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鳥釣りの一日

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雲の上で鳥を釣って暮らす鳥釣りと仲間たちのおはなし。
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ムササビの宿屋

ムササビの宿屋

←(ムササビとペンギンスーツの話はこちら)

旅好きなムササビ夫婦が宿屋を始めました。
大きなクスノキをととのえて、小さな穴はリスのために、大きな穴は熊のために、中くらいの穴はほかの動物のための部屋にしました。カワウソのような水辺の動物には、川べりの岩場を用意しています。
「お客さんがいっぱい来るといいね」
「お部屋ももっと増やそうね」
ですが思ったようにお客は来ませんでした。ムササビは冬眠しない

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パンの実

パンの実

鳥釣りが上がってくると、熊が雲に寝そべっていました。めずらしく本を広げています。
「何を読んでるんだ」
鳥釣りは聞きました。
「読んでないよ」
熊は答えました。熊は字が読めませんから。
「どんなお話が書いてあるのか、頭のなかで想像してるんだ」
「面白いか」
「うん、でも飽きちゃった。鳥釣りさん。読んで聞かせてよ」
「今日はだめだ。忙しいから」
鳥釣りは大きなデッキブラシをかついでいました。先日クモ

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クモグライ

クモグライ

 雲の下では長いこと、冷たい雨の日が続いています。鳥釣りはひどい風邪をひいて寝こんでいました。何日も雲に上がっていません。らせん階段をのぼる元気がないので、仕方ありません。
 長い雨がようやくやんで窓から日が射しこんでくるようになると、鳥釣りの気分もいくぶんよくなりました。水を飲みにベッドから出ると、テーブルの下に黒猫が丸くなっています。顔を近づけても、ひげをふるふるさせるだけで目を覚ましません。

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無口な猫

無口な猫

猫は無口なものと思われがちですが、そんなことはありません。おしゃべりな猫もいます。ニャーニャー鳴くだけがおしゃべりではなくて、しっぽやらひげやら、大きな目をぐるんとするのもおしゃべりなので、静かなおしゃべり猫もいます。ですが、この黒猫はまったくの無口でした。話しかけられても黙りこくっていますし、にぎやかな場所からはすっと離れます。と言っていつもひとりでいたいというわけでもなく、だから鳥釣りの家に出

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まちぼうけ

まちぼうけ

(←前回)

ようやっと鳥釣りが帰ってきたので、みんなが雲の上に集まりました。
「おかえりなさい鳥釣りさん」
熊にカワウソ、リスのお嬢さんと郵便配達、めずらしいことに無口な猫までがやって来ました。熊は金色のガラスびんを抱えています。
「冬ごもりに取っておいたハチミツを持ってきたよ。お茶に入れようね」
「そんなにたくさん飲むんですか?」
「ハチミツをつければ何でもおいしくなるじゃないか」
熊はそう言

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緑の町

緑の町

*6月に公開したものを、加筆修正してアップし直しました。
(←前回)

猫の道具屋でめぼしい釣り針が見つからなかったので、鳥釣りはなじみの釣り道具屋に向かうことにしました。橋を一本渡ったところにあるその町に立ち寄るのは数年ぶりのことでした。

町の入口に立った鳥釣りは驚きました。町が緑色に様変わりしているのです。どの建物にもびっしりとツタがからまり、まるで一本のツタが道なりに家々を呑みこんでいった

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猫の道具屋

猫の道具屋

(←前回)

鳥釣りが町に来たのは、新しい釣り針を求めてのことでした。
なじみの釣り道具屋を訪れると、壁に張り紙がしてありました。
「しょうばいにあきたので、とうぶんつりをしてくらします」
店じまいしてしまっていたのです。
「困ったな」
釣り針がなくては仕事になりません。店にまだ誰か残っていないかしらと、ガラス窓から中をうかがっていると、
「釣りの道具をお探しではありませんか? ひょっとして」

