ウマ娘に登場する天体について

 この記事はタイトル通りメディアミックス作品『ウマ娘 プリティーダービー』で主にチーム名の由来となっている星、天体について書いた記事だ。ストーリー的な観点、天体の特徴的観点からなぜこの天体の名がこのチームにあてがわれたのか、という妄想もしている。需要は有無は不明だが、書きたくなってしまったのだから仕方がない。星3因子の付きやすいプレイング等について書いたものでないことをご留意いただきたい。再三だが、すべて妄想である。


シリウス

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 アプリ版『ウマ娘 プリティーダービー』のメインストーリーにおいて主人公であるトレーナーが先代トレーナーから引き継いだチーム。過去にはオグリキャップ他多数のウマ娘が、3章現在はメジロマックイーン、ゴールドシップ、ライスシャワー、ウイニングチケットのほか、前髪ぱっつんのウマ娘やタレ目のウマ娘、黒髪ボブのウマ娘などが所属。実は1期1話の、スペシャルウィーク、セイウンスカイ、エルコンドルパサー、グラスワンダーが一緒に食堂で食事を取るシーン、オグリキャップが食事を終え、スペシャルウィークがリギルの入部試験を受けたいと立ち上がり水の入ったコップを倒すシーンで名前だけ登場している。左上に小さく。

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 またOVAであるBNWの誓いにも登場し、そちらでは消防庁告示の誘導灯及び誘導標識の基準である非常口のピクトグラムにおける人の部分がウマ娘に置き換わった意匠に「No Race, No Life.」と書かれたシリウスのポスター全貌を見ることが出来る。

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 天体としてのシリウスは言わずと知れた冬の大三角の一角。おおいぬ座のα星で、全天の恒星の中で太陽に次いで明るく輝く。実際、見かけの等級は-1.46等級と、マジで明るい。しかも西暦2021年現在、地球上のほぼどこからでも視認が可能で、条件さえ整えば昼間でも見ることが可能。ギリシャ語で「焼き焦がすもの」「光り輝くもの」を意味する「セイリオス(Σείριος, Seirios)」に由来すると言われており、紀元前7世紀頃のヘシオドスの著作『仕事と日』にすでにその名が見られる。またその明るさや軌道から様々な文明、文化において重要視され、その呼び名は50以上にも及ぶ。航海に実用されただけでなくゾロアスター教では神格化、エジプトにおいてはナイル川の氾濫を時期を告げる星としても用いられていたというのは歴史の資料集などにも載っているだろう。

 なぜアプリ版主人公チームの名としてシリウスがあてがわれたのかは前述の通り妄想の域を出ないが、先代トレーナーから現トレーナーへ、葦毛の王オグリキャップからその継承者メジロマックイーンへ、といった具合に継がれていく想いだったり、傍から見たらシリウスと言えばあの二人のトレーナーと二人のウマ娘、という評価をされていそうな点において実際のシリウスと関連性が存在するか。実際のシリウスもA型主系列星のシリウスAと白色矮星のシリウスBの連星である。A型主系列星についての詳しい説明は省くが、典型として数億歳程度の若い星が多く、実際シリウスも2億5000万歳程度と、星の尺度でいえばまぁ新星といって嘘にはならないだろう、という程度の若い星だ(寿命が短いと推測されているため新星と言い切るには微妙なラインだが)。逆に白色矮星はもう寿命を迎えたあとの恒星の骸の一種である。

 深読みオタク的思考をするとシリウスAを主人公トレーナーとメジロマックイーン、シリウスBを先代とオグリキャップに当てはめられる。またシリウスBが赤色巨星(恒星の一生において終わり際の段階)であった頃、シリウスAに豊富な金属をもたらした可能性も示唆されている。きっと同じように主人公も先代から、メジロマックイーンもオグリキャップから薫陶を賜っていただろう。当然物語が進むにつれシリウスのごとく作中世界でも一等輝くチームとなるという意味合いが強いのだと思うが、競馬についてここまで細かい要素を拾ってくれる制作陣であることだし、シリウスの特徴である連星という要素も拾ってくれているのではないだろうかと期待してならない。

スピカ

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 ???「あの砂はダートといって砂遊びをする為のものじゃないんだ」

