Sirius

 翠ヶ崎に入学して、初めて他校という立場から櫻林の試合を見たとき、二年前までは毎日のように見ていた奴らの弓が、どこか知らない人間のもののように見えたことをよく覚えている。俺の知らない間に彼らが上達した、という当たり前の事実を差し引いてもだ。それは、離れたことによって客観的に見られるようになったからだとか、俺が翠ヶ崎のやつらに影響を受けてすこし感覚が変わったからだとか、いろいろ理由はあったのだろうし、たぶん、そう見えるほうが普通なのだろう。そんな中で、ひとりだけ、俺があの場所にいたときからなにも変わらない弓を引く男がいた。あいつの弓だけは、どれだけの時間を置いてから見たとしても変わらないのだろうと、松原光暉はそういう意味での信頼だけは確実における人間だった。

*

 六月の都総体で風間が個人戦での出場権を勝ち取った全国総体(インターハイ)は、今年は北信越での開催で、弓道の会場は長野県だった。団体戦であれば部全体で応援に行けたのだろうが、試合に出るのが風間ひとりという状況で部を丸ごと長野に連れて行くことはできない、というのが学校の見解で、仕方ないと現役の部員たちも納得はしていた。ただ、弓道の指導ができない顧問ひとりが引率するというのも心もとないのは事実だ。顧問の方から、「コーチ代わりにひとり付いて来てくれ」とのお達しがあり、内部進学を決めていたから引退後完全に暇を持て余していた俺に白羽の矢が立った。もっともその話は、俺と森田が同時に呼び出されて聞かされ、森田も当然行きたがったのだけど、なにやら大事な模試と日程が重なっていたらしく風間に「受験勉強してください」と一蹴されていた。
「引退した身で行くのなんか申し訳ないけど……坂川とかじゃなくていいの?」
「古賀さんのが上手いですし」
「相変わらず身も蓋もねえなおまえは」
 おまえがいいならいいけど、と言えば、風間は浅く頭を下げて、「よろしくお願いします」と言った。風間本人が言い出したことでもないだろうし(本人はきっと、指導ができる人間が付いて来ようと来なかろうと構わない、と言っただろう)、俺自身も純粋にインターハイは観戦したかったから役得だと引き受けた。

