見出し画像

メトリックスを見るときは事業の全体感を把握するのって大事だよね、というお話し

10XでRetail Strategy & Operationsの本部長をしている栃内(Tottiと呼ばれてます)です。
まずは簡単な自己紹介を。
10年弱コンサルティング業界でキャリアを積み、その後Amazonの消費財事業部で日本における品揃え戦略の責任者、Amazon FreshでHead of SCMを経て、2021年11月に10Xに参画しました。現在は小売パートナー様のEC事業を伸ばすための戦略立案や、店舗や倉庫などのオペレーションを構築する部門を組成しリードしています。

この記事は10X創業6周年アドベントカレンダーの20日目の記事になります。

昨日はデータサイエンス&エンジニアリング部の谷口さんが、「10Xで一人目のデータサイエンティストの奮闘記」という記事を公開しています!

はじめに

新卒のときの会計事務所の世界では、あまり事業成長のためのメトリックス(事業指標)ということを意識したことはなくて、なにそれ美味しいの?という認識だった。

戦略ファームにいた頃は、提案活動の中でKPIの設定がでてくることはもちろんあったが、それを自分ごととして捉えて、あの手この手でその改善のために泥臭く試行錯誤することも正直なかった。←よくない

前職のAmazonに入ったのがことの始まりだ。
どこもかしこもメトリックスで、毎週、毎月、毎四半期、あらゆる人からメトリックス改善の進捗と、目標との乖離、そしてGap fillのためのアクションを求められる生活にどっぷり浸かり、事業活動においてメトリックスを意識するということが完全にDNAに刷り込まれた気がする。

10Xに入ってからももちろんメトリックスは僕の生活に登場し、僕のチームを含め様々なチームの方達が、ネットスーパーという事業モデルを継続的に成長させるために、色々な角度で事業をスライス & ダイスしてメトリックスを定め、日々改善活動に汗水たらしている。

今日はそんなメトリックスに関して、Amazonから10Xまでの経験を通して個人的に重要だなぁと思っている内容について書いていこうと思う。

”一番重要なメトリックス”ってなんですか?

こうやってブログを書いていると、嬉しいことにちょこちょこDMで相談をいただくことがある。

「うちのビジネスモデルってこんな感じで、このメトリックスが成長レバーなので集中して追いかけているんですが、栃内さんからみるとどんなメトリックスが一番重要だとおもいますか?」多少言い方はぼんやりさせたが、こんなことを聞かれることがしばしばある。

もちろん、ぱっと聞いただけで僕が他人様の事業に対して”一番重要なメトリックス”がなにかとお伝えすることはできないのだけれど、たまに「お?本当にそのメトリックスを最重要指標として追いかけてて大丈夫かな?」というのもでてくるものだ。

たまにあるのが、売上とか、出荷数量とか、客数とかのいわゆるOutput Metricsをめがけてひたすらアクションを取られているケース。
AmazonでもBezosが口すっぱく「Output MetricsではなくInput Metricsを追いかけなさい。」と言うてたな。

「Amazon に初めて参入した上級リーダーは、実際の財務結果について話し合ったり、予想される財務成果について議論したりする時間がいかに短いかによく驚かれます。...私たちは、ビジネスへの制御可能なInputにエネルギーを集中することが財務を最大化する最も効果的な方法であると信じています。 時間の経過とともにOutputが得られます。」
- ジェフ・ベゾス

https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1018724/000119312510082914/dex991.htm
Letter to Shareholders in 2009 by Jeff Bezos

今回の記事で書きたいことは、実はそれとも少し異なって、”一番重要”なメトリックスだけを追いかけていると、うまくいかないこともたくさんあるよね、ということだ。(ただし、全部のメトリックスを追いかけなさいよ、ということではない)

例えば倉庫のお話し

僕がAmazon FreshでSupply Chainの責任者をしていた頃に実際に起こった話でこんなことがある。

AmazonにはIn-stock Managerという倉庫の物量をコントロールする職種の人間がいる。日々どの商品がどれくらい売れて、今倉庫にどれくらい持っていて、どれくらい発注すればいいのか、を常に考えている人だ。

彼らの追いかけるメトリックスで重要なものとしてIn-stock Rateというものがある。
特定の商品をカスタマーが見たときに買える状態になっている(つまり売切れになっていない)割合だ。100ある商品で9商品が欠品しているとすると、In-stock Rateは91%だ、と言うような具合に、できるだけカスタマーが売切れ状態を見ないようにすることが重要になる。
もう少し厳密にいうと、Amazonの倉庫の棚に出荷可能な状態として保管されている状態にあるときに、AmazonのWebsiteで”在庫あり”として表示される。

このメトリックスを高く維持するためにInstock Managerがやることは、カスタマーの需要を予測し、今倉庫にある在庫数量を確認して、発注してから納品されるまでのリードタイムを計算し、発注をかける。
このコントロールを完璧にすることでカスタマーの満足度も維持される。

コロナの時はこのコントロールが非常に大変で、カスタマーの需要も急にスパイクするし、市場に商品も枯渇して納品までのリードタイムもぐちゃぐちゃだった。
そんな状況でこのIn-stock Rateをコントロールするのは至難の業だ。