 アニメ『ウマ娘 プリティーダービー』において主人公サイドのチーム。スペシャルウィーク、サイレンススズカ、ウオッカ、ダイワスカーレット、ゴールドシップ、トウカイテイオー、メジロマックイーンが所属している。1期だと駆け出しチームといった雰囲気であったが、2期になるとリギルをも超えた評価を受けているような描写も見られる文句なしの強豪チームとなった。同じ強豪のリギルと比べると尖ったというか個性的なタイプが多い(オブラートに包んだ表現)。

 恒星としては春の夜に青白く輝くおとめ座のα星。おとめ座の中では一番明るいが、全天における見かけの等級でいうとアルデバランと並ぶ13位タイ。見かけの絶対等級はシリウスほど明るいわけではないが、シリウスとは違い、青色巨星の括りであるため、絶対等級はシリウスより明るく、肉眼で見える恒星の中ではトップクラスに表面温度が高く、放出しているエネルギーも太陽の1700~13000倍にも及ぶと言われる。シリウスと同じく連星で、シリウスは2つの恒星からなる2連星だったが、スピカは5連星。青色巨星~といったような今までの情報はすべて主星であるおとめ座α星Aaのお話。

 春の大三角、春の大曲線を形作る恒星ではあるものの春の大三角や春の大曲線自体夏や冬の大三角などといったアステリズムより知名度が低く、それに伴うようにスピカ自体の知名度もそれなりどまりといったところ。アニメ主人公サイドのチームとしてあてがわれる名前としては地味なように感じる。それでもこのチームがスピカと名付けられたのは(以下妄想)スピカという単語の語源にあるのではないだろうか。

 Spicaはギリシャ語で穀物の『穂先』を意味する Σταχυς に由来し、この語の原義は『尖ったもの』だ。英語の『spike』と同根である。前述した通り個性派の集まり、尖ったウマ娘たちのチームの名としては相応しいのではないだろうか。アニメウマ『』主人公サイドのチーム名が『おとめ』座のα星であるというのも大きいだろう。後述するが『ウマ娘』という概念においてスピカとリギルは対比的構造も形成している。また、日本語的にピカピカという言葉とも語感が似ているということもあるかもしれない。トゥインクル(星がキラキラ、ピカピカと輝くこと)シリーズで輝くスピカ。こんなものを説と呼んだら怒られてしまいそう。

リギル

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 改めてみるとメンツヤバすぎて変な笑い出そう。逆になんでミスターシービーいないんだ?

 アニメに登場するトレセン学園最強と目されるチームだが、そりゃそうだろというようなチートチーム。上の画像から分かるように、シンボリルドルフ、マルゼンスキー、ナリタブライアン、タイキシャトル、ヒシアマゾン、テイエムオペラオー、フジキセキ、エアグルーヴ、グラスワンダー、エルコンドルパサーを擁する。現在登場している生徒会の主要メンバー全員と栗東美浦の両寮長を要しており、なんだったら学園の運営にもちょっとくらいは口が出せそうな気すらする。

 リギル、という天体に聞き覚えがある人は多分普通に天文が好きな人だと思われる。大多数の人はオリオン座のリゲルなら聞いたことあるんだけど、という程度だろう。リギルは一般にリギル、と呼ばれることはなく、アルファ・ケンタウリ、またはリギル・ケンタウルスなどと呼ばれるケンタウルス座のα星Aのことである。天文の本を開けば太陽に次いで地球から最も近い恒星系として絶対に登場するだろう。夜空における明るさはシリウス、カノープスに次ぐ3位。世界的にはリギル・ケンタウルスの名で呼ばれることも多いが、日本では一般的にはアルファ・ケンタウリと呼ばれることが多い。

 最強のチームとして物語上重要なチームの名として用いるなら他にも適した天体がありそうにも思えるが、おそらくこれは単純にケンタウルスが半人半馬であり、なんならウマ娘みたいな存在である(暴論)こと、リギル・ケンタウルスの語源がアラビア語で『ケンタウルスの足』を指す『rigl qanṭūris』という言葉であることなどがその理由なのではないだろうか。足。あまりにウマ娘という物語において重要な存在。またスピカが乙女(娘)座のα星の名であるから、そのライバルチームにケンタウルス(ウマ)座のα星の名をあてがったということもあるだろう。命名についてはこっちの予想の方が本命。(ちなみにリギルの項冒頭で少し触れたリゲルとあまりに名前が似ている問題だが、これは語源がそもそも同じだからである)

