シェアオフィスと賃貸に見る「地域とつながる話づくり論」-大家の学校に行ってきたよ-
暮らしや住まい、場作りに興味のある人が集い学ぶ「大家の学校」。
第四期が早くも折り返しに到達しました。
3限目の先生は「みどり荘」の小柴美保さんと、神戸でinno town(イノタウン)というエリアマネジメントを営む大家の木本孝広さん。
おふたりによる「地域とつながる話づくり論」講義の様子をレポートします。
まずは小柴さんの講義から。
小柴さんは様々な場作りを手がけていますが、一番有名とも言えるのが中目黒にあるシェアオフィス「みどり荘」。
(公式サイトより写真参照)
急勾配な坂の上にあって、築40年後越えで、古い建物だから寒くて暑い。
だけど、人が集まる人気のシェアオフィスです。
みどり荘は永田町と表参道にも展開していますが、どれも空間の様子はまったく異なります。
第一弾となる中目黒のみどり荘が成功したら、第二弾も前例を模してしまいそうなところを、小柴さんたち運営者はそれを選択しません。場と物件に本当に合うデザインを施しています。
人気の理由はデザインだけだはありません。
みどり荘は「刺激を受け取れる場」だから、人が集います。その場作りのコツを教えてくれました。
みどり荘は管理しないシェアオフィス
みどり荘にはコミュニティマネージャーが存在します。
そのマネージャーがハブとなり、ハブを通して人々とつながれる場になっています。
みどり荘に来たら
・仕事がふえる
・人と出会える
・刺激がある
そんな環境になるコミュニティ形成を大事にしてるそうです。
そんな場になるためには、使う人がどんな人かが大事。
小柴さんいわく
「クリエイティブかどうかの判断はいる人が決める。
使う人が自ら生み出していかないと面白い場は生まれない。」
「答えは自分で探す人がみどり荘には合う。
入ったら人と出会える!とか期待してる人は難しい。
自分から何かできる人が場を楽しんでくれる。」
そういう人たちが集まるからこその「みどり荘」なんです。
そんな人達が集まって空間を共有していく中で「自分たちのオフィス」だと意識が生まれるので、ユーザー同士でオフィスを自治してくれるのだそう。
(性善説で成り立ってる運営!)
ただユーザーに投げっぱなしでなく、コミュニティマネージャーをはじめ運営側は一歩ひいたいところで問題は起こっていないか、すれ違いが生まれているユーザーはいないか、観察しながらときには調整に入るそうです。
場の美意識を伝える
そしてみどり荘の美意識をさり気なく伝え共有することも地道に意識しているそう。
例えば永田町のみどり荘(町の雰囲気からも分かる通りスタイリッシュな空間デザイン)ではあまり堂々とコンビニ弁当食べてもらいたくない...
だからそっとお皿差し出したりしているそうです。
コンビニのお手軽コーヒーもいいけど、コーヒー豆を挽く時間や体験を豊かだと感じられる場にしたい。だから、豆を挽けるコーナーを作ったりもしています。
良質なカオスを作りたい
みどり荘を語る上で小柴さんが出したもう一つのキーワードが「良質なカオス」。
「高学歴重視ではなく、ゼロイチを生み出すクリエイティブクラスの人が世の中を牽引していくだろう」と唱える人もいる昨今。
クリエイティブクラスの人の個性、多様性、寛容性が集まると、その場には良質なカオスが生まれる。
みどり荘でそんなカオスが生まれることを目指しているそうです。
働き方改革とは時間制約じゃない
そもそも小柴さんがみどり荘などを通じて場作りをしているのは「働き方が変わると社会が変わるのでは」と考え実験しているから。
小柴さんいわく、
「働く」を再定義したい。
働き方が変わると世の中も変わる。
企業に代わる場所をつくってみたい。
みどり荘や私達の「面白く働く」という働き方は一般的じゃない。
働き方改革とは時間制約じゃないんだ。面白く働けば、例えば何時間働いたって良い。その価値観を伝えたい。
文化活動とビジネスのバランス見て実験を積み重ねていきたい。
実際にみどり荘を使っている人は、家でも仕事はできるのに、わざわざみどり荘に集っています。
それは「1日の終わりに面白い人に会えた!刺激的な時間がすごせた!」と思えるような体験が、みどり荘で得られているからではないでしょうか。
些細な喜びを日々得られる面白い働き方は、場から叶うのかもしれない。小柴さんのお話からそんなことを感じました。
次は木本さんの講義。
お祖父様が建てた賃貸住宅が入居者ゼロになり、それを「売却しようと思っている」と父親から聞いた木本さん。
「おじいちゃんから引き継いできたものを売って良いのか。まだできることはあるのでは。」と考え、大家業を継ぐことを決意。
以前、自宅を工務店と一緒にリノベしたのが楽しかったことを思い出し「自分たちでリノベして賃貸を続けたい」とお父様に相談します。
しかし、お父様は猛反対。「東京ではできるけど地方のうちじゃ無理だよ」と。
木本さんは1ヶ月悩みましたが、反対を押し切ってリノベすることを決意します。
まずは仲間探し
さらに、お祖父様の代からお付き合いのある工務店や不動産屋たちと足並みを揃えるのは難しいと判断。
「今までの付き合いを大事にすべきだ」と親類からの反対を受けながらも、木本さんの理想に協力し「一緒にやろう!」と手を組める工務店を新たに探し、スタートをきりました。
そして物件に「inno house」と名付け、不動産屋へもアピールをしていきます。
