ご無沙汰しております。 皆さまの前から姿を消して、もう何年経ったことでしょう。 最近になりようやく心の整理がついてきたので、こうして筆を取りました。 実際はPCのキーボードですけどね。 休みがちだったのでお気付きの方もいらっしゃったと思うのですが、藤堂はシナリオライターとしてのスランプから立ち直れず筆を折りました。 一度は克服したと思ったのですが、根は深かったようです。 お世話になった方々に、なんのご挨拶もせずに隠れてしまうくらいには病んでおりました。 あ、クライアントに
夜の街で、どこからともなく聴こえる音楽。 生まれては消え、やがて忘れられていく運命の曲たち。 その中のひとつに俺の作った曲がある。 いつからだろうか。 自分の曲がひどく憂鬱に聴こえるようになったのは—— ため息をつきかけたその時、 「この曲! アタシ大好き!」 制服姿の少女が嬉しそうに声をあげた。 その姿を見て僅かに微笑むが、すぐにそれも消えてしまう。 ——今だけだ。 この曲も、そのうちに忘れ去られていく運命。 昔の俺なら有頂天ではしゃいだはずの言葉も、
ギターの弦を弾く手が止まる。 何かが違う…… 弾けば弾くほど、その音色は俺の胸を重くしていく。 捉えようとすればするほど、その音色は遠くなっていく。 あの時、広がった豊かな色彩は消え失せ、口ずさんだはずのメロディは影も形もない。 ただ、深いため息が零れ落ちるだけ。 俺は夢でも見たのだろうか。 古びたバーで酔って見た幻—— そう思うほど感覚は鈍くなり、抜け出せない深い闇に沈んでいくような気がした。 それはいつもと同じ、何も生み出せなくなった自分。 彼女に出
体が次第に冷えていく。 頭の天辺からつま先までずぶ濡れだ。 だからといって差す傘も持っていない。 あったところで俺は差しもしないだろう。 通りを行く人々は無関心だ。 だが、今はそれが心地いい。 誰の目にも止まりたくはない。 いっそこのまま世界から忘れ去られてしまえばいい。 歩道橋脇の小さな公園の花壇のブロックに腰かけて、どのくらい経っただろう。 街を行く人々はどこからか現れ消えていくのに、俺だけここでずっと立ち止まったまま。 目的もない。かといって帰った
「なんかいいことあった?」 メンバーに言われ、俺はギターの弦を弾く手を止め顔をあげた。 「……どうだろう」 「なんだそれ」 「それより、どうしてそう思ったんだ?」 「なんとなく、楽しそうに見えたからさ」 人の目に見て分かるほどなのか、長年一緒にいるメンバーだから分かったのか。 (いいこと……なんだろうか) その場の勢いで言ってしまったとはいえ、彼女は期待しているだろう。 後悔がないとはいえない。 だが、それ以上に心が揺さぶられるものがあった。 早く彼女の詞を見てみ
気だるい朝——いや、もう昼か。 時計の針はゆっくりと進むが、俺の心はまるで動かない。 あんなにあふれていた音楽も言葉も、今では真っ白だ。 夢見ていたはずの生活を手に入れたはずなのに。 それでもステージに立つのは楽しい。 歌っている時だけはすべてを忘れられる。 重い体を起き上がらせると、出るのはため息。 「そろそろ行かないとな」 俺は憂鬱を振り払うかのように、勢いよく立ち上がった。 グラスを傾けると、氷がカランと音を立てた。 古びたバーは、昔から通っている
藤堂平助の耳にある報せが入ったのは、文久三年の松の内も明けた頃のことだった。 将軍上洛に先立ち京での治安維持を行うため浪士の募集をする、というものである。 京では尊王攘夷の名の元、浪士による「天誅」と称した殺戮が横行していたためだ。 だがしかし周囲の反応は冷ややかだった。 「立案者の清河八郎はあまり評判の良い人物ではない。倒幕を試みた人物というし、浪士を使って何をしようとしているのか」 この時期、江戸での尊王攘夷はまだ倒幕には至っていない。 江戸ではあくまで公武合
とりあえず登録してみました。