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108.第5章「映画とテレビでトップをめざせ!不良性感度と勧善懲悪」

第5節「東映ゼネラルプロデューサー岡田茂・映画企画の歩み⑧千葉真一 アクション映画」

8.アクションスター千葉真一誕生

 1968年4月からTBS系にて始まったアクションドラマ『キイハンター』で元新聞記者の国際警察官風間洋介役を演じお茶の間の人気者となった千葉真一は、岡田茂の指示で京都撮影所京撮1974年2月公開小沢茂弘監督『激突!殺人拳』に主演、そこから世界に広がる空手映画ブームを巻き起こしました。
 今回は、東映が誇るアクションスター・千葉真一の誕生から空手映画ブーム前夜までをご紹介いたします。

(1)千葉真一、テレビ、映画に主演デビュー

〇1959年、東映入社

 日本体育大学に在籍していた千葉真一は、器械体操でオリンピックを目指していましたが、練習中のケガで競技を断念しました。
 そのため大学を中退した千葉は、1959年第6期ニューフェイスとして東映に入社、研修後東京撮影所東撮)に配属されます。

〇1960年、特撮ヒーロードラマ『新七色仮面』主演デビュー

 そして、千葉の身体能力の高さとカッコよさを買われ、翌1960年1月7日日本教育テレビNET/現・テレビ朝日)でスタートする川内康範原作の子供向けヒーロー番組『新七色仮面』の主役に抜擢され、主演デビューしました。

『新七色仮面』千葉真一主演

 その年続けて川内康範原作『アラーの使者』に主演した後、翌1961年1月公開の島津昇一監督『警視庁物語 不在証明』で映画初出演します。

『アラーの使者』千葉真一

〇1961年、深作欣二監督アクション映画『風来坊探偵』映画初主演

 そして、6月公開、深作欣二監督デビュー作ニュー東映風来坊探偵 赤い谷の惨劇』で映画初主演を果たしました。

1961年6月ニュー東映『風来坊探偵 赤い谷の惨劇』 佐藤正道企画・松原佳成、神波史男脚本・深作欣二監督・千葉真一主演
「拳銃コンビ」曽根晴美・千葉真一(右)

(2)千葉真一、映画・テレビに主演

 この年千葉は、続編『風来坊探偵 岬を渡る黒い風』、ヒーロー特撮映画太田浩児監督『宇宙快速船』、深作監督『ファンキーハットの快男児』『ファンキーハットの快男児 2千万円の腕』などニュー東映作品に続けて主演します。
 また、東映製作の『進藤の社長シリーズ』などにも出演しました。

 1961年末にニュー東映が解散したため、翌1962年から千葉は鶴田浩二や高倉健などの主演映画に助演、また、様々なテレビ作品に出演し、年末には東映版事件記者シリーズ』第1作若林栄二郎監督『恐怖の魔女』に主演します。 

1962年12月『恐怖の魔女』園田実彦、吉川義一企画・山村英司脚本・赤林栄次郎監督・千葉真一主演

 1963年千葉は、3月公開、東映テレビ・プロの大ヒット作『特別機動捜査隊』の映画版太田浩児監督)に主演、4月公開佐伯清監督・村田英雄主演『柔道一代』に出演し、5月公開の『特別機動捜査隊 東京駅に張り込め』、東映版事件記者シリーズ』第2作若林栄二郎監督『殺人鬼の誘惑』に主演するなど様々な映画、テレビに出演を重ねました。

1963年3月『特別機動捜査隊』川崎修英企画・大和久守正脚本・太田浩児監督・千葉真一主演

 その後、9月公開若林幹監督『やくざの歌』、10月公開スポーツ映画佐伯清監督『白い熱球』にも主演します。

1963年9月『やくざの歌』猪又永一企画・池田一朗脚本・若林幹監督・千葉真一主演
1963年10月『白い熱球』根津昇、吉川義一企画・棚田吾郎脚本・佐伯清監督・千葉真一主演

