コンビニのATMは、なんだかイヤ

僕は得意げに話した。

「農協のキャッシュカードは、セブンイレブンとローソンのATMは、平日の日中は手数料が無料なんですよ」

もう一つの大手コンビニのファミリーマートの場合はATMが2種類あって、ゆうちょATMの方だと手数料がかかるから、トラブル回避のためにファミマの名前は出していない。

あと、土曜日も2時まで無料だけど、細かく話しても混乱を招くから、端的にわかりやすく「平日の日中」と言っている。

山之内国子さんは60代半ばで、年金をもらうようになって3年くらいだそうだ。

今は、地元の片朋木信用金庫さんの口座で年金を受け取っている。

農協の口座で年金を受給してくださっているお客様へのサービス「年金友の会」の活動で、毎年恒例の日帰り旅行がある。

その旅行に、近所のお友達の長谷川昌枝さんから誘われていて、年金受け取り口座の変更手続き「指定替え(していがえ)」のご説明にお伺いしていた。

「うちは片信(かたしん)さんが近いし、農協さんに行くのと違って県道を渡らなくて済むから行きやすいのよね。私、車の免許持っていないし」

農協より信用金庫の方が自宅から近く、大きな道路もまたがずに行けるため、お金を払い戻しに出かけることを考えると、農協への変更はいささか足踏みしている様子だった。

でも、山之内さんの家の並びで、200mちょっと先、最初にさしかかる信号のある交差点の角には、セブンイレブンがある。

そこで、利便性が良くなったことをアピールしようと、平日日中手数料無料のご説明をした。

すると、

「へー、そうなの。

でもコンビニのATMって、銀行のATMと違って囲まれてないでしょう?

すぐ後ろを人が通ったりするのって、なんだか嫌なのよね」


コンビニのATMが普及しだしたのはここ15年くらいだと思う。

だから、それ以上前からATMを使っていた年代のお客さんは、コンビニのATMが凄く、凄く、使いずらいと感じている。

何万、何十万というお金を下ろすのに、背後に簡単に人が立てる場所というのは、これまで経験したことのない恐怖を感じてしまう。

自分自身はコンビニATMはとても便利で、多用してきているだけに、最初にその話を聞いた時は意外だった。

「そうですね。暗証番号を入力したり、お金を出したりするところを見られているのは何だか怖いですよね」

山之内さんの意見に同感し、距離感の利便性について無理に話を勧めるのはやめた。

話のポイントを変更し、

「電気電話や税金とかの引き落としの変更はお手伝いさせていただきますので、農協に変更してもいいかな?と思った時にはまたおっしゃってください」

山之内さんは長谷川さんと良くお話をするらしい。

農協として避けなければならないのは、不評だ。

年金友の会の日帰り旅行には、山之内さんも行きたいと思っている。

おそらく、今すぐは決断にいたらなくても、今年の旅行の前には決断いただけるはずだ。

農協職員からのお話より、地元や親しい人からのお話によって、農協を選んでいただける流れが一番理想的だと思っている。

農協職員は2~3年で変わってしまう。でも、地元や親しい人は10年20年と長くつきあっていくものだから。

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