 森田には最後まで「いいなあ」と言われ続けながら向かったインハイの会場では、顧問の手伝いで雑用をしたり、風間の試合前の練習に付き合ったりとそれなりにすることは用意されていた。風間は特に緊張するそぶりも見せずに行きの新幹線では爆睡していたし、試合の前日の練習でも、普段とさして変わらない態度で弓を引いていた。
「おまえ緊張しねえの?」
 夕飯の席でも、神経質になるような雰囲気もまるで見せずに山盛り二杯目の白米に手を付け始めた風間に思わずそう聞いたところ、風間は意外にも即答で「しますよ」と答えた。
「前日とかはそうでもないですけど」
「直前までしねえのもすごいと思うわ」
「まあでも、まったくしないってことはないです。……そういうのもいるじゃねえすか。松原さんとか」
「ああ――光暉な、そうだったな」
 風間が名前を挙げたのは、都総体で個人戦も団体戦も優勝を果たして、その両方で今回のインターハイに出場する俺の元同期だ。光暉は半年前の全国選抜も風間と一緒に出て全国の舞台で準優勝を勝ち取っていたし、インターハイは去年に引き続き二回目だ。中学時代も、彼は団体戦では二回、個人戦では三年生の一回、全中に出場している。
「古賀さんって、中学の時、団体で松原さんと同じチームいたことありますっけ」
「あるよ。いちばん調子良かったときだけだけど」
 思い返せば、光暉は緊張や重圧とは無縁の選手だった。「できるんだからやればいいじゃん」と、なんの疑問も持たずに言ってのけて、それを実行してしまう男だ。当時、俺はひとつ上の先輩を蹴落として得たレギュラーの座に居ることにかなりプレッシャーを感じていて、射込みでは調子が良くても立の練習になると途端に的中率が落ち込む傾向があった。それを同じチームで同期だった光暉に相談したとき、返って来た言葉をいまでも覚えている。彼は、心底不思議そうな顔で、俺に「なんで?」と聞いたのだ。「射込みで中るなら立でも中るし、練習で中るなら本番でも中るだろ」と、光暉は当たり前のような顔で首を傾げていた。
「おまえもおまえで精神力すげえなと思うけど、光暉のあれはまた違った気がするわ」
「わからないでもないです。射詰とかで、松原さんの隣嫌ですし」
「おまえでもそう思うんだ」
「自分があんま調子よくねえとき、隣にあのひといんの嫌じゃないです?」
「わかる。すげえ嫌だった」
 光暉の弓を見るたびに、彼の隣に立っていた時期の自分のことを思い出す。それくらい、いまでも四年前と変わらない弓を引いている。あいつの弓に、風間の弓のように強烈な美しさを感じたことはないような気がする。森田の弓のように清冽に整っているわけでもない。ただ、あの男は、特に理由も理屈もなく、葛藤や懊悩もなく、いつでも変わらず強いだけの人間だった。光暉はきっと、他人の弱さも苦しみも、理解ができないどころか、その存在にすら気付かない。いまも昔も。
「あのさ、風間。後輩に言うことじゃないのわかってんだけど、ちょっと俺の自己中な頼み聞いてくんねえ?」
「内容によりますけど」
「まあ、そりゃそうだな」
 相変わらずの不遜な返事を笑いながら、矢崎が風間を気に入っている理由がわかる気がする、と勝手に合点がいった。敵を作ることを怖がらない人間は強いと思う。風間は、ひとが自分を好くことにも嫌うことにも基本的に頓着しないけれど、自分に向けられたそういう視線に決して鈍感だというわけではない。むしろ、よくわかっているほうだと思う。わかっていて引き受けるのだ。
「――光暉に勝って」
 俺が、言葉にするべきことではないのはわかっていた。自力でどうすることもできなかったことを情けないとも思った。それでも、他の、縁もゆかりもないだれかにではなくて、風間に、あいつに勝ってほしいと思ったことも事実だ。風間は特に表情も変えずにしばらく俺の顔を眺めたあと、「松原さんに恨みでもあるんすか」と問うた。
「いいやつだとは思うし、普通に友人ではあるつもりだけど、正直私怨はある」
「まあ、知らんとこで恨み買いそうなひとではありますよね」
「おまえが言うかよ」
 しれっとした表情でそう言ってのけた風間は、いつの間にか茶碗を空にしていて、湯飲みに少しだけ残ったお茶を飲み干した。
「言われなくてもそのつもりですよ」
「すっげえ頼もしいわ」
 こういうふうに、素直に自分の実力を認められる選手でありたかった、とは思う。そういうやつらへの嫉妬もあるし、光暉のことを純粋に尊敬だけしていられなかった理由のひとつもそれだ。ただ単に、実力ひとつでこの場所に辿りつくことができて、その先を当たり前に見据えることができるやつらのことが羨ましいとも思う。俺は、本気でここに立つために全力を注いですべてを捧げる覚悟ができなかった。できていたら、光暉の隣から逃げるという選択は、きっとしなかったはずだった。

