戸田鳥

いろんなウソ話、小説や戯曲や詩を思いついては書いています。 庄野英二のメルヒェンを継ぎ…

戸田鳥

いろんなウソ話、小説や戯曲や詩を思いついては書いています。 庄野英二のメルヒェンを継ぎたいと思っています。 Amazon・BCCKSにて電子書籍・ペーパーバック発売中。 御用がありましたらTwitter(X)まで。

マガジン

  • 鳥釣りの一日

    雲の上で鳥を釣って暮らす鳥釣りと仲間たちのおはなし。

  • 鳥の国のはなし(note版)

    鳥の国は、かつて人間だったものたちがヒトの国を捨てたどり着いた場所。 ここに棲む「もとヒト」たちの日々の営みを描いた連作。 2014年6月から2019年10月までの作品をあらたにアップしました。 このマガジンに1話加えたものを、Amazonにて電子書籍、BCCKSにてペーパーバックとして販売しております。

  • きゅーのつれづれ(note版)

    アヒルのオーナメントであるきゅーちゃんが、小さなアパートの一室で住人や訪問者たちとの出来事をつづります。 2014年7月から2018年5月までnoteにて連載していた作品です。 このマガジンにおまけとして1話加えたものを、Amazonにて電子書籍、BCCKSにてペーパーバックとして販売しています。

  • 詩のようなものだけ集めてみます。

  • ものがたり

    あることないこと。ありえないこと。あったかもしれないこと。

最近の記事

ムササビの宿屋

←(ムササビとペンギンスーツの話はこちら) 旅好きなムササビ夫婦が宿屋を始めました。 大きなクスノキをととのえて、小さな穴はリスのために、大きな穴は熊のために、中くらいの穴はほかの動物のための部屋にしました。カワウソのような水辺の動物には、川べりの岩場を用意しています。 「お客さんがいっぱい来るといいね」 「お部屋ももっと増やそうね」 ですが思ったようにお客は来ませんでした。ムササビは冬眠しないのでみんなが冬ごもりの間に張り切って準備をしたのですが、春まで待てばよかったです

    • 詩誌La Vagueさんの企画、

      参加作の詩を掲載していただいてます。 (この時のXでのアカウント名〈todatori)で載ってます。) 最初書いたのを字数制限のためにほぼ半分に削ったのですが、削ることで出来上がりの景色が変わってしまったり、ぼんやり伝えたいことが剥き出しになってしまったり、悩みながら探っていくのが楽しく、やっぱり私は書き足すより削るほうが好きだなと改めて思ったのでした。

      • 残響

        鳥の道で、誰かが呼んでいる。 鳥の王が姿を消してから、そんな噂が鳥たちの間でささやかれていた。影の鳥を葬った王が、自らも傷つき倒れて苦しんでいる声だと。 あたしに言わせりゃただの風の音だ。昔から変わらない、この季節に吹く大風のせいだ。ているのは鳥たちばかりで、もとヒトであるあたしたちには彼らの恐怖がわからない。最後まで鳥になりきれない理由はそこにあるのだろうか。風を怖がる心か、王の声を聞き取る耳か、心と耳をつなげる何かか。 鳥の王がひっそりと交代したことが知らされた。前王の

        • 郷愁

          しつこく跡をつけてきたカラスを追い払ってからも、我らはのろい歩みで北へ向かった。縛りあげずとも、見張らずとも、黒い大鳥は静かに我の後ろをついてくる。その通り名のごとく。 春を間近にした荒野は、おののいたように呼吸を止めていた。風は止み、音も立てず身をすくめて我らが去るのを待っている。鳥の王と影の鳥、二羽の怪鳥の行き過ぎるのを。 ヒトの国でのことはあまりに古すぎて覚えておらぬ。だが、影の鳥と呼ばれたこの鳥のなれの果てが、我とヒトの国とのしがらみであることはわかっていた。 「影

        ムササビの宿屋

        マガジン

        • 鳥釣りの一日
          18本
        • 鳥の国のはなし(note版)
          15本
        • きゅーのつれづれ(note版)
          23本
        • 17本
        • ものがたり
          32本
        • 雑文
          15本

        記事

          風切羽

          鳥の王がいなくなったとき? ああ見てたよ。 にっくき影の鳥が氷漬けになった姿を拝みに、はるばる北の湖まで行って来たんだ。誰を誘っても嫌だって言うから、ひとりで行ったが、見物に来てたのは俺らカラスくらいだった。ほかは見張りをやらされてたもとヒトばかりだ。 湖の氷がやっと溶けて、影の鳥を陸に上げるのに、もとヒトたちが水に入ってた。そんなのは水鳥の仕事なのに、押し付けられたんだろうな。タカやワシもいるにはいたけど、見るからに怖じ気づいてた。 影の鳥の様子? あいつが本当に影の鳥だ

          遠足

          昼の月は、雪に照らされて仄白い。毎夜月を映していた湖は、氷に蓋されて黙りこんでいる。 初めての冬をむかえる若い鳥たちは、白く塗りかえられた世界に圧倒されていた。つんと冷えた空気も、透明な静けさも、この地ならではだ。 どさり、と雪の塊が落ちた。続いてまたひとつ、ふたつ。トビたちが枝から枝へと雪を落としてまわっているのだった。ほかの鳥たちも木の枝に積もった雪を食べてみたり、地面の雪に頭を突っ込んだり。水鳥たちは湖面でスケートを楽しんでいる。初めての鳥も老いた鳥も、ここへ来るとはし

