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9/6。大停電の夜に

おまえに悲しむ権利があるか、お前に慰める権利があるか、お前にできることなんかひとつだってあるのか、そう問われ続けるような夜の隅。ましてや国外、電波の届かない島の果てで撮影とあらば、みるみるうちに今日本を覆っている悲しみと不安の匂いに鈍くなっておりました。台風の被害を浴びた関西圏のみなさま、今朝の大きな地震の被害を浴びた北海道のみなさま、どうかなるべく、ご無事でありますように。

ツイッターでは悩んだ末に何もつぶやけずじまいでした。きっと正解はありません。ただ黙って募金して、ただ黙ってせめて心だけは離れないよう。そもそもツイッターをしていると、災害のたびにがらりと色が変わって、まるでツイッターだけがこの世界の全てかのように見えてしまうことが度々ある。携帯のバッテリーなんてすぐになくなってしまうものだから、きっと、本当の本当に追い詰められたひとの中にはSNSを見ることのできない人が相当の割合で居るだろう。SNSを通じて有益な情報を交換したり寄付の斡旋をしたりすることはもちろん大事なことだと思うけれど、ツイッター上で想いや情報を届けることができるのはツイッターの上にかろうじてやってくることができる人たちだけだ。私たちが心配しているのは、その人たちだけではないのだということを、ちゃんと覚えていたいと思う。

だから、大きな災害のときは、あんまり過剰にツイッターは見ない、ようにしたいといつも思う。私たちは当たり前に無力で、所詮本当の意味では自分とごく親密なひとたち以外の本当の頼りがいある助けになることはできない。私は、言葉を持って、それを読んでもらおうと思いながら暮らしているから、こんな時に思うのはいつもこういうことだ。電気が長い間点かなくなっても、あなたの見る暗闇の中を泳いでくれる言葉をいつか探そう。大切なものを失っても、最後の一つがあなたの手から離れてしまう0.2秒前にぎりぎりすべりこむ気休めのひかりを探そう。いつ、当たり前の幸福が神様のハンマーでぼろぼろにされてしまうかもわからない世界で生きるのだから、生きていくのだから、最後のひとつの頼りない光に化けてくれるかもしれない言葉を、いつもちゃんと探していよう、見つけるたびに、なるべく直ぐに、見やすい場所に置いていこう。今すぐに役に立たなくていい、どこかに置いさえおければいい。あなたの脳の裏側に細い細い字でタトゥーを入れるように、焼き付いていられるような光の言葉を探そう。いつもいつでも飛んで行って助け合えるわけじゃない、重たくて不便な身体のなかで生きる僕らは、その知性で、想像力で、お互いを慰め合う不可思議な方法を探した。北海道がものすごく好きです。大停電の夜には空の上から見てもうんと真っ黒いことでしょう。大親友の、大好きなお父さんが住んでいる街です。私にも本当のお父さんみたいにやさしくしてくれる、お茶目で強いひとなので、きっと暗闇の中でも気高く光り続けているってわかる。サイン会で会えた北海道の人たちの優しさを覚えています。ひとりひとり全然毛色が違う何種類もの想いをくれたの、本当に嬉しくて。その時一緒に行った営業さんと、他のイベントをするたびに「また、雪がちらつき始める頃に北海道に行こうね」って話します。あのモコモコの赤いダウンジャケット、北海道以外に着る場所ないし。

今年はひときわ自然災害が多く、猛暑と台風の繰り返しで、大げさかもしれないけれど、毎週どこかで災害が起こっているような気持ちでいました。これからも続くかもしれません。毎日の積み重ねで守り抜いてきた平和な日常が、何の理由もなく突然理不尽に壊されてしまうのは、どうあがいたってやるせないね。わたしたちはこの国に生きていて、戦争の傷も東北震災の傷もまだまだぜんぜん癒えていないことに気づいているのに、そんなのまるで関係ないような顔でどんどん新しい傷を増やされていく。本当になんなんだろうね。だけど、この世界を生きる、あなた自身の中に積み重ねたものは、家が壊れても、周りの環境が壊れても、人間関係が壊れても、何者にも、神にも奪い取ることはできないものだから、だから私たちは心と心で関係していたいと願うんです。心の中なら、遠くからでも、邪魔にもならずに食料も減らさずにそっと会いに行けるから。だから私たちは愛を黙って磨いていくんです。そして、生きてさえいればまた、暗闇の中で磨いた愛を見せ合う日がやってくるのだから、あなたのそれは世界をまたちょっとだけ良くすることができると思うから、そう、うまく言えないけど、またすぐに会おうね。悲しみと焦りに代えて。2018.9.6戸田真琴。


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