 前述した通り、日本でケンタウルスα星Aがリギル・ケンタウルスと呼ばれることは少なく、翻訳書ほか一部の書籍で用いられる程度。アルファ・ケンタウリという名前とそのもの自体はウルトラマンや宇宙戦艦ヤマト、ガンダムやトランスフォーマー、アバターなど様々な作品で登場しているため知名度が必ずしも低いわけではないだろうが、リギルという呼び名自体はほぼ確実にマイナーなものである。リギルという名付けの一点を以て、私は絶対ウマ娘の開発に天文オタクがいると確信した。

 余談。リギル・ケンタウルスという名の原型は遅くとも10世紀ごろから用いられているが、ケンタウルス座α星Aが、リギル・ケンタウルスという固有名で正式に命名されたのは2016年11月6日のことであり、ウマ娘プロジェクトの情報の初出が、2016年3月26日「AnimeJapan2016」のCygamesステージであり、ウマ娘プロジェクトの発表より遅い。

カノープス

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 2期から本格的に登場したチーム。ツインターボ、ナイスネイチャ、マチカネタンホイザ、イクノディクタスを擁する。チームの戦績としてはスピカやリギルとは比べるまでもないチームだが、勝ち切れないというだけで弱小チームではないといった描写がされている。2期から本格的に登場したチームではあるが、募集チラシは1期から登場している。1期1話、前述のシリウスの募集チラシがちらっと映るシーンで終始スペシャルウィークの身体に隠されて見えない黒基調のシック(に見えるが実際は夜空が背景になっている)な募集チラシがカノープスのそれである。

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 このシーン。よく見ると小さくカタカナのスらしき形が見える。

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 実際に全貌が見えるのはOVA『BNWの誓い』でマンハッタンカフェがゴールドシップとメジロマックイーンにコーヒーを振る舞うシーン。

 カノープスはりゅうこつ座のα星であり、シリウスに次いで夜空で2番目に明るい恒星。トロイア戦争時のスパルタ王の水先案内人に名が由来すると言われ、絶対等級ならシリウスやスピカ、リギル・ケンタウルスより明るい。南天に浮かび、東北以北では見ることが出来ず、角度的に観測可能な地域でも光害や長距離の大気を通過することにより、夜空で2番目に明るい星ながら、見ようとしなければ見ることが出来ない星。

 オールカマーでトウカイテイオーに諦めない勇気を示して見せたツインターボ、3連覇を賭けた春の天皇賞でライスシャワーに敗れたメジロマックイーンに声をかけたイクノディクタス、毎回トウカイテイオーにとって重要な言葉をかけたナイスネイチャ、ライスシャワーをしっかりと認めていたマチカネタンホイザ(ライスシャワーが精神は肉体を超越することをトウカイテイオーに示したため、そのライスシャワーをしっかり認めていたというのはトウカイテイオーやメジロマックイーンにとっての影響も大きいと思われる)が所属しているチームである。

 トウカイテイオーやメジロマックイーンといった主人公たちにとって重要なことを示し導き、主役でこそなかったかもしれないが、知っている人は知っている、本当は最も明るく輝いていたチームに名付けられた名前がカノープスであった。

 カノープスは太陽の約8倍の質量を持つ輝巨星ないし超巨星で、太陽の1万倍以上の光度を誇る。半径は太陽の70倍程度。巨星ということでこの記事を読んできた方はお判りいただけるかもしれないが、恒星としてはそろそろ末期で、その中でも特にブルーループと呼ばれる段階にある恒星。

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 以降は物語に直接絡むことなく背景にちょろっと登場するチームたちの名前となった天体について記載する。

ミモザ

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 ミモザはみなみじゅうじ座β星。直径は太陽の4倍程度、光度は太陽の数万倍。南天の星座であり、日本で見るのはなかなか難しいせいもあり、デカデカとポスターが画角に映るわりにあんまりメジャーではない天体。

