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測定と評価の罠─『測りすぎ─なぜパフォーマンス評価は失敗するのか?』

現在の会社を立ち上げる前、僕は民間のシンクタンクで働いていました。
主なクライアントは西日本の地方自治体で、総合計画をはじめとした各種計画策定支援やその策定のための基礎調査などに取り組んでいたのですが、計画をつくるときに最も悩ましいのが、その政策の結果をどう評価するか、ということでした。

例えば僕の住んでいる掛川市の総合計画では「2025年の目標人口115,000人にする」ことが大きな目標として掲げられています。

人口はどの自治体でも注目されており、目標に据えられることが非常に多い指標なのですが、この指標一つとっても、例えば手っ取り早く人口を増やそうと思えば「駅前にタワーマンションを建てよう!」みたいな施策になってしまうのですが、それが果たして街の将来像として正しいのか?といった議論になります。

また、これまたよくある指標として何らかの相談窓口ができた時に「窓口への相談件数」が目標として設定されますが、これも相談が非常に多い……それってそもそも市民への周知や伝え方がまずいのでは?という点が抜けています。

幸いなことに、行政の場合はこうした目標に対して、実績として達成できたか否かがそこまで厳しく人事評価には反映されません。
もしこれが「窓口への相談件数がそのまま担当者のボーナスに反映される」となったらどうでしょう。
一見「たくさんの相談を受けようというインセンティブが働いてよいのではないか」と思われるかもしれません。
もちろんその効果もあると思いますが、これが行き過ぎると「周知をわかりやすくしよう」というインセンティブは働かなくなりますし、また相談件数の水増し、といったことにもつながりかねません。

今回読んだジェリー・Z・ミュラーの『測りすぎ─なぜパフォーマンス評価は失敗するのか?』では、こうした「パフォーマンスを測りすぎることの弊害」をよくあるケーススタディを用いてわかりやすく解説しています。
取り上げられているのは、学校、医療、警察、軍、ビジネス、慈善事業など多岐にわたります。

わかりやすいのは警察の例で、犯罪件数の統計化が犯罪抑止のための人員・予算配分に非常に役立つものの「地域の犯罪発生件数を所轄の警察署の評価に使う」となってから、重犯罪を軽犯罪として報告する、そもそも報告しないといった不正が目立つようになったとのこと。

僕は今「従業員のメンタルコンディションの見える化(数値化)サービス」を新規事業として立ち上げる予定なのですが、本書を読んで、いかにこの数値が人事評価に用いられないよう、経営陣にインプットするかがひじょーに重要になるな、と感じました。

さまざまなモノ・コトをデータ化する昨今であり、僕自身もどちらかと言えば万物のデータ化推進派ではあるのですが、だからこそ、こうした測定をすることによって起こりうるリスクというのをきちんと認識しておきたいと思います。

Photo by patricia serna on Unsplash

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