*

 櫻林高校弓道部は都内では屈指の名門で、毎年のように全国大会への出場枠を勝ち取ってはいるものの、ひとたび全国の舞台に出れば目立って強豪というほどの実績があるわけでもなく、個人でも団体でも全国制覇の経験は創立以来一度もない。そんな中で、冬の全国選抜で準優勝を勝ち取った光暉には、このインターハイで、櫻林高校初の全国制覇の期待がかけられていたはずだ。彼は昔から、負けることを「悔しい」と口にすることはあったものの、「勝ちたい」と言葉に出すことはほとんどない選手だった。だから、光暉が勝つことに対してどういう思いを持っていたのかを俺は知らない。ただひとつ、俺にでもわかることは、彼は自分の弓を追求するだとか、そこに矜持を抱くだとか、そういうことに関してはひとつも執着がなかった。光暉が弓道に関して、過程であろうと結果であろうと、なにかにこだわるところを俺は見たことがない。
 それと比べると、風間はあまり自分から言い張ることはないながらその実かなり頑固な人間で、だれになにを言われても、最終的には自分の思ったことはほとんど曲げない。それでひととぶつかったとしても、それは仕方ないと割り切ってしまうのだ。だからこそ風間の弓は鮮烈なのだと思う。それをことさらに語るわけではないけれど、彼の引く弓の後ろにはたしかに揺るがない矜持がある。ただ純粋に、眩しいまでの。
 弓道の個人戦は、初日の一日だけで予選から決勝まですべてが終了する。予選、準決勝ともに三中以上を達成すれば全員が決勝の射詰に進出するインターハイのルールでは、必然的に射詰の人数が多く、順位が決まるまでが長い。最終的に、優勝者が決まったのは九巡目が終わったときだった。なお三人が残っていた九巡目の行射で、二人が連続して外したあと、本日の十七射目を、光暉はやはりいつもと同じように打ち起こして、いつもと同じ呼吸で、表情で、小的のど真ん中を射貫いた。その直後、少しだけ彼の表情が満足げに緩んだのが見えて、そういう感慨はあるのか、と思った。
「お疲れ、風間。入賞おめでとう」
「どうも。後半バテました」
「そんな感じだったな。でも、十分立派だろ」
 風間は、予選、準決勝は皆中と、調子が良さそうに決勝進出を決めたものの、的が小的に変えられた五射目に危なっかしい中り方をしてしまってから安定感を欠き、結局七射目を外して五位だった。二年生の風間にとっては、そもそもインハイの個人戦に出ているだけでも快挙だし、そこで五位入賞を勝ち取るのは並外れた成績ではあるものの、風間自身が満足していないのは明白だった。
「半端ねえっすね」
 ぼそりと風間が呟いたその言葉がなにを指しているのかは、言われなくてもわかった。「敵わない」に比するような言葉を風間はだれに対してもまず言わない。そういう男の口から零れ出たその一言が、あいつの怪傑さをなによりも端的に表現していた。