 恒星のミモザという名前はオジギソウを指すミモザに由来するが、アカシアをミモザと呼ぶこともある。というか日本で現在ミモザと言えばアカシアを指すのが一般的。もともとはミモザと言えばオジギソウのことだったのだが、実際イラストに描かれている黄色い花はフサアカシアだろう。

 弱じゃない小チームと書かれているが、前述した通り元の星はだいぶデカい。どうでも良いことではあるが「-練習場所- 体育館と外周」とある。天下のトレセン学園の体育館を占領出来ていると考えると、強豪の雰囲気を感じるが、ウマ娘的にはやはりターフを占領出来るチームのほうが強豪なのだろうか……? あまりにもどうでも良かった。ミモザ終わり。

デネブ

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 『君の知らない物語』の歌詞にもあるため、天文に興味のない人からの知名度で言ったらトップクラスであろう夏の大三角の一角。はくちょう座α星。イラストにも白鳥と三角が描かれており、しっかり天体がモデルとなっていることが分かる。イラストの三角の一角に描かれている五芒星も、この形ならデネブはしっかりこの位置である。太陽質量の15倍、半径は108倍、光度も54,400倍以上に及ぶ重くデカく明るい恒星。夏の大三角の中でも最強。ただはくちょう座にはV1489星という観測上もっとも直径の大きい恒星と、X-1というブラックホール最有力候補の天体が存在し、そっちのほうがインパクトが強いかもしれない。

 コメントにおいて『ウマ話 セイウンスカイ編』で重要なポジションを担っているという情報をいただいたがウマ本は未履修につき。Blue Skyが問題なく世に出ていれば……。

アルタイル

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 夏の大三角の一角で、わし座のα星。例によって(?)『君の知らない物語』の歌詞にもあるため知名度が高いと思われる。わし座のα星であるが、アルタイルという固有名もアラビア語で『飛翔する鷲』を意味する語を省略したものであり、一から十まで鷲。

 ポスターの意匠もウマ娘のチームでありながら鷲の要素が占める割合が大きいものとなっている。またいわゆる彦星であるが、織姫であるベガはチームとしては確認していない。まぁウマ娘としてアドマイヤベガがいるため、チーム名にベガは使いにくかったか。

ベテルギウス

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 冬の大三角の一角。オリオン座のα星で、特徴的な赤色をしている。オリオン座α星ではあるが、明るさはオリオン座β星であるリゲルのほうが明るい。肉眼で視認できる恒星の中ではもっとも大きな恒星の一つで、太陽の900倍から1000倍程度の大きさを誇り、太陽の90,000~150,000倍の光度を持つ。その大きさは半径13億から14億kmほど。太陽の位置にベテルギウスを置くと木星軌道まで達する。

 歴史上においてはその色から、現代においてはその特性から、様々な観測がされている恒星であり、その天文学的情報は少なくともこんな記事で書くような話ではない。

 また日本ではベテルギウス=『巨人の脇の下(アラビア語。Ibṭ al Jauzah イブト・アル=ジャウザー)』という意味であるとよく話題にされるが、これは誤りである可能性が高く(アラビア語のアル=ジャウザーという語に巨人という意味がなく、しかもアラビアにおいてベテルギウスに巨人の脇の下という意味の名がつけられていない)、雑学的に話すと「いや、ジャウザーの手に由来するっていう説の方が有力なんだが?」というかなり強めのパンチを返される可能性があるため注意。ポスターのデザインとしてはアルタイルと真逆でウマ娘感を前面に押し出したものとなっており、ベテルギウスという単語からイメージ出来る赤色などといった要素は皆無。

カペラ

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 ぎょしゃ座のα星。西暦2021年現在北極星に最も近い1等星。西暦2021年現在というのは、西暦10000年前後には前述のデネブが北極星になるはずであるため、そうなるとデネブが北極星に1番近い1等星(というか北極星である1等星なわけだが)になるため。あまりメジャーではない気がする恒星ではあるが、夜空において6番目に明るい。

 イラストのウマ娘が誰なのか、またなぜイラストに象に見える何かが描かれているのかは不明。しかしウマ娘世界には馬が存在しないため、御者(前述の通りカペラはぎょしゃ座のα星である)は馬ではなく象を使役動物として馬車ではなく象車を運転していた、という世界設定を示唆するイラストである可能性もある。もしそうなのだとしたら脱帽ものである。

