1年半でギターを14本買ったアホウのお薦めギターと音楽(前編)

 これまでのスタイルで1本、1本のギターを紹介するのが馬鹿馬鹿しいくらいに、多くのアコギを買っては手放し、買っては手放しを繰り返してしまった、誠に狂った1年と半年の記録です。タイトルは、Webサイト
ギターを3XX本買ったアホウのお薦めギターと音楽
をもじったものです。思うに、アコギについて語ったWebページは無数にありますが、さすがに3××本買った人は稀でしょう。私は現在41歳ですが、これまでで30本といったところです。とても長い記事になりそうなのですが、明日から仕事があるので、1ヶ月ほど期間を開けてしまったnote記事、ここで書きためるつもりで書いてしまおうというわけです。

 さて。1年半の間で、可処分所得などたかが知れている子持ちサラリーマンである私が、元手はアコギ1本と20万円程度の現金で、14本ものアコギを買ってしまった、その経緯やノウハウとあわせて、もう手元にはないアコースティックギターへの追憶を書き連ねたいと思います。誰かが、「ギターへの投資は財形貯蓄なんや」と嫁さんに言った言葉を書き記しているものを読んだことがありますが、本当にそのとおりだと、心から思います。キャッシュは雪のようなもので、放っておくと知らぬ間に減ってゆきます。欲望のオーバーランにより、いまはギターローンの負債が10万円ほど残っており、それを今年いっぱいで完済するまでは、ギター探しの旅は強制的に一休み。それでは始めたいと思います。

 コロナが蔓延し終息の時期が見通せない状況下にあった2021年5月ごろだったか、私はそれまで使っていたMaestro guitars Raffles MRという、シンガポールで作られたギターに加えて、地元のギター工房で中古で売られていた、Fairbanksという聞き慣れないルシアーもののギターを購入した。23万円だったと思う。FL-1という型番のそのギターは、ギブソンのL-1を元にした同型の一本であり、レッドスプルーストップ、ホンジュラスマホガニーサイドバックという、なかなかのハイグレードなスペックの通り、ブルースが合う、素晴らしいギターだった。試奏した段階で、これは今まで聞いたことのないレベルの複雑かつ心地よい、ただ美しいとかサスティーンが長いだけではない、深みのあるサウンドと感じた。しかし、数ヶ月は使ったのだが、サイド板のバインディングのはがれや、致命的だったのは、ネックの元起きが見られますよという、大阪の大手楽器店からの指摘がダメージとなり、フリマサイトで手放してしまった。実は手放す背景には別のギターへの浮気があった。なお、シンガポール発のマエストロギターのほうは、アディロンダックスプルース単板、マダガスカルローズウッド単板サイドバックというギターで、2020年初頭にアウトレット品を18万円で購入したものである。このギターも、今では新品では30万円くらいは出さないと買えないようである。

 2021年冬の浮気は、Shellyというブランドのドレッドノートスタイルのギターと、国産ブランドHEADWAYの特別モデル。まず11月にShellyがフリマサイトで19万8千円で売られており、これに飛びついた。長野県にあるSUMI工房による、つまりルシアー鷲見英一さんの手工ギターという響きに心が動いてしまったのだ。このギターは、良質なスプルースに最高級マホガニー単板という仕様の豪快に鳴るギターで、色気も感じる音色だったが、どうにも豪快にかき鳴らす感じじゃなくフィンガーピッキング中心の自分のプレイスタイルに合わず、その後の軍資金になってしまった。
12月に買ったのは、HEADWAYのHC-501 Tochi というモデルだった。真っ白い雪のように輝くトチのギターは、繊細でキラキラとよく鳴ってくれた。これも特価で22万円で買ったものだが、ついマエストロかFairbanksを手放せば十分に無借金で買えるなと皮算用してしまったのである。それらのどちらかを売ってから軍資金を得て、買うというのが尋常なる精神であろう。しかし特価販売の期間に踊らされ、カード払いで、要は1ヶ月後までには軍資金を得れば良いのだとの楽観的思考を働かせてしまった。記憶が曖昧だが、ヘッドウェイ購入の時点では、Fairbanksのギターが大手楽器店で、委託販売でお預けいただいたら売値で45万、お客様には8割の36万円はお支払いできるギターです。との返答を得ていたのだ。