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鳥釣りの豆

鳥釣りの豆

地上では雨がいく日も降り続いていました。せっかく春告げの時計が鳴ってみな起き出してきたというのに、毎日ざんざか降りでみんな飽き飽きしていました。
ある日、熊のねぐらにカワウソがやって来て、いっしょに鳥釣りさんのとこに行かないかと誘いました。
「雲の上はいつでも晴れだもの」
熊はサンドイッチを作って、カワウソはお茶のポットを用意しました。鳥釣りの家に急ぐ途中でリスのお嬢さんを見かけたので一緒に行かな

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冷やっこい猫

冷やっこい猫

鳥釣りの家のドアには、下の方に小さな穴が開いています。それは特別に、黒猫のために開けた穴です。
このお話に猫なんて出てきたっけ? いいえまだ登場したことはありません。この猫は鳥釣りの家に住んでいるわけではないのです。たまにふらりとやってくるだけの、そしてその姿を探せばもういない、たいへんな気まぐれ屋なのでした。だから猫の出番はここからです。

夜、鳥釣りが家に戻ると、黒猫が目玉焼きを食べていました

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鳥釣りと彫刻

鳥釣りと彫刻

この冬はいつもの年に比べて格段に寒かったので、鳥釣りも釣りを休むことが多くなりました。毎日らせん階段から雪を落とすほかは、保存しておいた肉や野菜を食べながら、家にこもって過ごしました。秋口から集めておいた木を使って作り始めたひじ掛け椅子が、今日やっと完成したので、鳥釣りは背もたれにクッションをならべて、満足げに椅子にもたれました。熱いお茶を入れて、読みかけの本を開きました。寝る時間まではまだまだあ

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ユメクイの床屋

ユメクイの床屋

ある朝、目が覚めた鳥釣りは髪がずいぶんと伸びていることに気がつきました。 鳥釣りは一度気になり出すとずっと気になってしょうがないので、久しぶりに床屋へ行こうという気になりました。年にいっぺんかにへんは床屋に行くことにしているのです。伸ばし放題の髪なのでいつものように自分で切ってもいいのですが、その床屋にはひとつ楽しみがあるのでした。

森の奥の川沿いのひらけた場所が、ユメクイの床屋でした。
鳥釣り

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鳥釣りと風船

鳥釣りと風船

びゅうびゅうと風が鳴いています。

雲の上は風の吹くほかは何ごともなく、鳥釣りは鼻歌を歌いながら釣りをしておりました。いつも遊びにやってくる熊やその友達は、冷たい冬のあいだは眠っているのです。熊が持ってきてくれるおやつがないのは残念でしたが、こんなふうにひとりきりで無心に糸を垂らしているのも悪くないものでした。

毛布にくるまって気持ちよく歌っていた鳥釣りが、ぱたりと歌い止みました。メロディの続き

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偽ペンギン

偽ペンギン

今日は獲物が多めに釣れたので、鳥釣りはいつもより早めに雲を下りました。ところが家のドアを開けたとたん、餌入れがないことに気がつきました。雲の上に忘れてきてしまったようです。もう日が暮れかけていましたが、餌の残りが入ったままですし、やはり取りに戻ることにしました。
らせん階段を上りきると、もう暗くなっていました。雲の上でもやっぱり夜です。それでも下と違って、雲の上は星や月との距離がとても近く、ランタ

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ひるね

ひるね

「やあ鳥釣りさん、久しぶり」

鳥釣りがふり向くと、熊がやって来たところでした。丸めた布団を肩にかついでいます。
熊は布団をよっこらしょ、と肩から下ろしました。
「寝ぼけて、布団にお茶をこぼしちゃったんだ。しばらくここに干させてよ。下はお天気が悪いんだ」
「そりゃいいが。今年はずいぶん早起きだな」
「こないだ温かい日が何日か続いただろう。あれで春かと思って起きちゃった」
熊はぬれた部分がお日さまに

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