 2021年7月6日追記。象に見えるものは高解像度で見てみると子ヤギ的なものだった模様。

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 つまり象を使役していたんじゃないかみたいな考察はオタク深読みしすぎの一言でバッサリと斬られ、無に帰すこととなった。

レサト

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 1期5話の食堂のシーンに登場する。5話の画角にはレサ、までしか映っていないが、OVAのBNWの誓いで、食道からナリタタイシンが立ち去る際の引きの画においてポスターの全貌が映り、レサトであることが確認できる。

 追記。同じ5話において、ゴールドシップの目に箸が刺さるシーンの直前でもしっかりと全貌が確認できるレサトのポスターが映っていた。

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 とはいえそもそも「レサ」から始まる恒星はさそり座υ(ウプシロン)星レサトくらいしか存在しないはずであるため全貌を見ずとも特定は可能。赤色の文字で書かれ、赤い髪のウマ娘が描かれ、全体的に赤めの印象を覚えるポスター。レサト自体は赤い恒星ではないが、さそり座というと赤の印象は確かにあるだろうか。十中八九アンタレスのせい。

アンタレス

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 ウマ娘公式資料集の中にポスターデザインが見られる。ポスターには

 Let's run with us.(私たちと一緒に走ろう。)
 We are waiting for you!!(私たちはあなたを待っている!!!)
 You do not mind if you came anytime!(いつでも来てね!)
 From Team Antares(チームアンタレスより)

 とある。

 恒星としてのアンタレスはそれなりに知名度が高いであろう夏の南の空に赤く輝く一等星。さそり座α星A。直径は太陽の680倍とされており、明るさは太陽の4万5000~12万9000倍ほどと考えられている。赤色超巨星であり、変光星なのだが、0.88等から1.16等ないし0.75等から1.21等あたりで変光するため、変光についてはほとんど確認できないレベル。それ以外にも伴星の存在や掩蔽(えんぺい)の発生など天文的には話題に事欠かない。

 固有名はギリシャ語のΆντάρηςから来ており、現代語風に訳すと、アンチアレスあたりが近い。アレスとはつまり火星なので、反火星、火星に拮抗する星というのが名付けの語源となる。ただこれは単に火星の敵というだけでなく、ギリシャ語のἀντι-には「~に似た」の意味もあり、つまり火星に似た星という意味合いも含まれている。黄道の近くに位置することから、アンタレスはときおり火星と接近することがある。そのとき、その赤い色から火星と競い合っているように見えることからその名前が付いたものと考えられている。

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アスケラ

 いて座ζ(ゼータ)星。いて座で3番目に明るい恒星で、3等星。ラテン語で腋窩(えきか、脇の下のくぼみのこと)を意味する言葉に由来するため、ベテルギウスよりよっぽど脇の下。

シェルタン

 しし座θ(シータ)星。しし座の3等星で、アラビア語で『2つの小さなあばら骨』を意味する al-khurtān に由来する。

トゥレイン

 画像ではトゥレ、までしか確認できないが、トゥレと付く恒星はとも座ρ(ロー)星トゥレインくらいなはず。とも座の3等星で、齢50万歳。この記事で紹介する天体の中でもぶっちぎりの若手。アラビア語で『小さな楯』という意味の言葉に由来する。

シェリアク

 こと座β星。3等星。かなり独特な食変光星であるため、こと座β星型変光星というカテゴリが存在するが、チームそのものとの関係は不明。名前しか出てないし仕方がない。アラビア語で『琴』を意味する al-salbāq に由来する。

スラファト

 画角に映っている範囲からはスラ、なのかステ、なのか判別が難しいが、ステ~という名前の恒星が思い当たらない(し、Wikipediaにも項目がない)ため、おそらくスラファトであると判断した。こと座γ(ガンマ)星で、シェリアクと同じく3等星。アラビア語で『亀』を意味する言葉に由来する。亀の甲羅に弦を張って琴を作ったこととも関係があり、シェリアクとも命名の関係が深い。シェリアクとの命名の関係が深いことは関係がないかもしれないが、おそらくスラファトで間違いないだろう。