そうこうしているうちになんと、完成前に5部屋すべてが満室の状態に。
入居者さんたちに「仕上げワックスをみんなで塗ろう」と呼びかけると、5世帯全員が集まってくれ、入居前に住人たちの交流が生まれました。
そして完成レセプションを住人、工務店、不動産屋全員で開催します。
気づけば猛反対していたお父様も、レセプションの空気を楽しんでいるように見えたそう。
月イチ飲み会や住人の結婚式など、徐々にイベントが住人たち主導で立ち上がっていきます。
住人からは「こんな楽しい家を、もっと作って」と言われました。
反対されても、やるべきと思ったことは、やる
お父様には猛反対されたけど、結果、賃貸住宅は豊かに生き返った。
親類縁者に反対されたけど、付き合いの古い工務店や不動産と手を組むのを辞め、理想を共有できる工務店と仲間になった。
入居前のワックス塗りをやると言った時、不動産屋には「そんなめんどくさいことやるな」と言われたけど、結局は5世帯全員が集まった。
木本さんは周りの反対意見を聞きながらも自分が正しいと思ったことをした。その決断と行動力とチャレンジ精神が、人を呼んだのだと思います。
(でも反対されながら実行するのはすごく辛かったっておっしゃってて、雲の上の存在・木本さんも人間なんだなって思いました)
みんなで町を作ろう
この賃貸ができてから、閑散としていた通りに少し活気が出てきます。
この体験をもっと大きなものにしよう。
所有している物件たちがある土地に、駐車場として貸し出している場所がある。
そこにもうひとつ、家を建てよう。
直径100mの土地をひとつの町にしよう。
そうして「inno town」構想が始まります。
面白いのは、木本さん一人で始めるのではなく、住人と新しい賃貸の作り方を考えたという点。
カフェ、ギャラリー欲しいなーとか話し合ううちに、「じゃあ僕そこでカフェやりますよ」と名乗り出てくれる住人まで現れました。
そして一億円を借り(初めての融資で本当に緊張したとのこと。そりゃそうだ〜!ドキドキする!)、一階にカフェがある緑豊かな賃貸住宅「カラクサ」を作ります。
建築中はマルシェを開いたりして、完成の過程をいろんな人々と共有するようにしました。
そして完成。上棟式では昔ながらの「餅撒き」しました。
なんと上棟式に町の人約200人が来ます。
「恥ずかしいからそんなことやめろ」と言っていたお父様まで、率先して餅を取ろうと参加していたそう。
こうしてもともとあった賃貸住宅たちに加え、新しい賃貸「カラクサ」が建ち、人が集まり、イベントが開かれ、inno townは育まれていきます。
inno townに住むための「採用課題」
カラクサには収納がひとつもありません。
「DIY道具は貸すので収納はご自分で作ってください」
この課題に喜々として取り組める人たちが入居しています。
収納がないのは建築の採算を考えたことでもありますが、住む人を選ぶ大家の姿勢の現れにもなりました。
なんてったって、inno townという町を形成するのは、人。
自立していて、暮らしを自らすすんで楽しめる、キッカケ作りができる人。そんな根っこの部分が共通している人を町に揃えるための採用課題なのです。
「町づくりにおいて大家は、スタートの部分を握れる貴重な職種」と木本さんはおっしゃっていました。
コミュニティ形成を目的とした場を作る
こうして直径100mと小さくても、町ができた。
この体験を通じて、「町づくりはコミュニティづくり。人の集まりをつくること。人が集まりやすい場をきちんと作ることが大事」と感じたそうです。
例えばカラクサは、採算を考えるとカフェを作らず全て住居にしたほうが得です。しかしあえてカフェを入れた。
それはコミュニティ形成ができる場、イベントをやっても近隣から苦情が来ない、自由に人と交流できる場を作るためです。
さらに、賑わいと商売は利害関係がある。
徐々にカフェなどお店の人が、自らマルシェを開催するようになり、お互いが得する空間が生まれてきました。
住んで良かった家というのは、コミュニティがある家
inno townをきっかけに、木本さんのもとへ「うちの物件をどうにかして」と依頼がくるようになります。
そこで木本さんが大事にしているのは「コミュニティを生む空間にする」こと。
入居のきっかけは「おしゃれ」「かわいい」で良い。
だけど退去する時、「この家住んでよかったなあ」って思えるのはコミュニティのある家。
「常に大家さんはこのことを意識しながら御自分の物件を育てたほうが良いと思います」
と木本さんはおっしゃいました。
きっとこれは店舗などの場にも共通することで、「美味しい」「清潔」と同時に「マスターと話すのが楽しい」「仕事終わりにふらっと寄って、常連と一杯やるのが最高」と思える店が長く愛され、続くのだと思います。
これは小柴さんのお話とも合致する点。
人と関わりやすい設計と、適度なイベント。
巷で人気な場の共通点って、この2つなのかもしれません。
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次回の大家の学校は7月9日。講師は連勇太朗さんと嶋田洋平さんです。
→大家の学校第4期 、単発受講の申し込みページ
大家の学校のコンセプトなどを知りたい方はサイトへどうぞ。
→大家の学校公式サイト
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