 また、この年初めて東映京都撮影所京撮)に行き、6月公開マキノ雅弘監督・片岡千恵蔵主演『八州遊侠伝 男の盃』に出演しました。

 1964年には、前年に出演した村田英雄主演『柔道一代』の続編、2月公開『柔道一代 講道館の鬼』に主演します。

1964年2月『柔道一代 講道館の鬼』亀田耕司企画・ 結束信二脚本・佐伯清監督・千葉真一主演

 その後、日本教育テレビNET現テレビ朝日)の人気シリーズ『鉄道公安36号』第58回(1964/7/08)から第93回(1965/3/24)までレギュラー出演しました。

1964年『鉄道公安36号』千葉真一(左)・影山泉(主演)

 1965年9月からはNETにてマンガ家寺田ヒロオ原作の子供向け特撮柔道ドラマくらやみ五段』(1965/09/07~1966/03/01)に主演します。

 1966年には、日本と台湾の合作のアクション映画、にんじんプロダクション製作深作欣二監督『カミカゼ野郎 真昼の決斗』に主演高倉健が共演しました。

1966年6月『カミカゼ野郎 真昼の決斗』田畑稔、施茂生企画・深作欣二、太田浩児、池田雄一脚本・深作欣二監督・千葉真一主演

 深作の演出で千葉は吹き替えなしの大スタントを披露、この映画は『キーハンター』へと続く千葉アクションの原点となります。
 日本では6月に東映配給で、1971年に台湾で公開されました。
 
 千葉は続いて東映ラム・フィルムとの日米合作映画『海底大戦争』に主演します。

1966年7月『海底大戦争』亀田耕司、吉野誠一企画・大津皓一脚本・佐藤肇監督・千葉真一主演

 この映画の特撮は、矢島信男をリーダーとする東映東京制作所特殊技術部スタッフ(76.第4章「行け行け東映・積極経営推進」https://note.com/toei70th/n/nf0c1348146a5参照)が担当し、ミニチュアや半魚人の造形は、後にウルトラマンのキャラクターを作った成田亨がデザインしました。

深海サイボーグと対峙するペギーニール・千葉真一

 千葉は他に作曲家遠藤実の自叙伝を原作とした9月公開の歌謡映画太陽を突っ走れ』(鷹森立一監督)に主演、主題歌「太陽も笑っている」、挿入歌「妻に捧げる歌」も唄います。

1966年9月『太陽に突っ走れ』秋田実企画・池田雄一脚本・鷹森立一監督・千葉真一主演

〇1966年、任俠映画『浪曲子守唄シリーズ』主演

 続けて千葉は、10月公開の歌謡映画浪曲子守唄』(鷹森立一監督)に主演しました。「逃げた女房にゃ 未練はないが お乳ほしがる この子が可愛いー」で一世を風靡した一節太郎の大ヒット曲をもとに企画された映画は、子役に下沢広之、後の真田広之が出演しています。

1966年10月『浪曲子守唄』扇沢要、吉田達企画・池田雄一脚本・鷹森立一監督・千葉真一主演

 この映画はヒットし、翌1967年4月公開『続浪曲子守唄』、10月公開『出世子守唄』と千葉主演・鷹森立一監督でシリーズ化されました。

1967年4月『続浪曲子守唄』扇沢要、吉田達企画・池田雄一脚本・鷹森立一監督・千葉真一主演
1967年10月『出世子守唄』扇沢要企画・池田雄一脚本・鷹森立一監督・千葉真一主演