アルゲニブ

 こちらの記事で紹介したウマ箱第1コーナーの封入特典ウマ本の『ウマ話 セイウンスカイ編』に登場する(とコメントで情報をいただいた)チーム。あんな記事書いておいてウマ話を履修していないことがバレた。未履修のためどのようなウマ娘が所属しており、どのようなチームなのか不明なため天体としての説明だけ。

 アルゲニブはペガスス座γ(ガンマ)星。ペガスス座α星及びペガスス座β星シェアト並びにアンドロメダ座α星アルフェラッツと共に、秋の四角形や秋の四辺形とも呼ばれるペガススの大四辺形を構成する。アンドロメダα星であるアルフェラッツがペガススの大四辺形に含まれている理由は、アルフェラッツがかつてアンドロメダ座α星であると共に、ペガスス座δ(デルタ)星でもあったため。

 余談であるが、ペガスス座という名称は『日本語での正式な星座名にはラテン語読みを使う』というルールに基づくもの。英語読みであるペガサスのほうが聞きなれているだろうし、日本語としてはどちらも間違ってはいないが、テストで問われた際にペガサス座と書くと誤答扱いを受けるやもしれない。

 そういえばリギルの項目で全く触れなかったがケンタウロスやペガサス、ユニコーンといったような馬を元にした伝説上の生物は馬が存在しないウマ娘世界においてどのような姿をしているのだろうか。イベント『Brand new Friend』においてダイタクヘリオスが『ペガ盛り☆レインボーカツカレー』と発言しているため、ペガサスという単語は存在すると思われるが、羽の生えたウマ娘はビジュアル的に三女神と見分けがつかないのではないだろうか。あくまで『ペガ盛り』であり『ペガサス盛り』ではないためペガサスという単語はそもそも存在せず、馬を元にした伝説上の生き物もまた存在しない可能性もあるが、今後そういったことも明かされる機会があるだろうか。

 閑話休題。アルベニクはかつてアルジェニブと表記されたこともあり、Algemoと表記する書籍もある。そのアルベニクという語の語源には2つの説があり、まず1つ目はペルセウス座α星に与えられた Algenib から誤って命名されたとするもの。この説ではアラビア語のal-janb(アル=ヂャンブ、脇腹の意)が語源となる。もう一つは『馬の翼』から来たとするもの。この説ではアラビア語のal-janāh(アル=ヂャナーハ、翼の意)が語源となる。

 また、もしくはペルセウス座α星を指す可能性もある。ペルセウス座α星は現在ミルファクと呼ばれているが、2016年6月末までペガサス座γ星と同じアルベニクの名で呼ばれていた。6月末と少し曖昧に書いたのはWGSN(国際天文学連合の恒星の命名に関するワーキンググループ)がペガスス座γ星の固有名をアルベニクと承認したのが6月30日、ミルファクがペルセウス座α星として承認されたのは同年7月20日であり、同年7月1日から7月19日までのペルセウス座α星の固有名が不明だからである。リギルの項目で書いたように、ウマ娘プロジェクトの情報の初出は、2016年3月26日「AnimeJapan2016」のCygamesステージである。2016年11月6日に命名されたリギル・ケンタウリがウマ娘アニメに登場していることから可能性は非常に低いが、ウマ話にアルベニクという名前を登場させることを決定したのが、この6月20日以前であった可能性も一ユーザーとして完全には否定ができないため、可能性としてこのペルセウス座α星についても記載した。ウマ話を読めばもしかしたら判断できるのかもしれないが。

 読み返してみたらペガサス座γ星の話ほとんどしてなくて泣いた。

アルビレオ

 アルゲニブと同じく、ウマ箱第1コーナーの封入特典ウマ本の『ウマ話 セイウンスカイ編』に登場する(とコメントで情報をいただいた)チーム。セイウンスカイが所属しているのはアルゲニブではなくアルビレオであるらしい。

 アルゲニブの項目ではウマ話未履修によりウマ娘における説明を書けなかったのにも関わらず、天文的にも碌な情報を書けなかった。それが少々心苦しいためアルビレオは気合を入れます。チームリストに載ってる恒星の項目のほうが内容が薄い? あれは解読がメインだったので(無慙の構え)。

