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ラジオドラマ脚本 032

【しゃぶしゃぶは譲れない】
 
 きよみ 女性(29歳)人に心のうちを開く事が出来ない人。
 さとる 男性(29歳)相手の事を分かりたいといつも悪戦苦闘する人。
大家さん 女性(65歳)おせっかい焼き
担当上司 男性(40歳)

きよみ「なんとなく、このままでも、良い気がするけど、さとるは、どうも違う気がするんだ、自分だけがやきもきするのかな?」
大家さん「おはようございます。どうしたの?きよみちゃん、具合でも悪いの?もしかして?あれかしら?」
きよみ「もう、おばちゃん、やめて下さいよ。そんな事ある分けないですよ。」
大家さん「おばさんの感はあたるんだけどね。」

きよみ(M)母親からの虐待の記憶が頭をよぎる。母親は、母親だし、私とは違うんだし。大丈夫と言い聞かせているけど、いまいちさとるの気持ちがわからない。**
**大家さん
「きよみちゃん、身体にはちゃんと、気を使うんだよ。」
きよみ「いつも、おばちゃん、ありがとうございます。」

きよみ(M)さとるに、この先の事をちゃんと聞いてみよう。理解し合わない私の両親のようになっちゃうよな。

(N)さとるさん、担当上司に呼び出されて会議室にむかっています。

(SE)会議室のドアが開く音

さとる「遅くなりました。」

上司「待ってたよ。そこに腰掛けて下さい。」

さとる「はい。」

上司「この間の転勤の件なんだけど、考えてもらえないだろうか?君は、まだ、独身だし、どうだろうか?」

さとる「前向きに、検討はしています。先ほどの独身についてですが、今、正直なところ女性と同棲中でして、今回の件、まだ、彼女にどう伝えれば、いいかと悩んでいる最中です」
上司「そうか。そういう事情があったのか?」
さとる「もう少し、時間をいただけないでしょうか?」
上司「俺たちの時代と大きく変わったよな。自分の出世のチャンスが来てるのに、彼女の事情を考慮する時代になったんだなあ」
さとる「彼女との今後のこともあるので」
上司「出世コースだぞ」
さとる「出世なんですか?」
上司「当社は、本社で採用されても、一度、支社に転勤しないとだめなんだ。今回の君の転勤先は、栄転コースだよ。知らなかったのか?」
さとる「はい」
上司「今のところ、僕は、君を推しているので、彼女としこりが残らないように話し合ってくれ。ただし、返事の方は、なるはやで頼む、私も、上司に連絡しないといけないからね。」

(SE)会議室のドアが閉まる音。

さとる「さて、困ったぞ。でも、出世か?給料も上がるだろう。きよみと二人なら
楽しく暮らせるかもな」

(SE)携帯のメール音

きよみ「あぁ、さとるからメールだ。今夜、近所の公園で、久しぶりにデートしないか?どうしたんだろう?」

(N)夜桜見物も終わった満月の公園。桜の頃は、あんなににぎわっていたのに。
いまは、アベックの語らいの場と化しています。きよみさん、息を切らせて公園に来ました。

きよみ「喉が渇いた。水飲み場は、どこだろう?」
さとる「ごめん、待った?」
きよみ「公園の水ってさび臭いんだね。」
さとる「きよみ、家で話してもよかったんだけど、実は、転勤する事になったんだ。それも、出世コース。」
きよみ「すごいね!さとる、おめでとう。今夜は、お肉かって、お祝いやろうよ。ダブルでお祝いしょ!」
さとる「栄転先は、ニューヨークなんだ。そ れで、きよみも一緒に来て欲しいんだけど」
きよみ「えっ?」
さとる「無理だよね。こんな急な話。まだ、僕も会社に返事は、してないんだ。まずは、きよみとちゃんと話さないといけないと思ってさぁ。それにしても、もう一つのお祝いって?」
きよみ「きみ!自分の誕生日を忘れてどうするんだ!」

(N)最後の桜の花びらがひらりと、きよみさんの肩に舞い降りました。

きよみ「さとるにとって、すごいチャンスだよね。返事は、すぐに出さないといけない?」
さとる「大丈夫、上司にも、時間をもらえるように頼んであるから。」
きよみ「ニューヨークに住めるんだ。なんだか想像できない感じだよ。さとる。」

(N)夜の公園を散歩する二匹のラブラドールと飼い主。

きよみ「あのラブは、きっと、夫婦だね。旦那さんが奥さんの先を歩いて安全確認してるみたい」
さとる「そうかな?」
きよみ「あれ?そう見えない?なんか、見解の相違!」
さとる「僕は、さぁ、あのラブをみて、自分の将来をもう少し、真剣に考えてみようと自覚したよ。あの老犬夫婦のように、きよみと穏やかな老後をおくれたらいいのにと、今、思ったよ。」
きよみ「それって?プロポーズのつもり?。」
さとる「今の俺の気持ちだよ。正直なところこの転勤は、凄いチャンスなのかもしれないけど、僕の中では、優先順位が一番じゃないんだ。僕の人生が、仕事で占められてはいないんだ。」
きよみ「そうなの?初めて知った。」

(N)視線をそらすきよみ。

きよみ(M)なんで!視線をそらしてるの?さとるは一生懸命、私に対して、
懸命に話してるんだよ。わかってるでしょう。

さとる「きよみにとっても、すごい事なんだろうか?と、この話をもらった時一番に考えた事なんだ。僕の人生としては、きよみと一緒にいる事が、僕の最優先事項なんだ。だから、きよみの気持ちを確認したいんだ。」
きよみ「うん、わかってるよ。さとるは、いつでも私の気持ちを最優先に考えているものね」
さとる「スーパーによって、一番高い肉かってすき焼きやろう!ダブルパーティーだよね!」
きよみ「私は、しゃぶしゃぶ!がいいなぁ!」
さとる「だめ!お祝いは、すき焼きなんだよ。これだけは、いくらきよみでも、譲れない。」
きよみ「じゃ!すき焼きとしゃぶしゃぶにしよう。これなら、文句ないでしょう。しゃぶしゃぶ、あげないからね。ゴマだれ、美味しいんだからね。」
さとる「僕も、すき焼きが食べたいと言っても、絶対にあげない!卵、忘れないように。」
きよみ「欲しくないもん。」

(SE)成田発、ジョンFケネディ空港行き。ただいま出発いたしましたの機内アナウンス。

さとし「皮肉なもんだよな。ニューヨーク赴任が決まった矢先に勤めていた会社が倒産。きよみは、僕と一緒にいくつもりで、ニューヨークでの仕事も決めて、今、旅立った。縁がなかったのか?」

きよみ「結局、私たちは、すき焼きとしゃぶしゃぶの関係。材料は、同じでも、選ぶ方向性が違ったみたい。」

(N)きよみさんのところに、駆け寄る大型犬2匹と戯れる夢を機内で、みてるよ
うです。

きよみ「犬を2匹、絶対に飼おう。バリバリと仕事するぞ!さとるをニューヨーク呼び寄せるために。今度は、同じ材料で同じ料理を絶対に作る」


【完了】

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