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ニートの歩き方 お金がなくても楽しく暮らすためのインターネット活用法(著:pha 技術評論社)を読む


ニートと聞いて思い浮かべることはなんだろうか。「なまけている」、「だらしない」、「甘えている」…たいていの人は良いイメージなんて持っていないのではないだろうか。最近は本当に不景気で、仕事がない人やなくなった人に関して一定の理解を示している人は多くなってはいても、何もしていない人に対するイメージは悪いものというのが当たり前のことになっている。

すこし話は変わるが仕事のあるなしに関するこんな話がある。それは若者の就労支援を主な活動内容としているNPO「育て上げネット」の代表者である工藤啓さんの話だ。

工藤さんは結婚していて、子供もいるのだが、子供が生まれた時に二ヶ月間の育児休暇を取った。生まれたばかりの時は、母子共に体が弱っているのでその生活の手助けをするためだ。(かっこいいなぁ)しかし、ごはんを作ったり洗濯したりしても基本はやることがない。そこで朝と夕方に犬の散歩をしていた。同じ公園にいっては休むということを繰り返していたそうだ。二週間ぐらいした時にいつもは感じない熱い視線を感じた。その視線は専業主婦をやっているらしい集団の人たちもので、ついにその人たちにこう話しかけられた。

「何してるの?」

怪しいものと思われたらしい。工藤さんは自分がNPOの理事をやっていて、今は育児休暇をとっているということを説明した。なんとか納得してもらえた工藤さんだが、別の日に次はゲートボールをしているおじさんに「何してるんだ?プー太郎か?」と言われてしまった。また同じ説明をして納得してもらう。そして次はそこにいたホームレスの人に「なんであいさつしてこないんだ!」とお叱りをうけてしまうはめにもなった。工藤さんをホームレスの新入りと勘違いしたらしいのだ。色々な誤解を受けてしまった工藤さんだが、最終的には誰かが警察をよんでしまうこともあったそうだ。(この話はこちらの動画でみられます→ http://youtu.be/lWkEeX1E72Y )

学生のような年齢じゃない人が昼間公園にいると変な人という扱いを受けてしまう。働いていない男性を許容する社会じゃないというのが分かるエピソードだと思う。もちろんそれは「ひどい」とは言えない。多くの場合仕事をしていない人というのは警戒する対象だ。悲しいことにそういう見方が体にしみ込んでいるのだ。だからその場にいた人たちがひどいことをしたというのは言えないだろう。しかし、働かないということはこんなにも他から圧力があるのだということは知っておいていいかもしれない。

「働かない」「働けない」というのはものすごいプレッシャーだ。しかし、働くことに向いていない人たちも一定数はいるはずだ。集団になじめない人、仕事がうまくできない人、時間がどうしても守れない人…それらは「努力」していない人と見られがちだがそれは単に適性がないだけかもしれない。また仕事はなんとかできてもどうしても仕事はしたくないとかやりたいことがないという人もいるだろう。そういう人たちにとって「職のないプレッシャー」というのは重くのししかかる。なまじ仕事が出来る分なおさらだ。

そこでその「働くということの既成概念を取っ払って、別の生き方もあるんだよ。」というのをテーマにした本がphaさんの「ニートの歩き方」だ。この本にはphaさんがニートになった経緯や、ニートの生活の仕方、ニートのためのネット活用法、phaさんの社会にたいする考えがしるされている。phaさんは28歳に仕事をやめニートになった。パソコンやネットが好きな人が集まって暮らすシェアハウス「ギークハウスプロジェクト」の発起人であり、twitter bot作成スクリプト「Easy Botter」の作者でもある。圧縮新聞とか見たことがある人はいるんじゃないだろうか。

この本はニートという単語が題名にあるので手に取るのを躊躇する人も多いだろうがためになる情報が整理されているので気軽に読んでも良いのになと思った。特に第三章のニートの暮らし方は、もし自分が職がなくなったり、家がなくなったとしたらどうしたらいいかが細かに書いてあるのでおすすめだ。とにかくネット環境は確保しなければいけないとか、ニートこそ健康に気をつかわなければいけないとかなかなか大事なことが書かれている。僕はこれを読んで「なんとかなるんじゃないか」と思うと同時に「ニートと言えど、本当に何も考えないわけにはいかないんだな」と唸らされた。

さてこの本には繰り返し出てくることばある。それは「人とのつながり」だ。phaさんがニートをやめるきっかけになったひとつとしてネットでゆるい人とのつながりが維持できるからということがあったし、ギークハウスプロジェクトも人とのつながりをつくる取り組みであるし、またお金もモノも人とのつながりがあればなんとかなると思っている。実際にカンパして貰ったり、アマゾンの欲しいものリストから支援物資が届くことがあるらしい。

それは甘ったれた考えだと思う人もいるだろうけれど、この人とのつながりは生きる上で大切なものだ。人との繋がりがある人の方が就職がうまくいっている例もあるし、また上の文章で紹介した工藤啓さんの動画でも一度孤立してしまうと文化資本、社会関係資本、経済資本が低下してしまい身動きが取れなくなってしまうということが語られている。自分たちの生活が上手く回っているのはもちろん自己の努力によるものがほとんどだろう。しかし、その根本を支えているのは人とのつながりなのである。

またこの本の(というかphaさんの)面白いところは人とのつながりを大事にしているとはいっても、phaさんはコミュニケーションが苦手だということだ。人と喋り続けることはできないし、ちょっとでも密なコミュニケーションを取ると眠れなくなってしまう。そこで、ギークハウスというシェアハウスを作ったのは「人と直接コミュニケーションせずに孤独にならない」ということを目指しているかららしい。この考えは非常に有効だと思う。コミュニケーションが苦手な人こそ人とのつながりが重要で、それを苦もなく実現できるシステムを構築しようとしている phaさんはただただすごいなと思うばかりだ。

まとめ。この本は既存の価値観に疑問を持ち始めた人におすすめだ。どうしても常識に乗れない人は読むと心が楽になるかもしれない。また今悩んでいる人はこれを読む前に身近な人に相談したり、ネットで新たな友人を見つけてみたり、カウンセラーのところに行ってみるのもいいかもしれない。本当にニートになりたいのか、今目の前の問題が解決すればまた普通に生活できるのか見極めるというのは大事なことだ。

ふぅ。人とのつながりが大事だという手あかのついた結論になってしまったけれど、やっぱり大事だから手あかがついているのだ。どこまでいっても人は人無しでは生きられないのである。次はどうやって人とのつながりを得るか、コミュニケーションをどうしたら取れるのかということが問題になるんだろう。それはまた別の機会に。

以上、お相手はとばりのカシオでした。

※ニート→自由→free→flea!というわけでレッチリのスタジオライブを張っておきますね!

読んでくださってありがとうございます。サポートしていただいたものは、読みたい本がいっぱいあるので、基本的に書籍代に当てたいと思っております!