 アルビレオは、望遠鏡で見ればすぐにそれと分かる見かけの二重星で、はくちょう座β星。ただ二重星であるはくちょう座β星を指してアルビレオというのは通称である。気合を入れると表明したため、呼び名についての厳密な話も少ししていこう。

 アルビレオという語が指す天体は3つある。まず1つ目は、前述した見かけ上の二重星であり、金色に輝く3等星アルビレオA(はくちょう座β星A)と青色に輝く5等星アルビレオB(はくちょう座β星B)からなる二重星であるはくちょう座β星の通称。一般的にアルビレオと言えばこれ。

 またアルビレオA、すなわちはくちょう座β星Aはそれ自体がはくちょう座β星Aaとはくちょう座β星Acからなる連星である。この二つの天体の総称であるはくちょう座β星Aをアルビレオと呼称することがある。連星であるシリウスAとシリウスBをまとめてシリウスというようなもの。これが2つ目だが、アルビレオと言った際に、話者が連星であるところの『はくちょう座β星A』を指しているということはほとんどない。

 3つ目は国際天文学連合の公式なリストによる呼称。国際天文学連合においては、はくちょう座β星Aaの固有名を『アルビレオ』としている。そのため学術的にアルビレオと言ったときにははくちょう座β星Aaを指すのが厳密であり、アルビレオとは何か、と問われた時に答えるべきははくちょう座β星Aaである可能性が高い。何の断りもなく使った『アルビレオA、B』という表記は正式なものではなく、慣用表現ということになる。しかし、はくちょう座β星Aならびにはくちょう座β星B、と書くのは文面が硬いので以後この記事ではアルビレオAとアルビレオBと呼称する。

 余談だがアルビレオAaは面白い星で、現在存在する公転周期説から計算できる質量と、固有運動から計算される質量が合わず、Aaが質量を失っている説や、星系内にブラックホールが存在する可能性などが考察されている。

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↑画像中央の黄色っぽい星がアルビレオA、その左下にあるやや暗く青っぽい星がアルビレオB。画像をクリックすることでアストロアーツの天体写真ギャラリーのページへ飛ぶことが出来る。(撮影:天文信州人様) 

 アルビレオは『北天の宝石』と呼ばれることもあり、宮沢賢治の小説『銀河鉄道の夜』の中で天の川の流速を測る観測所として登場した。その際『眼もさめるような、青宝玉と黄玉の大きな二つのすきとおった球が、輪になってしずかにくるくると』と記している。宮沢賢治はアルビレオAをトパーズと、アルビレオBをサファイアと称したのだ。明るくはないが全天でも屈指の美しさを誇る恒星の一つといって差支えは無いだろう。この記事で紹介した天体の中ではそれなりにメジャーな部類と言える。そうでなければ気合を入れたとしてもこの文字数にはならない。Jリーグのチーム名の元になっていたり、T.M.Revolutionの18枚目のシングルの名前になっていたりとそれなりに名前が使われる恒星であるため、どこかで名前を聞いたことがあった人もいたのではないだろうか。

 名前と言えば、アルビレオという名は

1.はくちょう座を指すギリシア語ornisがアラビア語でurnisに変化し、

2.中世にアラビアの天文学専門書であるアルマゲストがラテン語に翻訳された際、これが植物のカキネガラシSisymbrium officinaleのギリシア名であるerysimonのことであると考えられ、

3.そのラテン語名であるireoと翻訳され、

4.その後にab ireoという記述がアラビア語の術語の誤写だと誤解されal-bireoとされた。

という誤解と誤訳のオンパレードから生まれた。また、中世のアラビア語話者の天文学者にはminqār al-dajāja(雌鳥のくちばし)と呼ばれており、今でも英語では英語ではbeak star(くちばしの星)と呼ばれることがある。これはアルビレオがはくちょう座のくちばしの部分にあたることに由来する。

 最後に恒星ではないが宇宙関係ということで余談。ゴールドシップがホーム画面背景で「ドーナツを並べて土星に行く。本気を出せば明後日には着くから予備のドーナツを持って一緒に来いよ」という話をするシーンがある。

