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サトコとナダ(作者:ユペチカ、監修:西森マリー、出版社:星海社)を読む

普段からみなさんは宗教の話をするでしょうか?

私は仏教に興味がある分、比較的熱心に宗教の話をする方なのですが、正直言って、宗教の話をするとあまり良い雰囲気にはならないと思います。

例えば日本の仏教、とりわけお坊さんの話になると、「坊主丸儲けって本当なのか?」とか、「葬式くらいしか関わりがない」とか、お金や葬式時の不満とかくらいしか話に上らなくなってしまいます。それは世間的に見て、仏教に魅力がないとか、そういう理由があるのは分かっているつもりですが、やっぱり良い雰囲気にはなりません。

また仏教に限らず、「死後の世界観」とか、「戒律の内容にどんな違いがあるか」など宗教全般に関わる話となると、さらに雰囲気が悪くなります。そもそも、そんなことを話題にしなくてもいいだろうと思われるかもしれないけれど、話したくなる時があるのです。

その嫌悪感はどこから来るのでしょうか。その主な感情は「宗教って何か怖い」と「よく知らないのに喋ってはいけない」の2つだと思っています。

「宗教って何か怖い」というのは、きっとカルトや悪徳な新興宗教のせいで、洗脳やしつこい勧誘といった悪いイメージが定着してしまったせいだと思われます。

「よく知らないのに喋ってはいけない」というのは、真面目な人に多い印象で、話題にするためにはしっかりと勉強して、配慮ができるようになってからと考えているようです。それ自体は全然悪くないし、むしろそういった慎重な態度はSNS時代には特に大事だと思います。しかし、よく知らない中で、考えたことなどを聞いてみたい自分にとっては、もっと気軽に話してもいいんじゃないかなと思っています。

さてようやく本題ですが、そんな「宗教って何か怖い」や「よく知らないのに喋ってはいけない」といった感情を振り払ってくれるような作品があります。

それが「サトコとナダ」という四コマ漫画の作品です。

ストーリーは、アメリカで留学しているサウジアラビア出身の「ナダ」と日本人の「サトコ」が、ルームシェアをしながら生活している日常の風景を描くといったものです。

そしてこの作品の肝の部分は、なんと言っても「サウジアラビア出身のナダがイスラム教徒であること」です。ナダとサトコのやり取りを通して、イスラム教の習慣や教義などを学べたり、普段自分たちが抱きがちなイスラム教への偏見について、考えさせてくれる作品になっています。また舞台がアメリカということもあり、イスラム教についてだけでなく、様々な文化の違いについても取り上げていて、「多様性」といったものに思いを巡らすキッカケになる作品になっています。

自分が特に好きな話は「選択」というお話です。サトコがナダに対して、「ニカブを着ること」について質問するというものです。「ニカブ」などのイスラム教圏の伝統的な女性の衣装は、すっぽりと体を覆うものが多く、何も知らないと、その光景はただ異様に見えます。それに加えて、服装の自由が無いように見えて、とても窮屈にも見えます。しかし、ナダの答えは決して悲観的なものではなく、むしろ普段私たちが直面している「見た目」の問題について考えさせられるものでした。(ぜひ作品を見てください。)

もう一つ好きなシーンを。それは「モヤモヤ」と「はずかしい」という名前のお話です。

バス停で待っていたサトコですが、その前をバスが通り過ぎてしまいます。そこへちょうど同じバスに乗ろうとした友達のミラクルがバスを止めてくれて、なんとかサトコは乗車することができたのですが、「自分が現地の人間でないから」バスが止まらなかったのかとモヤモヤしてします。

ただこれはサトコの勘違いで、バスが来た時に「手を上げるルール」があることを知らなかっただけだったのです。にも関わらず、人種のせいで差別されたと思い込んだことにサトコは恥ずかしくなってしまいます。

こういう「勘違い」は別に外国にいかなくても出くわしますが、余程気をつけていないと相手に「やられた」と思ったままになります。普段から相手の行動にも「何か理由がある」というのを念頭において生活しなきゃなと、そう思わせてくれるお話ですごく好きです。

さてここまで啓蒙的な作品の良さばかり推してきましたが、この作品がいいなと思うのはそこだけではありません。

とにかく読んでいて「ほっこり」するんです。

文化の違いといったものを取り上げた作品なので、世界観が結構ギスギスしそうではあるのですが、全然そんなことはありません。徹底して主人公の二人はお互いがお互いの文化に対して理解していこうという姿勢を貫いています。お互いが相手の意見を拒否することもないし、変に歩み寄ろうということもありません。その姿勢ややり取りが、とても魅力的で、心温まります。

自分もそうやって毎日を送りたいなと思います。

それでは、まとめです。

「サトコとナダ」はイスラム教や多様性について考えさせてくれる上に、気持ちをほっこりさせてくれる作品になっているので、イスラム教に興味がある人や日常系が好きな人にオススメです。特にイスラム教についての作品でこんなに気軽に見られるものは、なかなか無いのではないでしょうか。この作品を読んで、「宗教ってなんか怖い」という意識を失くして、気軽に宗教の話ができるようになればいいかなと思っています。またおススメの理由として、ネットで無料で読めるということも言えます。何から何まで気軽なので、ぜひ御一読を!

以上、ご精読ありがとうございました!

※以下に作者のインタビュー記事も載せておきます。

興味があったらこちらもぜひ!

●「イスラム教って怖いものだと思ってた」。何も知らなかった著者が“等身大のムスリム”の漫画を描く理由

http://beinspiredglobal.com/Interview-Yupetika-SatokoandNada

●自分の世界から飛び出すきっかけになれたら――第3回「次にくるマンガ大賞」Webマンガ部門4位!『サトコとナダ』ユペチカさんインタビュー【前編】

https://ddnavi.com/interview/395371/a/



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