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日々辛抱強く港を眺めるマルコムついに怒る

マルコム(大家)は毎日バルコニーから港を見ている。スマホからニュースやラップミュージックを聴きながら。

ぼくが来てから日本に興味を持ったようで日本のニュースもチェックするようになった。

ぼくの任期が終わってぼくが日本に帰ったころ、日本を訪れるのも悪くないと考えている。

この国の人の9割がそうであるように、マルコムも日本車に乗っている。中古車を日本から引っ張ってきているわけだ。どういうシステムなのかわからないけれど、以前セントルシアにいたころ、いっしょに車を選んでくれというので日本の中古車ディーラーのサイト(もちろん英語だった)で選んだことがある。だいたいぼくが見ていたのは20万円くらいの軽自動車で、そこから輸送費などがかかるといっていた。

マルコムは今年の5月に新しい車(セントビンセントでは新車は原則輸入できないらしいので、新しい車といっても中古車)を日本に注文した。払い込みも行った。

マルコムにとっての誤算は日本の今年の5月は10連休、令和という新時代突入のお祭りムードだったことだ。

それによって振り込みは実行されず、ディーラーもお休みでマルコムがお願いしている中間業者もお手上げ状態で、お目当ての車はキープできずでヤキモキしていた。状態の良い車をネットで根気よく探していたのだそうだ。

連休明け、無事に払い込みが実行され購入できたという中間業者からの連絡を受け彼は一安心していた。

その車を載せた船が先月末、ようやくセントビンセントにやってきた。

待ちに待った車だ。輸送中にキズがついてないかどうかの心配事はあるけれど、届いた。

中間業者の店舗で受け取ることになっている。

デカい船が港に着く度に業者に電話していたマルコム。

そうだ、あの船に載っている

その言葉をしっかり聞いたマルコムは翌々日、業者のオフィスへ車を受け取りに出向いた。

マルコムの車はなかった。


マルコムが言うには、業者のボケが車を引き取りにいかなかったらしい。

何度も電話してくるものだから自分で取りに行くものだと思われていたらしい。

アホなことを言うなよと彼は首を横に振り、「あの野郎(業者)忘れてやがったんだよ。税関の手続きの書類も何もないのに引き取りにいけるわけないじゃないか。第一、なんのために俺はアイツ(業者)に手数料を払っているんだ。まったく責任転嫁も甚だしいよ。」

マルコムの車を載せた船は既に出港してしまっていて、次やってくるのは早くて来月だという。

「この分じゃ、クリスマス頃になりそうだよ、まったく」

マルコムはぷんぷん怒っていた。

一刻も早く自室に帰ってシャワー浴びてぐでぇーとしたかったのに50分近くも足止めをくらって、ぼくも絶望していた。

それでも、いろいろ車を買う方法はあるんだろうけれど(車屋さんへ直接行くとか)、そうやって自分で探して個人輸入のような形で車を買うことができるんだと少し驚いた。

ぼくが学生時代含め6年ほど住んだ神戸は95年の震災のあと、港としての魅力を失ってしまっていたのだけど、中古車(パーツ含む)の一大輸出拠点となっている。摩耶山の山頂から見て、港の方で太陽の光で光っているのは全部車で、それはそれはすごい数の車が集まっている。

多くはインドやアフリカに行くといわれていて、そういう車関係のビジネスをするインド人やパキスタン人などの外国人が多く住んでいる。飲食をやるインド人は貧乏で車関連のビジネスをやるインド人は金持ちというのは地元(少なくとも神戸のインド人コミュニティ内では)有名な話だった。

ぼくはそういうのを割と近くで見ていたから、中古車って、1ダースいくらのまとめ売りのビジネスモデルなんじゃないかと思っていた(輸送コストは安くなりそう)から、1台1台の個人輸入モデルってビジネスとして効率悪くないかと思ったんだけれど、探す方は探す方で一点モノの古着を探すようなおもしろさがあるんだろう。状態の良いものは個人輸入モデルないし、日本国内との競合になるのかもしれない。

とにかく、ぼくはマルコムの車が、マルコムがネットの画像で見た通りのキズ・サビのないきれいな状態で無事に手元に届くことを願ってやまない。


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