ある日このIn-stock Rateが下がり始めた。理由は色々と想像できたが、とにかくコロナで需要は上がりっぱなし、しかも品薄で発注してから納入までのリードタイムがコロナ前の3倍はかかっていたので、とにかく早くIn-stock Rateを回復させるためにIn-stock Managerは発注をかけまくる。
されどIn-stock Rateは下がるばかり。

そうこうしている間に倉庫の人間からものすごい剣幕で怒りの電話がかかってくる。

「オタクのチームが発注かけまくるから倉庫の入り口に商品が溜まって大爆発だ!」

このとき倉庫で何が起こっていたのかを図解するとこんな感じだ。
In-stock Managerは一番重要だとされるIn-stock Rateを改善するために、棚の在庫数量を増やしてウェブ・アプリに表示される”在庫あり”の数字を上げたかったが、倉庫に入荷された在庫受取した商品が棚入れに流れず爆破した。

In-stock Rateを上げることは大事なのだが、倉庫のサプライチェーンを可視化してみると、どこがボトルネックになっているのかがよくわかる。
Supply Chainを可視化し、事業の全体像を把握し、今どこがボトルネックになっているのかを理解する。
メトリックス管理に踊らされないためにとても重要なことだと思っている。

ちなみに、In-stock Managerの名誉のために言うが、彼らも通常だったらこんな間違いは起こさない。
コロナで異常事態の中、”一番重要な指標”であるIn-stock Rateを高めるというマネジメントからのプレッシャーが倉庫の入り口がパンクしているにもかかわらず発注をかけまくるとというアクションにつながってしまったのだ。

ネットスーパーの需要と供給のバランスの話

もう一つ違う角度からネットスーパーのお話をしてみる。

僕たち10Xは、現在ストアモデルと呼ばれる仕組みを中心にネットスーパー事業をサポートしている。
スーパーマーケットの実店舗の在庫をネットスーパーで販売できるようにして、ストアスタッフが店頭から商品をピックし、店舗のバックヤードで個別包装紙した後、お客様の元へ届けられる仕組みだ。
店舗のバックヤードという作業スペースの制約により、通常のECと異なり、1日にオーダーを受注できる件数に制限がある。
カスタマーは、商品を受け取ることができる日時を選択して枠を抑えることになる。

これが何を意味するかと言うと、仮にこのオーダー件数の上限が1日100オーダーだとすると、店舗はどれだけ市場にニーズがあったとしても、100オーダー分以上の売上は作れず、このオーダー枠が全て埋まった後に購入したいとってアプリを見てくれたお客様は、店舗にとってすべからく機会損失となってしまう。
ただ、需要は日々変動するので、店側は、今日どれくらいの枠を空けておくのかをあらかじめ決めておく必要がある。(商品在庫数量や、オーダーを捌くための人員・配送車両を手配しなければならないため。)

一方、ネットスーパーの集客のためにマーケティング活動を行なっており、マーケティング担当の人間は、如何にお客様のアプリへの来訪を促せるのかを一つのメトリックスとして追いかけながら施策を講じる。

仮にとある店舗のオーダー枠をカスタマーが抑えてしまい枯渇してしまったとすると、その店舗にいくら送客したとしても、意味がなくなってしまう。むしろ、せっかく来てくれたにも関わらず注文することができず、顧客体験としてはあまりよくないものになってしまう恐れすらある。

だからこそ、需要を創出するマーケティングサイドの人間は、店舗の供給サイドのメトリックスも意識しながら、今この店舗では需要<供給なので、もっとマーケティングをふかす必要があるのか、もしくは需要>供給なので店舗のオペレーションを改善して、1日に+10オーダーの枠を捻出することでこの機会損失を削減すべきなのか、事業全体を見て判断することが重要だ。

往々にしてマーケティングサイドのチームとオペレーションサイドのチームは別組織であることが多いし、僕らのビジネスモデルの場合、小売パートナーにも働きかける必要があるため非常に難易度が高い調整が求められる。

やはり、なにか一番重要なメトリックスを探すだけではなく、自分達の事業において、どのようなメトリックスの複合で事業モデルが成り立っていて、どのようなバランスを維持することが重要なのかという全体感の把握が重要になってくる。

メトリックスを組み立てて事業をドライブするお仕事って楽しいよね

10X で立ち上げたRetail Strategy & Operationsという組織は、主に上記のネットスーパーの供給サイドをいかに改善するかを考えたり、バランスを取るためのアクションを考えるのだが、需要を作っていくチームであるBizサイドやGrowthサイドと協業しながら働いている。

前職でも思ったが、事業を紐解いていきながら、どのようなメトリックスが事業成長のために重要で、どう定義して、どのようにアクションしていくべきかを考えるのは、自分はとても好きだ。

これを読んでくださっている方々の中で、事業のメトリックスの設計や運用に困っている方がいたら、一度全体がどのようになっているのかを俯瞰してみると良いかもしれない。
もしかすると、一番重要なメトリックス”に囚われて、スループットを阻害する”ボトルネック”がどこかに眠っているかもしれないから。

最後に

10Xではメンバーを募集しています!採用ページもぜひご覧ください。
https://10x.co.jp/recruit/
明日はファイナンス・アカウンティング部の前原さんが記事を公開する予定です。お楽しみに!

おしまい

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?