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自分の中の乙女が爆発する。

世の中の悲劇の原因は様々なものがあるけれど、お前が思いつくものはなんだと問われれば、僕は「恋愛」だと答える。恋愛というのは人を冷静でいられなくするもので、精神が安定していないと簡単に恋愛に依存し、生活のバランスを崩してしまう。いや、もちろん良好な関係を維持できている人がいることも知っているし、その素晴らしさも知っている。きっとバランスが取れなくなってしまう人間というのは恋愛に過度な期待を抱いてしまう人なのだろう。まぁ僕もそういった心根を持つ一人で、乙女心を持つ人が白馬の王子様を待つように、空から美少女でも落ちてこないものかと、ぶち破られるはずのない天井を、夜な夜なじっと眺めてしまうのだ。

しかし、恋愛に過度に期待を抱く人間というのは得てしてフィクションの世界で満足してしまうというもので、僕はそういう「自分の中の乙女」を押さえ込めるためにしばしば恋愛小説やマンガを読む。その中でもお気に入りなのが「うた恋い。」シリーズである。

うた恋い。は百人一首の恋歌をその背景のエピソードをもとにマンガにしたものだ。歴史もの(?)といっても、別段難しくもなく、絵もキレイで取っ付きやすいのですらすら読める作品だ。学校でならった清少納言や紀貫之、伊勢物語のモデルと言われる在原業平など、懐かしい名前がたくさんでてくる。あとこの作品はアニメ化もされていたりするのでたぶん知っている人は多いと思う。さて、冒頭に『「自分の中の乙女」を押さえ込むため』なんて言っていたけれど最初にこれを読もうと思ったきっかけは別にある。僕は一応ロックバンドのボーカルでかつ作詞もしなければいけない。そんな時なにか参考になるものはないかと思って、和歌なんかいいかなと思い至ったわけだ。義務教育で歌については少ししか習っていなかったけど、豊かな情景を表したり、ひとつの言葉に複数の意味をもたせて少ない言葉でも歌に奥行きをもたせたり、なにより今の人にはないような溢れ出す情感というのが印象に残っていた。かといってやっぱり古語にはもう自信がない。そこで手に取りやすいものは何かと思っていきついたのが「うた恋い。」だった。そしてドはまりしたという次第である。

読み始めて気づいたのが、歌は切ない恋だらけだということ。嫉妬、身分差、病による早逝…切なく悲しい物語だらけだ。でも、だからこそ真に迫る歌がたくさん生まれたのかもしれない。中でも僕が好きなのは藤原義孝の歌だ。

君がため をしからざりし 命さへ

ながくもがなと 思ひけるかな

いつ死んでもいいと思っていた 君に会うまでは

君に会えた今 いつまでも君といられたらと僕は願っている

※訳は「うた恋い。」56ページより引用

これは愛する人と結ばれた朝に詠まれたとされている歌。藤原義孝は将来を嘱望されていながら21歳の若さでなくなった。この歌を読んだ時はまだ病に臥せってはいなかったけれど、「うた恋い。」でも言われている通り、自分で薄命を予感していたかのようでせつない。そして何より、死にたくないと思えるような相手に出会いたいと思わせてくれたこの歌はとても気に入っている。他にも恋っていいなと思わせてくれる歌はたくさんある。実方と清少納言の恋や儀同三司母と藤原道隆の一途な恋などなど、これらは比較的切なくないエピソードで好きだ。もっと勉強して文学少女と恋歌について語らえるぐらいになりたいものである。

しかし、実際に読み進めてみて「和歌を勉強する」という当初の目的には使えないなってすぐに気づいた。和歌に関するエピソードに重点がおかれているので、和歌そのものの技巧の解説とかはないので。でも、そのエピソードの見せ方とか、というかやっぱり絵が好きでハマってしまったわけだ。それに歌そのものの解説はなくとも時代背景だったり、用語の解説はあるので、参考書を読む気構えはこれを読むことで用意することはできる。「入門書入門」としてはおすすめだと思う。特に「うた恋い。3」おすすめだ。なぜなら清少納言が主人公だから。清少納言の恋の話を聞けば思い入れも段違いになって、中学や高校のころにこういったモノに出会っていたら枕草子の勉強も捗ったのになと思った。

…ここまで書いていまさらながら恥ずかしくなってきたのでお別れを。僕もいつかは恋の話を堂々とできるような雅な男になりたいと思う。それでは!(お相手はとばりのカシオが努めました

読んでくださってありがとうございます。サポートしていただいたものは、読みたい本がいっぱいあるので、基本的に書籍代に当てたいと思っております!