地獄の始まりは、Fairbanksのギターを配送し、楽器店から正式な査定結果が伝えられた瞬間だった。担当者は非常に言いにくそうに、実は、13フレットあたりのボディと指板の間に、紙が入る隙間がありまして・・・(FairbanksのFL-1は12フレットジョイントだった)、元起きのおそれがあり、最悪、ネックリセットを施した上でなければ売りに出すことは難しいです。提携工房にリペアーを依頼したら、15万円くらいはかかるのですが・・・。頭は真っ白というほどではないが、当てにしていた36万円がなくなったことを知り、一気に22万の支払が当然利息付きのリボ払いという重荷に化ける予感がし、気が重くなった。
 Fairbanksギターについては、今の私なら、元起きのリペアーも含め、長期的な視点で保有しておくことも考えたであろう。ハイフレットでの弦高は、サドルやブリッジの調整で多少は誤魔化して下げることが可能である。しかし、22万の支払が控えている以上、そうゆっくりと考えている余裕はなかった。なお、結局Maestroギターについては、地元のギター工房で24万円ほどで委託販売したが売れず、東京の大手楽器店に16万円ほどで買われていった。Fairbanksについては、元起きがそこまでひどくないため地元の工房で接着等の簡易なリペアーを施してもらい、フリマサイトにて、22万円で引き取られていった。手数料を引けば20万円は切ったので赤字ではあるが、2021年の暮れに購入したギターの費用には十分であった。
 HEADWAYのトチを使った特別モデルは、軽めの鳴りながら煌びやかで、見た目通りの美しい鳴りだったが、トップの膨らみなどのトラブルがあり、一度は販売店を通してヘッドウェイで無償修理をしてもらったりもしたが、どうにも弾きにくさが残るギターだった。音色は、もう少し重厚感があれば、というところだが、トチという軽く柔らかい材の特性上、無理からぬことだったのかもしれない。
 2021年最後の買い物は、ヘッドウェイでは終わらなかった。Shellyの使い道が今いちイメージできなかった私は、オークションサイトにて、K archeryという、これまた耳慣れないが、ヘッドウェイのマスタールシアーである百瀬氏が製作しているというOMサイズのギターに手を出してしまう。24万円であった。このギターの特質は、硬めでしっかり鳴る(なんとも貧相な表現なのだが)、そしてネックの状態が完璧で、プレイやビリティが過去の自分ヒストリー上ではベストである。ただ、OMサイズの限界というのか、鳴り切っていない状態だったのか、私の中では倍音感の少ない「硬い鳴り」を脱却できなかった。
 またしても向こう見ずな散財をやってしまった私は、2021年の初頭を金策に費やすことになった。手放す候補として白羽の矢がたったのは、Shellyである。実は、K archeryやShellyの定価は、前者が約70万円、後者が約50万円という、まさしく「ルシアーもの」の価格である。マーティンやテイラーなら上位機種を狙える価格帯。私にはギターの目指す方向性がなじまなかったが、そういったギターを数ヶ月であれ所有できたことは、私の中では意義深いものがある。高ければ気に入るか、いや、そうでもないということ。Shellyギターについては、中古の買取査定で数社から14,5万円という見積もりがあったが、某大手動画サイト系中古ギターショップ(分かる人には分かるかも。動画で仕入れたギターを1本1本丁寧に紹介しているかたのサイト)が25万円という破格の値段をつけてくれたため、私は窮地を脱することができた。その後、私が売ったShellyのギターが40数万円でSoldになっているのを見たときは、少し複雑な心境になったものだが。
 2021年3月、45周年を迎えたHEADWAYのキャンペーン企画と、シンガポールマホガニーという珍しい材をトップ、サイドバックに使用したショップオーダーモデルのギターに心が動き、2本目のHEADWAYに手を出す。東京の大手ギターショップであった。約20万円。この時点で、私はヘッドウェイのギター2本と、K archeryを所有していたのだが、結局 K archeryは資金捻出のため、東京の別のギターショップに15万円で売り払ってしまった。ヘッドウェイの百瀬氏製作とはいえ、市場において高い評価を得ていなければ、なかなか20万円の値は付かないことを痛感した。定価が60万円を超えていても、である。これがヘッドウェイの通常のモデル(ATBやSTD)であれば、10万円を割り込む買取価格でもおかしくはない。軍資金の捻出は、Shellyが思いの外高く買い取ってもらえたため、小遣いの一部前借り(6万円程度)以外は借金をせずにやっていた。