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 画像の通りゴールドシップはここから土星まで80光年と述べており、ボイスでも80光年と言っている。しかし、当然ながら地球から土星までの距離は80光年もなく、地球から土星までの平均距離は約13億km、直径10cmのドーナツを13兆個並べたくらいで、時速約11億kmの光で約80光分ほど。ウマ娘の最高時速である時速70kmで常時走って18571428時間≒773809日。閏を考慮しないと2120年ほどかかる計算となる。普通のウマ娘であればアグネスタキオンに光速とウマ娘の最高速度の差である1,079,252,778.8kmを埋めるための研究をだいぶ頑張ってもらうほかないが、ゴルシならまぁ3日で行ける気もする。

 と、なにからなにまで間違っているシーンではあるが、太陽から土星までの最長距離が14億kmほどなので1.4という数字はそこから出てきたものと思われる。ただドーナツの数が違うことと光年と光分が間違っていることについての理由は不明。

 では実際に地球から80光年の場所には何があるのかが気になる人もいるだろう。有名なものはなく「PSO J318,5-22」と呼ばれる浮遊惑星が存在する。

 この余談、以前はカノープスの項目にあった。理由としてはとあるサイトでカノープスの距離が80光年とあった(本来は310光年ほどの模様)ため。複数の情報ソースにあたることなく、それに基づいた誤記を行っていたということだ。大変失礼いたしました。

 閑話休題。これで「実はウマ娘世界は地球ではなく、PSO J318,5-22に存在しており、偶然地球と同じ国名や地名、レースが存在するだけであり、ゆえに土星まで80光年というのは間違いではない」とかそんな設定を明かされて「このテキストはその設定の伏線だったんだよ、地球でウマ娘なんて強い動物種が生まれるわけないだろ!」とか言われたらぶったまげてしまうが。でも実際ウマ娘世界、地球だとは明言されていない(気がする)。異世界の競走馬の魂を引き継いだという設定もあり、現実ベースの異世界であることは確定であるし。

 とはいえ結局10cmのドーナツを1.4億個並べても14000kmにしかならないのは地球だろうがPSO J318,5-22だろうが変わらない事実であるため、そんな設定もないだろう。そもそも浮遊惑星とは恒星などの天体の重力圏にない惑星を指す。文明が生まれるとは考えにくい。

 『でも実際ウマ娘世界、地球だとは明言されていない(気がする)。』に対しての追記。2021年6月28日に、同年同月29日から始まるイベント『幻想世界ウマネスト』の告知動画がTwitterのウマ娘プロジェクト公式アカウントによってアップされた。その動画内の24秒程度の地点でエルコンドルパサーが「もう一つの地球があるのデスか!?」と発言しており、ウマ娘世界が地球であることが判明した。いや、分かっちゃいたけど(小声)

 このテキストを書いた方が書いた際に疲れていた(開発段階での素のミス)のか、ゴルシは賢いがそれはそれとして適当なこと抜かしている(頭の良いハジケリストが数字に関しても適当なことを言い始めた)だけなのか。ゴルシだから後者と言われても納得できなくはないが、個人的にゴルシは客観的事実とされていることに関して、それに反して適当なことを言うキャラクターではないと思っているため、前者な気もする。どちらであったとしても、ゲーム体験に悪影響があるわけではないため、言ってしまえばどちらでもよく、結局直径10cmのドーナツで宇宙を旅するなら、ドーナツは億単位ではなく兆単位用意しておいた方が色々なところに行けそうということ以外何も分からない。

 差し当たってこの記事は以上である。すべてのウマ娘コンテンツを履修できているわけではないため、もしこんな恒星も名前が登場した、といったことがあればコメントでお教えいただければ幸いである。

 もともとはシリウスについての深読みを吐露したかっただけの記事だったのだが、書いてみればドマイナーの恒星が登場したりと、驚かされる点は多々あった。ウマ娘というコンテンツは競馬についての細かい話以外にも様々なところまで手を抜かず作っていることを改めて実感させられた。

 それはさておき、やはりこういう妄想を文章にするというのは非常に楽しいため、もしこの記事を読んだあなたの得意分野がウマ娘に登場しており、それが非常に作りこまれていた際は、どのような形であれ、それがどのくらい作りこまれているのか、どのくらい細かいネタが拾われているのかを書いてみたり、動画にしてみてほしい。私が読んでみたいので……。

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