 この作品にてシリーズは終了し、その後千葉鷹森立一監督『河内遊侠伝』に主演します。

1967年12月『河内遊俠伝』今田智憲、太田浩児、扇沢要企画・池田雄一脚本・鷹森立一監督・千葉真一主演

 第1作『浪曲子守唄』と第2作続篇の間に、千葉1966年12月公開の子供向ヒーロー映画佐藤肇監督『黄金バット』にも主演しました。

1966年12月『黄金バット』扇沢要企画・ 高久進脚本・佐藤肇監督・千葉真一主演

 ヤマトネ博士役を演じた千葉は、甦った正義のヒーロー黄金バットに助けられ怪人ナゾーを倒します。

〇1967年、『特攻隊映画シリーズ』出演

 1967年、千葉は鶴田浩二主演の特攻隊映画シリーズ6月公開中島貞夫監督『あゝ同期の桜』に出演、翌1968年には第2作、1月公開小沢茂弘監督『人間魚雷 あゝ回天特別攻撃隊』、6月公開第3作村山新治監督『あゝ予科練』と3部作、1970年10月公開佐藤純弥最後の特攻隊』と全てに隊員役で出演しました。

1967年6月『あゝ同期の桜』岡田茂、俊藤浩滋企画・須崎勝弥、中島貞夫脚本・中島貞夫監督・鶴田浩二主演
1968年1月『人間魚雷 あゝ回天特別攻撃隊』岡田茂、俊藤浩滋、日下部五朗企画・棚田吾郎脚本・小沢茂弘監督・鶴田浩二主演
1968年6月『あゝ予科練』俊藤浩滋・秋田亨、太田浩児企画・須崎勝弥脚本・村山新治監督・鶴田浩二主演
1970年10月公開『最後の特攻隊』俊藤浩滋、太田浩児企画・ 直居欽哉脚本・佐藤純弥監督・鶴田浩二主演

(3)1968年、『キイハンター』出演、人気爆発

 そして、1968年4月TBS系土曜の21時から『キイハンター』(1968/4/6~1973/4/7)が始まります。
 「キイハンター」とは、元国際警察外事局諜報部員の黒木鉄也(丹波哲郎)をリーダーに、元フランス諜報部員津川啓子(野際陽子)、元新聞記者風間洋介(千葉真一)、カーマニア島竜彦(谷隼人)、記憶の天才谷口ユミ(大川栄子)など、国際警察特別室村岡室長(仲谷昇)が率いる特殊スタッフたちのことで、彼らが悪と戦うアクションドラマでした。 

TBS系『キイハンター』

 深作欣二監督が構想を練った『キイハンター』は高視聴率を獲得します。中でも千葉真一の身体を張ったアクロバティックなスタントアクションは一番の見どころとして大人気を博し、「チバちゃん」と呼ばれるアイドルとなります。

風間洋介役千葉真一

(4)東西撮影所を股にかけ活躍

〇1969年、京撮オールスター大作『日本暗殺秘録』出演 

 千葉は、オールスター実録大作で大ヒットした1969年10月公開中島貞夫監督『日本暗殺秘録』に主演します。

1969年10月公開『日本暗殺秘録』 天尾完次企画・笠原和夫、中島貞夫脚本・中島貞夫監督・千葉真一主演

 この映画はオムニバス形式ですが、千葉はそのメインエピソードである血盟団事件の主役小沼正を演じ高く評価されました。

〇1970年、東撮『やくざ刑事(でか)シリーズ』主演

 『キイハンター』で人気が爆発した千葉は、1970年5月公開『やくざ刑事(でか)』に秘密捜査官役で主演します。

1970年5月公開『やくざ刑事(でか)』太田浩児、佐藤雅夫企画・ 神波史男脚本・野田幸男監督・千葉真一主演

 野田監督は『キイハンター』と同じく派手なアクションとユーモア要素を満載するとともに、映画ならではの濃厚なベッドシーンなど岡田の求める不良性要素も入れました。
 この作品はシリーズ化され、10月公開野田幸男伊藤俊也監督『やくざ刑事 マリファナ密売組織』、1971年4月公開鷹森立一監督『やくざ刑事 恐怖の毒ガス』、8月公開鷹森立一監督『やくざ刑事 俺たちに墓はない』と4作作られます。