 2本目のヘッドウェイギターの音色であるが、マホガニー的な軽快な響きというよりは、少し重たさの中にキラキラした成分が隠れているような、なんとも不思議な響きである。手放した今となっては、ショップの店員が、3,4年は弾いてもらってから真価が出てくると思います と言っていたのが思い出される。
 2021年4月、T's guitarという長野県の小規模なメーカーのミニギターがオークションに出ていて、7万円程度だったのでポツリと買ってしまった。スプルースとマホガニーの王道的な構成のギターだが、ピンレスブリッジという特殊なブリッジに関心があり、買ったものである。ピンレスブリッジでは、ブリードラブというアメリカのメーカーが多くのモデルで採用しており、弾きやすさと弦交換のしやすさがよく謳われている。T's guitarの音は、ポコポコというほどではないが、やはりミニギターゆえの限界というか、そこまで印象に残る音色ではなかった。フリマサイトで同程度の価格で2,3ヶ月後に売り払ってしまった。
 ここまでで、半年間で6本。浮き沈みがありながらも、あまり借金をすることもなく、いずれも定価では20万円は下らないような、なかなかのグレードのギターを短期間であれ、所有することができた。いずれもギターも今、手元にないことに後悔はないが、Fairbanksの一本だけは、本当にベストコンディションの状態で弾けた期間が短いだけに、あれはもう少し長い間持っておいても良かったのでは、との思いが残っている。
 2021年6月、オークションサイトにて、弾き傷だらけでボロボロ、でもplek調整済みであり、プレイするには問題なし、という状態の、Lakewood M-1というドイツ製のギターを手に入れた。8万円だった。この仕入れ価格は、なかなか出会えるものではない。レイクウッドの中古市場価値はどのモデルも、15万円前後か、それ以上である。イングルマンスプルース単板、マホガニー単板がサイドバックの非常に気品のあるギター。気品というのは、サウンドホール周りの装飾や塗装の風合いから感じられた。明るくて粒立ちの良い、とても良いギターだった。ちょっと軽快さ、軽さが前にたち、もう少し深みが欲しいな、というのが現在の印象だが、マホガニーモデル以外のものも弾いてみたいなと思わせてくれたメーカーである。韓国のチョンスンハ君や、故中川イサトさんもレイクウッドを使用していたようである。
 ここで、2023年1月現在、毎日のように聴いているアーディストを紹介すると、その中川イサトさんである。押尾コータロー氏や岸部眞明氏の師匠として有名なソロギターの草分け的存在であるが、私は中川イサトさんのボーカル曲がとても好きである。「あふたぬうん」、村上律氏とのデュオ昨「律とイサト」収録の「Good bye」など。ソロギターの曲も、岸部氏や押尾氏の作品より、何か深いものを感じるというか、作り込みが半端ではないという印象を持っている。ただ、押尾コータローの最新作で聴くことのできる「Waltz 1310」は、地味ではあるが、彼の作品の中では最も好きな曲の1つである。師への思いが込められた名曲だと思う。岸部氏の「Song for 1310」も、イサトファンとしては必聴だろう。この曲には、師と弟子の一種の緊張関係のような、独特なテンションを感じられる。
 2021年の夏に手に入れたEastman E20P。パーラーサイズでありながら指板幅が46ミリあり、もの凄い、鐘を突いたようなごわーんとした音で鳴った。フリマサイトで10万円で買ったギターだが、売り主からは、下手なマーティンより絶対鳴ってますよ、とのコメントをいただいたが、D28なども持ったことはないながら、このギターはめちゃくちゃ鳴ってるな、との印象を受けた。イーストマンが凄いのか、アディロンダックスプルース単板ーインディアンローズウッド単板という、マーティンのゴールデンエラ期と呼ばれる材と同様の、いわばアコギで言えば黄金の組み合わせによるものなのかは分からない。ただ、小ぶりなサイズなのに倍音が美しく、音量も凄かった。
