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書評 サリンジャー

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「They were made from Glass――グラース姓の子どもたち」 サリンジャー作品(グラース・サーガ)に対する書評です。
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They were made from Glass.

はしがき:グラース・サーガ

J.D.サリンジャーといえば、「ライ麦畑でつかまえて」で有名なアメリカ文学の巨匠であるが、サリンジャーの後期の作品は、主に、グラース(Glass)という苗字の一家の、天才七人兄弟についての連作短編となっており、それらは「グラース・サーガ」と呼ばれている。サリンジャーは「ナイン・ストーリーズ」を始めとして、「フラニーとゾーイー」、「大工よ、屋根の梁を高く上げよ/シーモア

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フラニーとゾーイー

 「フラニーとゾーイー」は、「ライ麦畑でつかまえて」(The Catcher in the Rye)、「ナイン・ストーリーズ」(Nine Stories)に並ぶサリンジャーの代表作であり、2014年に村上春樹による新訳、『フラニーとズーイー』が新潮文庫から出版されたことも話題となった。グラース家の末子で女子大生のフラニーと、そのすぐ上の兄・ゾーイーについての短編「フラニー」「ゾーイー」の二編を収録

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シーモア―序章―

ぼくの目が途方もなく冴えてくるような物語にしてくれよ。満天におまえの星たちが全部でているというただそれだけの理由でいいから、ぼくが五時まで起きているようにしてくれ。それだけの理由でいい。
Give me a story that just makes me unreasonably vigilant. Keep me up till five only because all your stars

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バナナフィッシュにうってつけの日

 「バナナフィッシュにうってつけの日(A Perfect Day for Bananafish)」は、『ナイン・ストーリーズ(Nine Stories)』に収録された九つの短編の劈頭を飾る作品であり、サリンジャーによるグラース・サーガのはじまりでもある、グラース家の長兄・シーモアの自殺を描いたものとして知られている。シーモアはこの短編のラストシーンで、妻・ミュリエルの寝るベッドの横でピストルで頭を

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