          蝉好き

          浮き島から「夏支度をするように」とのお触れが出た。鳥の国にも夏がやって来る。 季節の鍵箱を久しぶりに開けた。青いひもの鍵束が夏の塔の鍵だ。 塔へ行く途中、顔見知りのムクドリに見つかった。 「夏の塔へ行くんだろ! な!」 そうだよと私は答えた。鳥は嘘をつかない。 「今年の蝉はうまくいってるかね」 ムクドリはそわそわと体を揺らした。 「まだ確かめちゃいない。まあ、大丈夫だろうよ」 「そうかい、そうかい。楽しみだなあ。な!」 ムクドリがついて来たそうにしているので、私は急ぐふりを

          荒野にて

          北の荒野に住むのは、多くは旅の鳥だ。 ヒトの国と鳥の国とを行き来する鳥たちは、ヒトの国から戻るとまず、この荒れ地で羽を休める。王のおわす浮き島からは遠く離れた、静かな土地。低木と雑草ばかりの荒れ地は、平和に虫をついばみ休息する場所なのだ。 荒野に、老いぼれた「もとヒト」が居ついている。そう伝え聞いて確認に赴いた。鳥らしからぬ行動をとる「もとヒト」は用心すべき対象だった。いざ会ってみると、噂ほど老いぼれてはいない。もっと皺くちゃで腰の曲がったヒトを見たこともあるから、それに比

          荒野にて

          干し柿

          柿の実が色づき、鳥の国にも冬の気配が訪れた。 「こら。つまみ食いはだめだよ」 ヒヨドリの若いのが、見つかってバツが悪そうにあちらを向いた。 「実は傷つけないように枝から落として」 若鳥は惜しそうな目で、それでも素直に、くちばしで柿のへたをつついた。枯れ葉を敷き詰めた地面に柿の実を落とし、拾って干し柿をつくる。渡りでない鳥たちの、冬の間の保存食なのだ。 干し柿づくりはもとヒトの担当だが、僕の干し柿は中でもとくに評判がいい。それで柿の木を何本も預かっているのだが、毎年赤くなった実

          沼地を迂回して森を抜けると、ようやく番小屋が見えてくる。 俺の姿を見つけた駅番が手を振っている。 俺は背中の荷物を降ろして大きく息をついた。重さから解放されて足がふらつく。 番小屋から出てきた駅番がさっさと荷を解いて、黙ったまま中身を籠に分けはじめる。食料を入れた籠を両手に抱えて番小屋へ運んでいった。俺も残りの籠を持って彼女のあとに続く。駅番も若くないんだから、力仕事は他の者に頼んでもいいのにと思う。 「これで全部だ」 鳥のことばで俺が言うと、駅番は少し間を開けて「ありがとう

          カラスの特別

          カラスは特別。 まだヒトであった頃からそう思っていた。ゴミ捨て場で、破れたゴミ袋を前に野良猫と話しているのを目撃した時から、怪しんではいたのだ。カラスの知能が高いことは人間も承知しているけれど、それ以上の力をカラスは隠しているのだと。 鳥の国へ来て知ったのは、カラスはやはりヒトの言葉がわかるということだ。わかるどころか、器用な者はヒトの言葉を操ることだってできた。 私のような、もとヒトであった鳥にはヒトの言葉を喋ることは許されない。それは鳥の国を去ることを意味する。なのにこ

          カラスの特別

          数年前に電子書籍化するとき消した『鳥の国のはなし』をnote用にまた置くつもりです。ただ、記事を削除してしまっていたため改めてアップしなくてはならず、タイムラインを圧迫してしまうと思います。あらかじめお詫びしておきます。すみません!

          数年前に電子書籍化するとき消した『鳥の国のはなし』をnote用にまた置くつもりです。ただ、記事を削除してしまっていたため改めてアップしなくてはならず、タイムラインを圧迫してしまうと思います。あらかじめお詫びしておきます。すみません!

          戸田鳥のプロフィール

          正月どころでない年の初めでしたが、今年の抱負としてしっかり創作に励もうと思いまして、雑に片付けてそのままだったnoteはじめあちこちのサイトを整えることにしました。 noteのほうの自己紹介もあらためまして、通りすがりの方もご存知の方も、またよろしくお願いいたします。さて。 戸田鳥(とだ・とり)というペンネームで2014年5月よりこちらで活動しています。 学生時代に児童文学を学び、途中休みをはさみながら創作を続けてnoteにたどり着きました。 いくつかのサイトで作品を公開中

          戸田鳥のプロフィール

          夜凪

          黒い水のうえ 夜を横切るいっぽんの線 誰かが立っている 両のうでを宙にさしだし 片足を前にすべらせて ひとあし ふたあし 綱渡りがはじまった 星々が見守る沈黙のパフォーマンス 月は知らんふり 海もなりをひそめてる 地上で見守るのはわたしだけ 魚が跳ねた! 静寂がみだれた一瞬 古い記憶がよみがえる 朱に紫に空を染めかえたショウタイム 反対の空からほそい雲がいっぽん横へと伸びていったあれは そうかこの綱を編んでいたのか 綱の半分渡ったあたりで 綱渡り師はふわりとからだをまわ

          スナックタイム

           いつも行列のお好み焼き屋が今日は珍しく並んでいない。それならとはじめて暖簾をくぐった。中は満員だった。相席でいいですか、と案内され、向かいの席に軽く会釈して腰かけると、すぐにオムそばが運ばれてきた。その人は熱い鉄板の前なのにスーツにネクタイのままだ。箸でオムそばをほぐし、焼きそばを薄焼き卵でくるんで口に入れた。僕のもとには豚玉のタネが来た。自分で焼くことも選べる店なのだ。タネをよく混ぜて鉄板に落とす。あとは時間をかけてじっくりと焼く。その間、向かいの客はオムそばとビールを交

          スナックタイム

          夕暮れのカーテン

          夕暮れのカーテン