた。都子も入れればよかったのに。どう?におうかな?」

(N)都子さんに向かって息を吹きかける雪雄さん

雪雄「どうだ!ふぅ~ふぅ~ふぅ~」
都子「もう、やめて、今晩のお休みのキスはしない!ぜったいにしない!歯磨きしてもしない」

(N)ターフの下。いすに腰掛ける二人。シングルモルトの香り。天空からいまにも、あふれだしそうな星の群れ。

都子「味噌ラーメン、美味しかったね。叉焼も予想通り。ビールもよかったね。あれ?雪雄、どうしたの?」
雪雄「もう、ここに、住もう!」
都子「えっ、いま?なんっていった!」
雪雄「ここ上川町に、二人で住もう!」
都子「もう、決めたの?仕事も、家も、決まってないんだよ。自分勝手すぎるよ。雪雄は!もう、少し、将来の事なんだよ。私も、一緒にいるんだよ。雪雄!分かってる?」
雪雄「そうかな?都子も、ここ気に入ってるだろう?だめなのか?」
都子「そういうことじゃない!雪雄は、いつも、いつも、私の気持ちを考えていない。もしかすると、眼を背けてるんじゃいかと疑っていたんだ」
雪雄「俺の目を見ろよ!都子!」
都子「いつも、いつも、いつも。さぁ、雪雄は冗談交じりで、人の話を茶化すじゃん。真剣かどうかが、判らないんだよ」

雪雄(M)俺のまねしてるのか。

雪雄「俺は、都子とこの町で生活をしたいと思ってるよ。そして、タマネギやジャガイモやトウモロコシ食べれる作物作って、自給自足とまでは、いかなくても、自分の作った物で、生活できるようになりたいんだ。都子さぁ、もし、貨幣価値が崩壊しても生きていけるそんな生活が都子と出来ると思ってるんだ。ここでね。野菜いっぱい作ろうよ。なんとかなるよ。大丈夫、都子、絶対大丈夫」
都子「わたし、そんなこと出来ないよ」
雪雄「出来ないことがあったら、俺にいってくれ。俺が代わりにやるから」
都子「雪雄って、私に対して、いつでも、寛大だよね。そんなことが出来るって事がすごく不思議なんだ。そして、その寛大さが、私には、すごく不満なんだよ」
雪雄「都子の欲しいもの、教えてよ?欲しいものだよ」
都子「欲しいもの?わかんないよ。考えたことないもん」

雪雄(M)そう、先生が言っていたこと、相手にちゃんと、胸の内を伝えよう。

雪雄「都子、本当のことを伝えるのが怖かったんだ。他人との距離感がはかれない男なんだよ」
都子「そんなことないよ」

雪雄「都子と出会いがなければ、北海道におそらく来てなかったと思う。おそらく、 都子が俺の背中を押してくれたんだと思う」
都子「なに?えっ、なによ?真剣な感じ止めてよ。もう、チャラい雪雄でいてよ」
雪雄「この大雪山系の麓で、都子と、けんかをしながら、笑って暮らしていきたい。今を一番大事にしたいんだ」
都子「農家の嫁か?今のところ、雪雄は、さぁ、農家でもないんだよね。明日には、また、気持ちが変わるんじゃないの?口先番長さん!」

雪雄「まだ、なんにでも、なれていないから、この先、なんにでもなれるって事なんだけどね。都子さん、よろしくね」
都子「ほんとかな?ばかやろう!かっこつけんなよ!」
雪雄「信じてくれよ」
都子「欲しいものが、今、分かった気がする」

(N) 二人の笑い声が、星空の中に、響き渡る。
 

                 【完】
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