1970年10月『やくざ刑事 マリファナ密売組織』太田浩児、高村賢治企画・ 神波史男、野田幸男脚本・野田幸男、伊藤俊也監督・千葉真一主演
1971年4月『やくざ刑事 恐怖の毒ガス』太田浩児、高村賢治企画・ 神波史男、鷹森立一脚本・鷹森立一監督・千葉真一主演
1971年8月『やくざ刑事 俺たちに墓はない』太田浩児、高村賢治企画・ 神波史男、鷹森立一脚本・鷹森立一監督・千葉真一主演

〇1972年、東撮『狼やくざ』と『麻薬売春Gメン』

 『やくざ刑事シリーズ』が終了した千葉は、次は殺し屋を演じ、1972年1月公開 鷹森立一監督『狼やくざ 殺しは俺がやる』、11月公開斎藤武市監督『狼やくざ 葬いは俺が出す』と2作に主演します。

1972年1月 『狼やくざ 殺しは俺がやる』太田浩児企画・中西隆三脚本・鷹森立一監督・千葉真一主演

 またこの年、大物実業家で三悪追放協会を組織し売春・麻薬・性病の三悪追放キャンペーンを提唱した菅原通済(つうさい)が全面協力した、9月公開『麻薬売春Gメン高桑信監督、12月公開『麻薬売春Gメン 恐怖の肉地獄』にも主演しました。

1972年9月『公開『麻薬売春Gメン』吉野誠一、安斉昭夫企画・金子武郎、高桑信脚本・高桑信監督・千葉真一主演

〇1973年、京撮『仁義なき戦い 広島死闘篇』大友勝利役 

 千葉は、映画デビュー作を担当した深作欣二監督の『仁義なき戦い』第2弾『広島死闘篇』に大友勝利役で出演します。

1973年4月『仁義なき戦い 広島死闘篇』 日下部五朗企画・笠原和夫脚本・深作欣二監督・菅原文太主演

 1973年4月に公開され、これまでのさわやかでかっこいい千葉のイメージをくつがえす粗暴で下品な大友勝利の演技は、個性的な登場人物が多い『仁義なき戦いシリーズ』の中でも大きなインパクトを与え、千葉はアクションだけでなく演技者としても高い評価を得ました。

『仁義なき戦い 広島死闘篇』大友勝利役千葉真一

〇1973年、東撮『ボディガード牙』牙直人役

 5月には、鷹森立一監督『ボディガード牙』が公開されます。
 原作梶原一騎・作画中城健1972年から『週刊サンケイ』(扶桑社)で連載中の大人向け人気劇画を映画化したこの作品で、千葉は、極真会館大山倍達演じる「ゴッドハンド」大東徹源の後継者牙直人役で主演しました。

1973年5月『ボディガード牙』太田浩児、高村賢治企画・中西隆三脚本・鷹森立一監督・千葉真一主演

 この映画はヒットし、10月に千葉主演鷹森監督で『ボディガード牙 必殺三角飛び』が公開されます。 

1973年10月『ボディガード牙 必殺三角飛び』太田浩児企画・中西隆三、鷹森立一脚本・鷹森立一監督・千葉真一主演

 その間、京撮にてホンコン・タイ・韓国との合作映画での菅原通済原案中島貞夫監督『東京=ソウル=バンコック 実録麻薬地帯』に主演し、各国での海外ロケで派手なアクションを展開しました。 

1973年9月『東京=ソウル=バンコック 実録麻薬地帯』 日下部五朗、佐藤雅夫企画・高田宏治、中島貞夫脚本・中島貞夫監督・千葉真一主演

 この作品には菅原が本人役で出演しています。

 『ボディガード牙』で空手の達人役を演じた千葉真一は、学生時代から大山倍達に師事しており、極真空手4段の猛者でした。
 そしてこの後、空手映画でブームを巻き起こします。 

1970年10月『やくざ刑事 マリファナ密売組織』千葉真一決死のスタントアクション

トップ写真:1961年『風来坊探偵 赤い谷の惨劇』千葉真一