 Fairy guitar。2021年の秋にオークションサイトで、7万円で購入。これは虎杢のベトナムマホガニー単板というものがサイドバックに使われており、音は瑞々しく、設計者の説明通り、マーティンともギブソンとも異なる音色であった。ところどころの仕上げは粗いものの、ベトナム製造ということで、値段が抑えられている商品のようである。このFairy guitar、地元の中古ショップでサイドバックがローズウッド単板のモデルが売られていた際、試奏してみたところ、マホガニーのモデルよりも重厚で好ましい音のように感じた。なお、そのモデルは5万5千円で売られており、音からすれば破格の値段だと思われる。
 Eastman E20Pやフェアリーギターを、それぞれ10万円、6万円程度で手放してまで買ってしまったのが、チェコのメーカーFurch(フォルヒ)のD23ECである。ECとは、イングルマンスプルース単板、ココボロ単板を指しており、大手楽器店で22万円で売られていたものを、ローンを組んで購入してしまった。金利0円だったから、というのが理由だが、いとも簡単にローンというハードルを超えて買ってしまったところに、自分自身が病的な域に来ていることを知るべきであろう。イーストマンを手放した理由は、指板幅が広すぎて、音は良いのに弾きにくいという、なんともやるせない理由であった。指板幅を狭めるというリペアーというか改造が存在するのかは知らないのだが、あのギターの音は本当に凄かった。
 フォルヒのことである。噂に違わぬ、エレガントな鳴り。完全にソロギター向けである。ココボロのギターでソロギターを弾きたい、それが主な購入理由だった。ただ1点弱点を挙げるならば、先述のレイクウッドと同じで、音が少し軽いのである。2本のギターに共通するのは、トップがイングルマンスプルース単板ということである。私が好むトップの音は、シトカスプルースかアディロンダックスプルース、またはジャーマンスプルースということに今は結論している。その理由は、レイクウッドとフォルヒのイングルマンスプルースが返す音の軽さ、柔らかさにある。シダーも敬遠してきた。柔らかいという特性は、鳴りやすいという一面を持つ一方、深みに欠けるのでは、というのが感想である。
 フォルヒのギターについては、高額な購入費用だったにもかかわらず、なんと13万円で中古楽器店に手放してしまった。いろいろとギター以外の出費も重なり、困ってのことだった。やはり、本当に気に入ったものでなければ、私のように、ことギターについては気の多い、いや多すぎる男には高額なギターを持ち続けるのは難しいのだろう。

と、ここまでで約10ヶ月、計10本である。コロナ禍という背景もあり、また地方在住ということもあり、実際の店舗での試奏ができない中で、ショップ販売だけでなくフリマやオークションサイトも活用し、あるいはそれらの誘惑に負け続け、私はギターを買い続けた。費やした金額は、合計するのが恐ろしかったが、実はこれらのデータはエクセルで管理しており、簡単に計算できる。10本で、1,637,000円。なんということか。私の小遣いは、飯代は別で、せいぜい年間50万円ちょっとのしがないサラリーマン。小遣いの3倍を優に超えている。入手経路がうち6本がフリマサイトかオークション。これがミソであろう。いずれのギターも、店舗経由で買えばおそらく倍近い金額を請求されたはずである。それくらい、フリマやオークションは安い、というよりも、これは安い出品だぞと判断した場合に手を出してきたのである。リセールバリューについては、あまり考えず購入している。私は別にギターを売り買いして儲けようという意識はないし現に儲かることはない。ただ、ギターの音色に触れたい、それだけである。
 今現在は、結局2本のギターを所有している。それはBadenとEastmanというメーカーの、それぞれスプルース・インディアンローズウッド、アディロンダックスプルース・マホガニーという材構成のギターである。冒頭に書いたが、当面はギター探しの旅は休止となる。サイドバック材がメイプルなど、ローズウッドやマホガニーとはまた別のものもいずれは持ってみたいというのが将来的な展望である。現在は、ベーデンとイーストマンが気に入っているというのもある。後編で書きたいが、いずれもアジア製造だが、非常に良質なギターだと思っている。国産や欧米のブランドにこだわらず、実売15万円程度で一級の音を出せるギターに誰もが触れられるようになれば良いと願ってやまない。
 

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