インクジェットとキモノについてーインクジェットの見分け方

”着物 インクジェット”で検索すると見分け方を知りたい方が多いみたいなので、作り手から見たインクジェットの見分け方について。

ネットを見ていてインクジェットの見分け方をブログとかで書いている着物関係の一部の方が、詳しく調べずに、書いている記事も中にはあります。今回は多くの人が知りたいと思っているインクジェットの簡単に見分け方についてまとめてみます。

インクジェットの見分け方

1.裏が白い


仕立て前の状態でインクジェットであれば裏が白っぽい。ただし、手工芸の友禅の技法によっては裏まで染まらない技法もあります。またスクリーンで染められたものも裏が白っぽいです。留め袖や訪問着は柄部分のみインクジェットを用いて引き染めを併用して裏まで浸透しているものもあります。インク量を増やし可能な限り裏まで浸透させてるところもあります。

2.細い線が、綺麗に滲まずにはっきりしている。

下の写真の糸目の細い線を見てもらうと綺麗に滲まずはっきりしています。これで手描きのものとおおよそ区別することができます。型友禅のものでも線ははっきりしていますが、よく見ると線の淵に滲みがあることが多いです。ただし、デザイン上、わざと滲ませたようなデザインもやります。

3.色数が多い、ぼかしが多い

インクジェットでは型染めのように色数に制限がないため、色数が多く使われます。また、インクジェットでは花などの柄のぼかし染め部分が綺麗にグラデーションになっています。型友禅(スクリーン含む)ではグラデーションが技法上難しいため、元々使用されていなかったり、ぼかし足がドット状になっています。上記に当てはまらないものもありますが、大凡上記の判断でインクジェットかどうかは見分けることができるかと思います。

補足

あと振袖限定ですが、48点セットとかのパッケージ商品の場合50万円以下のものにインクジェットが多く、50万以上の価格帯の商品は稀です。この50万円が高いか安いかは判断が分かれるところですが、インクジェットが出る前の振袖雑誌を見ると平均価格帯が今の倍の100万以上の価格帯のものばかりで柄ゆきもシンプルなものが多かったです。インクジェットによってデザインの幅と平均価格が下がったと言えます。

 生地について

判断の一つにインクジェットだから色落ちしやすいとか、薄い生地を使っているというような記述を見かけますがこれは正しくありません。

色の落ちにくさの指標である堅牢度は手描きや型染めよりも高く、色落ち、色焼けもしにくいです。インクジェットの染色技術自体は、海外のハイラグジュアリーブランドでも使用されている染色方法です。堅牢度が問題であればそもそもここまで普及はしなかったと思います。

また中国製の生地を使われているという認識も正しくはありません。中国製の生地は品質が一定でないことがあるため、プリント品質に影響することが多いため、丹後ちりめんなどの国産生地が使われています。ただし、コストダウンを図るために一部使用されるケースがあるとは他社から聞いたことがありますが、外国製の生地が使用されたりするケースは販売価格によるところが大きいと言えます。これは型友禅でも手描きでも販売価格に応じて使用される生地の厚みや品質も異なりますのでインクジェットを見分ける判断材料にはなりません。

量産品=インクジェットではない。

 意外かも知れませんが、インクジェットの技法は、生地の良し悪しに影響されるため、安くて品質の悪い生地は使うことができないんです。それはインクジェットは量産するためには、品質を一定にすることが必要となります。そのため、品質にムラができる商品は引き取ってもらえないため、安い生地や中国製の生地は避ける必要があります。
 また量産だからといっても30反くらいがロットになっているので、よほどのヒット商品ではない限り、量産される全体量についても型友禅などに比べると遥かに少ないです。インクジェットは紬のようなネップの多い生地や織りが甘く、糸が裏がえってしまう生地は使用できないため、それらの生地は厚みがある生地が多いため、そうした情報が独り歩きしているのではないかと思います。

証紙で判断することはできない

 あと証紙で判断というのもできないです。純国産絹マークは生地のことのため、インクジェットでも国産の生地が大多数しようされているため貼ることができます。また京友禅証紙は、京友禅協同組合連合会に所属する企業なら誰でも貼ることができ、インクジェットにも貼ることができるようになっています。使用されている着物の種類でいうと振袖が多いです。他の着物でも使われてはいるものの、生産コスト的に合わないため相対的に生産されていません。1万円とかで大量に販売されているようなものは、インクジェットではなく、シルクスクリーンによる機械染めです。

