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recipe no.074 三軒茶屋のどぶろく Milk Tea

三軒茶屋醸造所から、新作のどぶろくが登場しました。オーツミルク、紅茶(アッサム)、ブランデー(コニャック)を使用した、【三軒茶屋のどぶろく〜Milk Tea〜】について色々とご紹介できればと思います。

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まずは今回の主眼からお話すると、このどぶろくを造るにあたっては「紅茶のコクをどぶろくに取り込む」ということを重視しました。

個人的な思想になるのですが、どぶろくは”足し算の酒”であると捉えています。どぶろくは上槽=濾すという行為を行わないため、本来酒粕に移行するうま味が渋味なども含めて味わいが多くなります。裏を返せば、そういった味わいが多い状態がポジティブに感じられるのが、良いどぶろくなのではないかとも思います。色々な味わいがする、五味を五角形状のグラフで考えれば、すべての値が大きいのに全体としてはまとまっている、という状態がどぶろく的良さなのではないかということです。

そういった中で、甘味、酸味、うま味などはある程度設計でコントロールすることが可能です。しかし、紅茶のカテキンなどに由来する渋味=コクについては、米と発酵由来では引き出すことはできません。だからこそ、紅茶の渋味を取り入れることで、どぶろくにとって新しい味の調和を実現したいと考えました。

また三軒茶屋醸造所では茶葉を使うことは多くあったのですが、どぶろくでの使用経験はありませんでした。”茶”という優れた植物の中でも、香りの要素をより引き立たせることの方が多かったように思います。(もちろん味わいへの寄与もありましたが、相対的には香りに重心が寄っていました。)

だからこそ、私達にとって茶の渋味、なかでも紅茶のコクを醸造に取り入れることは、「茶×酒」の挑戦の中でも、一つ新たな文脈を意識せざるをえないことだったのです。

さて、そういった紅茶のコクを取り入れるために、モチーフとした飲料がありました。それが、”ミルクティー”です。

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ミルクティーはまさにミルク×紅茶のコクということを実践した飲料です。またどぶろくの見た目や飲み心地的にも、ミルキーな要素を取り込むのに適していました。ただ一つ問題を上げるとしたら、それは牛乳を醸造に用いることが非常にリスクのあることだ、ということです。

まず牛乳は低温殺菌されているとはいえ、微生物が潜む可能性も高い。さらに脂肪分も多いことから、発酵後に酸化によって香りが変わる可能性がある。また、牛乳に含まれているタンパク質の主成分であるカゼインは、pHが低い状態で凝固する特徴があります。どぶろく、というか醸造酒全般は酵母の出す酸などによって全体的に酸性に傾いているので、濾過工程を経ずにそのままの状態で出すどぶろく醸造で、牛乳を取り入れるというのは見た目でも大きなデメリットがありました。

それでは、牛乳を使わずに”ミルク感”を再現するためにはどういった選択肢があるのだろうか。アーモンドミルク、豆乳など様々な選択肢の中でたどり着いたのが、今回使用したオーツミルクでした。

様々な実験を重ねる中で、どぶろくとブレンドしたときにしっかりと”ミルク感”を感じられることは、私達にとっても意外でした。しかもオーツミルクは、最近ではコーヒーの世界でも注目されています。コーヒーの苦味にもマッチするのであれば、紅茶でも合わないはずがないだろうということで、ミルク感も出るオーツミルクを採用することになりました。

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さて、それではオーツミルクと紅茶をどのように使用したかについて、簡単に書いていこうと思います。まず大事なのは、紅茶の種類。和紅茶も含め、様々な品種を試した所、”紅茶のコクを活かす”という点で一番納得できたのが【アッサムctc】でした。

まずアッサムはミルクティーに合う紅茶として知られています。今回様々な紅茶をミルクティーにしたのですが、やはりそう言われるだけあって、一番の相性を示しました。またアッサム品種の紅茶を加工する方法で、ctcというのがございます。これは”Crush Tear Curl”の略で、要は紅茶の茶葉を細断して丸くまとめたものです。そうすることによって抽出率が高くなるので、様々なところで使われる製法のようです。

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こちらのctc製法、言葉を選ばずにいえばあまり高価な手法ではありません。普段、私達はどちらかというと工業的な製法よりは、手作業的な、伝統的な製法をモチーフにしたり、そういったものを使用することが多いです。そういった意味ではctc製法の茶は普段は選ばない茶葉なのですが、今回はctc製法であることに意味を感じています。

ctc製法によって細かくなることによって、茶葉のもつ風味が渋味も含めて強く感じられます。まさにそれは、どぶろく的な”五味の要素が強い”というのに近いものです。今回のどぶろくで紅茶のコクを取り入れるという挑戦には、茶葉のエキスが溶出しやすいctc製法の紅茶が適していたのです。

しかしアッサム品種の紅茶には弱点があります。それは香りが弱い、ということです。しかしだからといってそれを引き出すのを諦めていては、それもまた意味がなくなってしまう。なので今回は少しだけ工夫を加えました。

どういうことかというと、オーツミルクに投入する際に、通常よりも紅茶の分量を多くして、さっと抽出する、という方法を採ったのです。熱が加わる時間を短くすることで渋味が強く出ないまま、香りの総量を増やすようにしました。ただ実際のどぶろくで、紅茶の香りが強く出ているわけではないのですが、この工夫によってある程度は香りを感じられるようになっていると思います。

さて、香りの面ではまだ工夫があります。実は今回はオーツミルク、紅茶だけでなく、【ブランデー(コニャック)】も使用しています。モチーフにしたのは、ティーロワイヤルという飲み方です。

ティーロワイヤルはナポレオンが愛した飲み方ともいわれ、ブランデーを砂糖にしみこませ、それを発火させてアルコールを飛ばし、香り付けして飲む紅茶を指します。今回のミルクティーは冬にゆっくり飲めるようなお酒に仕上げたかったので、ブランデーの艶やかな香りはまさに持ってこいでしたし、またWAKAZEらしさである、フランスとのつながりを考えてもぴったりのモチーフでした。もちろん今回の紅茶の香りのサポートとしても適役です。

使用したのは、オタールというコニャック。(※コニャックはブランデーの中でもコニャック地方で造られるものを指します) セレクトは10月よりjoinしているジャッキーさん(@jackey_wkz)。ぶどう・レーズン感が強く感じられるもの、樽のニュアンスが強すぎず弱すぎず、ちょうどいいものを軸にして様々なブランデーをテイスティングして決めてもらいました。

またブランデーの使い方にも工夫があります。まずはティーロワイヤルにおける発火工程がないため、焦げのニュアンスをつけたい。また、その上でミルク感とあわせたい。その中で採択したのが、「焦がしバターをブランデーでファットウォッシングする」という方法です。

ファットウォッシングとは、融点が高い脂質の香りをアルコールにつける手法です。焦がしバターをつくり、液体状になったままブランデーに投入。それを香りづけし、冷蔵庫で冷やすとバターが凝析してきます。それを濾せば、バターの香りをつけたブランデーが得られる、というわけです。

そうしてファットウォッシング過程を経たブランデーを最後に投入し酒精強化することで、今回のどぶろくが生まれました。

食べ合わせのご紹介。

スパイスとの相性が良いです。カレーのなかでもキーマカレーなど、油分が少なく香りが立っているものの方が合わせやすいと思います。

また、じゃがいもを使った料理などとも相性が良いです。ポテトサラダなど、シンプルにあわせてみるのはいかがでしょうか。

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それでは。

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