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3/16 。Strawberry Fields Forever

 辛いものを食べたらお腹が痛くなるなんてわかりきってはいるの に、カレー屋に入ってしまった。危機管理能力が低い。たるんでいる。

 店内ではThe BeatlesのStrawberry Fields Foreverが流れている。大学1年のころ仲が良かった男の子が好きだった歌で、真似して聴いていた。私はその子のことが友達としてとても好きで、もしもその子が車に轢かれそうになったら身代わりになってあげられるくらい好きだったのだけれど、向こうからの「好き」はそういう種類の好きではなかったらしく、告白されたのを断ったら友達ですらいられなくなってしまった。

 理解されないのならば、わたしの「愛」ってなんだろう?思春期を超えて、いつもいつでも考えた。今でも嘘だといわれるし、どこをどう調べてもそんな事例でてくるはずがないのにネットにヤリマンと書かれることさえあるけれど、私は本当に処女だった。いまだってAVに残っているもの以外で、ふしだらなことは全くしていない。性欲はあるけれど、やっぱり本当に好きな人とだけすることでいいと思えている。お仕事でセックスをするのは、私のことを多かれ少なかれ気になってくれた人が見るのだから、そう考えると別にふしだらなことでもないなと思える。見てくれた人が興奮してくれたらいいな、喜んでくれたらいいな、と思って撮影している。結局、AVに出る前も出た後の私も、本質的なことはまるで変わっていない。本当は世界中のすべてを好きになって大事にすることができたらいいな、と思いながら生まれてきたけれど、人一人の人生は有限で、心のキャパシティも有限で、それなら本当に好き合えるひととだけ好き合うことに人生を使いたいと思った。それで、大事にしたいひとたちを大事にしようと、楽しんでほしいと奮闘していたら3年近くが経っていた。いまでは私のことを処女の子だと呼ぶ人はほとんどいないけれど、心持ちはまるで変わっていない。自分でいうのもなんだけれど、汚れてもいない。ずっと、淀みのない気持ちで生きてきた。それくらいしか、私が自分自身の命に対してしてやれることがない。自分を大きく歪めたり、世間の形に合わせて打ち直したりしないままで、どこまでいけるだろうか、どれだけの人と意味ある出会いをしていけるだろうか。という、私以外誰も観客のいない物語を、いまでも生きている。

 変わらないまま、変われないまま、好きになってくれたひとたちのおかげで、先日、No.1AV女優という称号とトロフィーをいただいた。いつまでも自分のことを、ぎりぎりこの業界に居させてもらえているだけだと思っているところがあったけれど、もう、そんな風に思うのは失礼なことなんだな、と気がついた。私がふさわしいかどうかなんて、見る人によって違って当たり前だと思うのだけれど、それでも、生半可なことでは届かないトロフィーだったのだと解っている。今までだって届かなかった。今、どうして届いたんだろう?

 どちらかというと、これまでを讃えるというよりも、これからに期待してくれているひとがきっとたくさんいるのだろうな、という空気を、このきれいなトロフィーから感じ取る。

 世界にはたくさんの「当たり前」があって、それらのうちには、作られた頃には意味があったけれど今となっては意味をなしていないものもあるし、今までずっと誰かを傷つけながら保たれてきたものもある。いつも「当たり前」を一度は疑ってかかることによって自分を守ってきた私には、きっとなにかすべきことがあるのかもしれない、と思う。このトロフィーは、正確には今年のスカパー!アダルト出演者の中でのNo.1AV女優を意味するトロフィーだけれど、これに投票してくれた人たちの中には、AVで輝いて欲しい、といった意味以外の理由で投票してくれた人もたくさん混じっているということを知っている。

 これは、私がここから追い出されないまま、この先へももっと自由に行けるように、という願いのこもった切符なのだ。私自身何かがものすごく優れているということもないのだけれど、なぜか、どこに行ってもいいよ、きっと大丈夫だよ、と言われているような気がした。