 以上、まとめてまいりましたが、1番、手っ取り早い方法ですが、冒頭にも触れましたが、呉服店の方に聞いてください。

きちんとインクジェットの説明ができる呉服店は、それだけ勉強されていると思います。自分の店でインクジェットを扱わないにしても、勉強されている呉服店であれば、一点一点の着物の染色方法などもきちんと調べた上で販売されているとおもいます。

インクジェットは偽物だとか言う人も作家さんや地直し屋さんも自分のテリトリーを守るために、
本当に自分の作品に実力のある作家さんであれば、インクジェット実力のある地直し屋さんであればインクジェットであってもきちんと直されています。自分の着物を売ろうとする本当に着物のことを勉強されている作家さん

自分としては、手描きや型友禅にも負けないインクジェットプリンターで作ったキモノですと自信を持って言えます。だからこそ見分け方をインクジェットを使って実際に作っているデザイナーの視点から書かせていただきました。

余談

とりあえず最初に、見分け方と関係ないけど、これだけは言わせて欲しいなと思います。インクジェットの着物を、手描きと偽って販売することは言語道断ですが、インクジェットで作られた偽物とか本物じゃないっていう人をネットで見かけることがございます。

確かに工芸としての着物とファッションとしての着物を着物として一括りにするのは無理があるのかも知れません。インクジェットに批判的な意見があることも重々知っておりますが、インクジェットで着物を作っている人の多くが、しっかりとデザインをやって、インクジェットでプリントの細部までこだわってものづくりをしています。

私達はインクジェットでできる技術の全てを駆使して着物を真面目にデザインしています。決して偽物を作っているのではありません。インクジェットだからって偽物の着物ってことはない。インクジェットを手描きだと偽って販売する人がいるなら、呉服店が偽物だったのではないでしょうか。

着物がインクジェットの技術を求めたのは必然的なこと

 私はインクジェットという技術を使っていますが、着物がインクジェットにたどり着いたのは必然だと思っています。多くの職人が知恵と技術を重ね、様々な染色技法を開発し、友禅染という技法が生まれ、明治期には海外からの染色技術、化学染料が取り入れられ、型友禅が生まれました。その後オートスクリーン、ロータリースクリーンなどの染色技術が発展し、江戸時代の古着文化から新品の着物が購入できるように、科学は誰もが色鮮やかな着物を着れる機会ができるようになりました。そして、染色技術を追求し、アパレルよりも先に着物業界はインクジェット取り入れてきました。

 いつの時代も着物は最先端の染色技術を追求してきました。インクジェットは現在、より良い染色方法を追求した着物の最先端の新しい技術であるのです。これから先もインクジェット以外の新しい技術が生まれるでしょうが、それらは間違いなく本物であるはずです。もし、皆さまを欺くような着物が生まれるとすれば、インクジェットという技術ではなく、売り手によって生み出されるものだと思います。

また僕は、インクジェットこそ今の着物業界を支える技術だと思っています。僕達の着物デザイン事務所は30代の若いデザイナー中心ですが、着物業界的には職人は高齢化し、数は減る一方です。僕はこの仕事を初めてから、自分の事務所以外で自分と同世代の人と仕事をすることはありませんでした。若いと言われてる人は50代です。ほとんどは年金をもらいながら働いている職人ばかりです。

 インクジェットは着物を作る技術であるとともにそうした着物業界に変革を与える技術と言えます。工芸的な着物が作れる環境ではなくなりつつあります。着物という文化を文化を継続するには、産業として維持する必要があります。着物は分業制でできているため、数を作らなければ成り立たない工程がいくつもあります。数を作れる型友禅の職人がいなくなっている現状の中、インクジェットの着物もなくなれば、一点物の着物を作れる環境さえなくなってしまいます。

今までと違う考え方で取り組んでいく必要があります。インクジェットはその一端の技術であり、これから着物と言う文化を広げていくにはインクジェットだけでなく、ポリエステル等の高機能素材等、ファッションとしての付加価値を高めていくことが必要です。着物だから工芸に拘るという時代ではなくなっています。だからといって、工芸としての着物の価値がなくなるわけではありません。

これからの着物は本来のファッションとしての着物へと回帰していくと思います。この昭和、平成という時代に生まれた工芸としての着物を見る目利きとそして、あたらしく生み出される着物をファッションとして着るバランス感覚。そのような着物の楽しみ方をされる方が増えれば、新しく着物の世界に飛び込む方も増え、工芸的な着物もファッション的な着物もより盛り上がるのではないかなと思います。



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