*

「風間じゃん、お疲れ」
 個人戦の表彰式が終わったあと、団体戦のない俺たちは東京に帰る準備を始めていたところで、ふらりと光暉が姿を見せた。櫻林初の全国優勝と言うとんでもない快挙を成し遂げたあととは言え、櫻林は明日からの団体戦を控えているから、あまり羽目を外して騒ぎ続けるわけにもいかないのだろう。風間は光暉に向かって軽く頭を下げ、「おめでとうございます」とだけ言った。
「おまえと一騎打ちしたかったけどな。つーか、なんで雅哉だけ居んの? 森田とかは?」
 相変わらずけろっとした表情で物を言う光暉に、俺からも「おめでとう」を言って簡単に事情を説明すると、光暉はそれ自体には大した興味も抱かなかったようで、「ふうん」とだけ言った。
「じゃあ、団体は見ていかないんだ」
「東京帰ってライストかなんかで見るわ。頑張って」
「なんつーか、翠大附が、団体出れなかったのも惜しかったよな」
 光暉は風間と俺を交互に見ながら、すこし肩を竦めてそう言った。
「個人戦の戦績、五位以内に二本入ってたの翠大附(おまえら)だけだよ。三人立だったら、たぶん団体も翠大附だったんじゃねえかな」
「櫻林や泉谷みたいに、人数多くて、試合ごとにそんとき調子いいやつレギュラーにできる学校とは違いますからね」
「それにしても、個人戦二位三位って面子なのに、森田がここにいねえのなんかかわいそうってちょっと思った」
 かわいそう、とあまりに簡単に口にする光暉に、そういうところも昔から変わらないな、と実感した。かつて同じチームにいたとき、団体戦が準決勝で競り負けたことがあった。光暉はあっけらかんと、「あと一射あればよかったのにな」と俺に言った。自分は皆中だったうえで、彼は皮肉でも嫌味でもなく、あっさりとそう言ってのけてしまえる人間だ。
 風間は光暉の言葉に特別反応は見せなかったけれど、同意もしなかった。ただ、「五人揃えるのは楽じゃねえっすよ」とだけ言った。
「風間、おまえさ、そういうのわかってて、なんで翠大附行ったの? そりゃ、個人で見れば森田も雅哉も弱くはないけど、団体で勝つのはしんどいのわかりきってたじゃん」
 ずっと思ってたんだけど、と光暉は問うた。いまここで聞くか、とは思わないでもなかったけれど、それはたしかに俺も気になっていたことではあった。風間ほどの実力の選手が、どこかから推薦の話を持ち掛けられなかったわけがない。それこそ、都内どころか、全国制覇の常連のような高校からだって声がかかっていてもおかしくないはずだ。
「弓道のレベルよりも学校の偏差値をとっただけです」
 風間の答えは簡潔で、それを聞いた光暉は「なるほど」と笑った。風間は、あまり自ら誇示はしないものの、特定の分野に関しては抜群に頭がいい。文系科目は壊滅的なものの、理数系の成績はほぼ学年トップを独走状態だと聞いたこともある。森田に関してもそうだけれど、彼らにとって弓道は、自分の能力のすべてではまったくないのだ。彼らは決して、弓道のために翠ヶ崎にいるわけではない。ただ、翠ヶ崎という場所に身を置いたうえで、弓道に献身を向けるのだ。光暉や俺と、風間や森田とではそもそも前提にしている条件が違う。
「他の強いとこ行ってれば、って思わねえもんなんだな」
「そうっすね。特別翠ヶ崎でよかったとも思わないですけど、後悔はしてないですよ」
 なんの感慨もなさそうなその言葉が、きっといちばん真摯な感情を含んでいるのだと思う。光暉は「ならいいけど」と肩を竦めた。
「おまえは? 辞めたの、後悔したことないの」
 光暉が俺にも投げてきたその問いに、俺は風間のように単純な感情だけでは答えを出せない。櫻林を辞めたことが、正解だったと自信を持って言えるわけではない。俺は松原光暉にはなれなかった。隣で競い続けることもできなかった。そのことはいまでも悔しいと思う。あそこで、重圧にも期待にも嫉妬にも潰されずに、なににも揺らがされずに、高いところだけを目指して頑張れていたら、その方が正しい道だったのかもしれない。
「辞めるしかなかった、自分のことが嫌になったときはあるよ。ずっと、そっちで続けてられるくらい強かったらよかった、とも思うし。でも、――俺は実際そうじゃなかったし、だから、辞めなきゃよかったと思ったことはない」
「ふうん? おまえは、全国行きたいみたいのなかったの?」
「そりゃあ、あったよ。……あったけど」
 この男に、自分の本心をさらけ出すことがあまりに無意味だということを俺は知っているはずだった。光暉は、外側から潰される人間の苦悩がまったく想像もつかない側の人間で、だからこそ、精神力だとかそんな不確かなものに左右されずに圧倒的に強い。
「でも、おまえたちとよりも、森田や風間と行きたかった、って思うよ」
 光暉はやはり、俺の言葉にあまり興味もなさそうに、もう一度「ふうん」と言った。風間は相変わらず表情も変えずに、それでも俺たちの会話を聞いていた。会話の途切れた一瞬の沈黙を破ったのは、意外にも風間の声だった。
「松原さんは、なんで弓道やるんですか」
 風間がそういう、感情に根差した問いを他人に向けるのは珍しいと思った。それくらい、風間にとっても、光暉は腹の内が読めない相手なのだろう。
「やれることがあったら、やるじゃん。他になんかある?」
 光暉はその問いに、一瞬目を丸くしてからそう答えた。風間は薄く笑って、「らしいっすね」とだけ言った。強い人間は、ただそれだけで強いのだから残酷だ。理由だとか、哲学だとか、執着だとか矜持だとか、そういうものは、強くあるための条件にさえならない。そういう人間がこの世界にはたしかにいるのだ。とうに納得していたはずの事実でも、こうやって眼前に突き付けられると、やはりどうにも眩暈がした。

