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人生を変える「数学」そして「音楽」(著:中島さち子 講談社)を読む


僕は友達の弟の勉強を見ているということを前の記事で少しだけ書いた。なんの勉強を見ているかというと数Ⅱなのだが、彼が納得できるようにするのがなかなかに難しい。

そもそもまずこの勉強の目標がなんなのかということから説明しよう。それは「赤点回避」である。ヒトが勉強をしなければいけないという状況になるには二通りあるだろう。それは長所を伸ばす場合と短所を補う場合のふたつだ。今回の場合はこの短所を補うということになるだろうか。さてこの「短所を補う場合」に必要な勉強というのは基礎的な部分を教えることが主になるため教師役の側に高度な問題を解くひらめきがそれほど必要ではない。だから比較的簡単といえる。しかし、「それが苦手である」ということは「その内容を理解する回路が上手く頭に作れていない」ということでもある。そう。教える内容は「覚えるだけ」のようなものでもそれを理解する「回路」を「その人なり」に作る手助けをするというのは相当に難しいのである。

自分自身英語が苦手で、無理矢理に語源や文法、発音を覚えてテストをやりくりしていたのでその理解できない苦悩というのは嫌というほど分かる。(今ではほとんど英語の聞き取りができなくなってしまった、、、いつかやり直したいと思っているのだけれど、、、)

さてさて。それではどのようにしてその回路を作っていくのかというと、なんのことはない。「丁寧に相手の話を聞いて、躓いてしまった所を探りあてる」か、「自分の興味のある分野に引きつけて考える」ということだけだ。人というものは不思議なもので苦手意識があると、分かっているはずのこともわからなくなってしまう。例えば二次関数の平行移動はわかってるのに、三角関数の平行移動はわからなくなってしまったりとか。こっちでは理解できてるのに少し変わるとわからなくなってしまう。そんな思考の溝を見つけて上手く繋げていくのが「丁寧に相手の話を聞いて躓いた所を探る」ということだ。またよく言われていることだけれど興味のあるor湧く話題に関連づけるというのはとても有効だ。最近もsinのグラフを教える時に「なんでこんなグラフなのか?」ということに悩んでいた。単位円を用いて2π以降も同じ動きをするからだとか説明してもどこかしっくりこない。そこで「このグラフは音の振動数とか表すときとかにも使うよ」と言ってみると「あぁ!なんか見たことあると思った」と一気に腑に落ちてしまった。もちろん理解しているのかは怪しいけれど、頭の中にsinのグラフがなんであるかというのが少なからず刻み付けられたのだ。正直原理とかすっ飛ばして覚えるというのがまず一番大事なのだ。考えるのは後でもいい。(どうしてそうなるのかと考えるのは楽しいけれど、苦手はその楽しみをわすれさせてしまうんだよなぁ)そうして元々ある知識と結びつけいく間に苦手な分野も身近に感じられるようになるのである。

とまぁここまで勉強についてひたすら書いてみたけれど、今回読んだ本はまさにそんな「身近な話題やついつい考えてしまう不思議な問題を取り上げて、数学や音楽への余計な先入観をとっぱらって楽しんで学んでしまおう」ということをテーマにした本だ。著者はジャズピアニスト、音楽家、数学者として活動している中島さち子氏。小さな頃からピアノと作曲に親しみ、数学は中学二年生の頃に没頭し、その魅力にとりつかれたそうだ。高校生の頃には国際数学オリンピックで金メダルと銀メダル獲得している。現在はバンドでのピアニスト活動、数学研究、塾講師ネットラーニング会社員をしているなど筋金入りの「数学」と「音楽」の愛好者だ。そんな中島氏だからこそ数学と音楽への愛に満ちあふれた内容となっている。そんなにすごい人が書いた本だからといって、難しい理論や理屈が細かに書かれているわけではなく、数学や音楽に必要なエッセンスを易しく、そしてワクワクするような内容で教えてくれるのだ。

それでは本の内容の感想に入っていこう。章は全部で九つ。その中で音楽を明確に扱っている章は第七章と第八章のふたつだけだ。「音楽」というよりは「数学」の本という印象を受ける。「音楽」についてしか興味がない人には物足りないかもしれない。しかし、この二つの章、特に第七章を読むだけでも面白いと思ってもらえるはずだ。第七章は音楽で遊ぶ、発明するというテーマで、僕が面白いと思ったのは自分でリズムを作るというものだ。実際にその一部を体験してみよう。まず一定の感覚でポン・ポン・ポン…と手を叩いたり、机を叩いてみる。続いてそれが出来たらそのリズムに合わせて「ナシ」と口で言うのだ。やり方は「ポン」と叩く時に「ナ」を「ポンとポンの間」に「シ」を言う感じだ。ポンの裏を「シ」で埋める感覚といったらわかりやすいだろうか。そうこれが二のリズムである。同じように次は「リンゴ」と口に出してみる。ポンの間隔を三分割する感じだ。音楽をやっている人は三連符だと思えばいいだろう。これが三のリズムの感覚だ。そうやってどんどん文字を増やして、大まかに拍を分割していく。そして今度はそれを同時にやってみるのだ。片方の手で二を、もう片方の手で三を叩くなど。…正直、僕は出来なかった。けれど、口で「ナシ」といいながら三を手で叩くというのはできた。いや、もうそれで十分に楽しかった。二つのリズムが同居する感じはとても心地よかった。パーカッションの楽しさってこうなのかなとも思った。またリズム感が無いというわけではないけれど、拍子の感覚は掴みづらくて困っていた。でも、これなら理解できそうだと思ったのである。他にももう一つリズムを作る方法が載っているが、それは実際に本書を手に取って確認して頂きたい。

(また第八章では調律や倍音に関する話が出てくるので本書を読んだ方は僕が前回書いた記事やそこに載っている参考図書なども見ていただきたい。)

それでは改めてまとめ。この本は「数学」と「音楽」の本ということだが、「音楽」に関する話題は少なめだった。しかし、上に紹介したように音楽に関する面白いトピックが載っているので、変わった「音楽」の本を読みたいという人は読んでみるといいだろう。また中島さち子氏の文章は本当に「音楽」と「数学」が楽しくて仕方ないということが伝わってくるものだった。最近、何やっても面白くないなぁと思っている人は中島氏の文章を読んで「物事を楽しむ」ということを思い出してみるのもいいかもしれない。

以上、とばりのカシオがお相手しました。

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