 見せないように頑張っているだけで、いろいろな失敗をしながら生きている。順風満帆だったことなんてほとんどない。これからだって、いろいろなことをやろうとしては、いくつか形にならないことだってきっとあるだろう。やってみてぜんぜん向いてないことがわかったりもするかもしれない。夢を描くのは得意じゃない。わたしとあなたの生きているこの世界でちいさな現実を、ひとつひとつ積み上げていった先に明日が来ることがうんと好きだ。そんなふうだからきっと、ちゃんと、確かな形で、きれいなトロフィーがもらえたんだね。このクリスタルは、あなたとわたしの昨日までのきらめきです。そして、明日からまた、もっと遠くを目指していくんだね。いまのところ、まるで終わりのない日々に、ひとつの優しく確かな区切りの1日をくれたすべてのみなさん、本当にありがとうございました。

 私がデビューした頃、いつかNo.1のトロフィーをもらう女の子だってこと、誰も気がついていなかったかもしれない。

 私自身はすごく私のことを良いと思っているけれど、私以外の人は私のことを良いと思っていなくて当たり前、くらいに思っていました。だから、私なんて…。って口にするとき、本当の本音はどこかで、私の良さがわからないなんて、センスないなあ。って思っていました。生意気でごめんね。だから、選んでくれて、わかってくれて、気がついてくれて、見つけてくれて、忘れないでいてくれて、いじめないでいてくれて、優しくしてくれて、知っていてくれて、認めてくれて、好きでいてくれて、どうもありがとう。あなたは本当にセンスがいいね。トロフィーを持ってこんな風に言える日を、夢見ていました。きっと胸を張っていてね。私みたいなへんな女を推しているなんて、評価しているなんて、きっと趣味が悪いと思われたこともあるでしょう。笑い者にされたことがある人もいるかもしれない。でもここからは私が正しいことを言ってあげる。あなたはすごくセンスがいいです。それは、今でも足りないかもしれないけれど、これからもずっと証明し続けて生きますね。自分に誇れる自分であろうと努力し続けることが、諦めてしまわないことが、私の生きる意味なので。あなたに誇ってもらうことが、私の笑う理由になるので。そのことを、きっと忘れないで、これからも鏡写しみたいに見つめていようね、あなたが悲しければいつも解るよ。私の悲しみはひみつにしてもバレてしまうよね。1対大勢、なんてださい愛のやり方はしていないです。付き合うとか別れるとか、そんな始まりと終わりが必ずあるような愛のやり方にも興味がないです。もっと自然に、距離とか時間とか頻度とかそういう現実的なことだって全部超えてそんなことどうでもいいくらい、そばにいようね。心を、広くて暖かい同じ部屋にぽんと置いておくイメージで。話したくなったら話そうね、そうでないときは自由に暮らそうね、知り合う前から知っていたような優しい気持ちで、これからも、応援してくれるあなたのことを想っていられたらと思います。

いままで、こういった賞レースの授賞式のときには黒いドレスを着てきましたが、今回はきらきらのピンク色のドレスを着ました。朝焼けみたいな色だと思って。空よりも広く、海よりも深い感謝の気持ち、伝わっているでしょうか。この世界はいいところばかりではないけれど、大丈夫じゃないところもかなりあるけれど、私たちは大丈夫。悲しみの最中、涙が流れて地面に落ちるまでの間にさえ、未来のことを考え始めていた。そのうちのひとつが、この賞をとらなければいけない、ということでした。本気でお願いしたら、本気で返してくれて、本当にこんなすてきなものをくれて、本当にありがとう。腐らずにがんばります。どこまでいけるか予想して、そしてそれを誰にも言わずに胸の内にしまっておいてね。きっとそれだって超えてみせるから。私の人生は、そういう人生なのだと思います。

あらためて。

今回、スカパー!アダルト放送大賞2019にノミネートしていた、戸田真琴、に投票してくださったすべてのみなさん、本当にありがとうございました。

これからも、宜しくお願いします。

戸田真琴

ありがとうございます!助かります!