 光暉が櫻林のメンバーの元に帰ったあと、風間と二人で顧問の先生との合流場所までお互いに会話もなく歩く。風間はもともと饒舌なほうではないから、二人でいるときには会話などないことのほうが多いくらいだけれど、いまはすこしだけ静寂が落ち着かなかった。
「なあ、風間。おまえは、なんで弓道やってるの」
 名前を呼んだ声がわずかに上擦ったけれど、風間はそれには気付きもしないようなそぶりで俺の方を向いた。光暉に聞くくらいなのだから、風間自身はその問いに答えをもっていてもおかしくない。けれど、そういうものをはっきりと言葉にするような人間にも思えなかった。風間は俺から視線を外し、何歩か足を進めた後に、鷹揚に口を開く。
「これと言った理由を、考えたことはないですし、それこそ、やれるからやってる、って言われたら俺もそうなのかもしれないですけど」
 風間が、自分の感情について語る姿をあまり見たことがなかった。本人もきっと得意ではないのだろう、いつにもまして一言と一言の間が長い。
「でも、代替できるものだと思ってたら、わざわざ嫌いなひとと一緒にはやらねえだろうなとは思いますね」
「――そっか。なんか安心した」
 なにもかもを意に介さないほど、蹴落とすことにも蹴落とされることにも残酷なまでに無関心であれるほど強くはなれない。だとしたら、せめて、自分の弓に、自分が弓を引くことに意味を見出すことのできる人間と一緒にいることを選びたかった。翠ヶ崎の中では、風間がいちばんそれに遠いと思っていた。それでも、風間が光暉と似ていると思ったことがなかった理由は、その言葉の中にあるのかもしれなかった。
「おまえは内部進学すんの?」
「いまのところは、外を受けるつもりです」
「そっか、あんまだれも残んねえのな。……おまえとも、またいつか一緒にやりたいな」
 俺の呟いた言葉に、風間はやはり感情を乗せない声で「そうですね」とだけ言った。ほんとうにそう思っているのかどうかは知らないが、形だけでも同意が返ってきたことに意味があるような気もする。角を曲がる寸前、風間が一瞬だけ、先ほどまで試合が行われていたインターハイの会場に視線をやったのが見えた。
「来年はおまえが優勝しろよ」
 激励も、信頼も、なくたって風間は強いと思う。必要とされているとも思わない。それでも、そういうものが伝わらないわけではないということも、ようやくわかってきたところだった。器用でもないし愚直に真摯というわけでもないけれど、他人が自分に向けた言葉も、その意図も、風間は表に見せている以上によくわかっている。聡い男だ。
「――そうすね。今回は、古賀さんの頼み聞き損ねましたし」
「はは、ありがと」
 もう、風間とそう頻繁に人生が交わることはないのだろう。たぶん光暉ともそうだと思う。どういう感情を抱いていたとして、決して小さくない存在だったことは事実だ。そういう、強烈な存在を近くで見ていられたことを、その経験の得難さを、いつか実感しなおす日が来るのだろうか。
「おまえには、弓道、辞めないでほしいよ。卒業してからもずっと」
 感傷にまみれた俺の言葉に、風間は一瞬こちらに視線を向けたものの、返事はせずにまた視線を逸らした。そのまま、互いにどこともつかない場所を眺めながら歩き続ける。取り戻された静寂は、今度はどうにも破りようのない均衡を保って広がっていた。

2018/09/09

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東堂冴

こぐま座アルファ星

カクヨムで連載中の長編小説『こぐま座アルファ星』のまとめ
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