117.第5章「映画とテレビでトップをめざせ！不良性感度と勧善懲悪」
第8節「洋画部の躍進 角川映画との連携 中篇」
あけましておめでとうございます！
今年もよろしくお願い申し上げます。
7．『魔界転生』大ヒット、真田広之人気拡大
1981年6月、角川と東映が共同製作した深作欣二監督・沢田研二主演の『魔界転生』が公開されました。
『魔界転生』は角川春樹が東映京都撮影所（京撮）に持ち込んだ企画で、東映が主となり製作した山田風太郎原作の伝奇時代劇大作です。
1981年度日本映画配給収入（配収）第10位となる10億5000万円を記録し大ヒットしたこの映画には、京撮で売り出し中の真田広之（ジャパン・アクション・クラブ）が出演。身体を張った派手なアクションが注目を集めました。
角川にも気に入られた真田は、この後角川映画など話題作への出演を重ね、大スターへの道を歩んで行きます。https://note.com/toei70th/n/ne31a5a6181de
８．薬師丸ひろ子『セーラー服と機関銃』大ブレイク
1980年、東宝は、この年秋にトップスター山口百恵の結婚引退が決まり、百恵に代わるアイドルを探していました。
角川映画第3弾『野性の証明』（1978年10月公開）のオーディションで選ばれ映画デビューした薬師丸ひろ子は、この作品のプロデューサー東映・坂上順の紹介でキティ・フィルム社長多賀英典に会い、キティと東宝が共同製作する相米慎二監督『翔んだカップル』の出演を決め、角川春樹の了解も得ます。
『野性の証明』で話題を集めた薬師丸は、1979年1月のテレビドラマや資生堂のCMに出演した後、高校受験のため女優業を休止していました。
ただ、角川のグラビア雑誌やキャンペーンポスターなどには登場しており、女優業を休んでいる間もアイドル人気は徐々に拡大。カメオ出演した『戦国自衛隊』も話題を呼びます。
初写真集『薬師丸ひろ子フォトメモワール』はベストセラーになっていました。
高校に入学した1980年7月、『翔んだカップル』は東宝配給にてアニメ映画『まことちゃん』と同時公開され、配給収入（配収）8億円にのぼる大ヒットとなります。
この初主演映画は、薬師丸人気に火を付けました。
1981年、角川春樹は、監督に大林宣彦を起用し、薬師丸ひろ子主演で眉村卓原作『ねらわれた学園』を製作します。
CMディレクターとして活躍中の大林は、1977年の映画デビュー作『HOUSE ハウス』（東宝映画製作）の斬新な演出で日本映画界に新風を吹き込んだ鬼才で、1979年7月公開の角川映画『金田一耕助の冒険』の監督を担当、角川とも意気投合していました。
ちなみに『ねらわれた学園』は、松下電器を退社した逸見稔が設立した制作プロダクション「オフィス・ヘンミ」が制作を担当。ヘンミのプロデューサーとして岡田裕介もこの作品に参加しています。
7月、近藤真彦、野村義男、田原俊彦「たのきんトリオ」主演東宝映画製作『ブルージーンズ メモリー』と同時上映され、配収12億5000万円を記録、松任谷由実が歌う主題歌「守ってあげたい」ともども大ヒット。この作品でアイドル薬師丸ひろ子人気はますます高まりました。
ただ、今作の公開において東宝の方針に不満を持った角川春樹は、次の角川映画作品から配給を東宝から他社に代えます。
10月、東宝と距離を置いた角川は、鹿賀丈史主演、篠田正浩監督で自社製作した横溝正史原作『悪霊島』を、東映洋画と日本ヘラルド共同配給にて公開します。
この映画は先に東宝が配給し東宝系の映画館での公開が予定していたこともあり、日比谷映画他東宝系の映画館で上映されました。
鹿賀丈史が金田一耕助を演じたこの作品は、キャッチコピー「鵺(ぬえ)の鳴く夜は恐ろしい…」がテレビで大量に放送され話題となり、配収9億3000万円の大ヒットとなります。
また、東映は、同日から角川が『本陣殺人事件』（1975年ATG製作)の高林陽一監督を起用して製作した横溝正史原作『蔵の中』を、新宿東映ホール1など主要5都市の東映直営小劇場で展開するTCC（東映シネマサーキット）チェーンにて公開しました。
この作品でヒロイン小雪を演じ映画デビューした松原留美子を売り出すためのキャッチフレーズとして初めてニューハーフという言葉が誕生します。
この1981年、角川はキティ・フィルムと共同で薬師丸主演相米慎二監督『セーラー服と機関銃』を翌年の正月作品として製作します。
この企画は、主婦と生活社から出版されていた赤川次郎原作『セーラー服と機関銃』を映画化したいと考えた相米監督が、キティ・フィルムの伊地智啓プロデューサーに話したことから始まりました。
伊地智から話を聞いた社長の多賀は、角川文庫からも出版することで角川を説得し、相米が直接薬師丸に会って脚本を渡し出演了解を取ることで、角川の許諾も得て何とか映画製作にこぎつけます。
12月、東宝に代わって東映が配給した『セーラー服と機関銃』は、洋画宣伝室が宣伝を担当し、東映製作の真田広之主演『燃える勇者』と同時公開されました。
初日には前夜から徹夜で映画館前にファンが行列をなし、大阪では入りきれない多数の客で興行が中止する事態になるなど大ヒット。
『セーラー服と機関銃』『燃える勇者』は配収23億円、日本映画配収第1位、東映史上最高の配収を記録します。
この映画の主題歌は、始めはキティ・レコード所属の来生たかおが歌う予定で姉の来生えつこが作詞し、来生が作曲していた『夢の途中』でした。
その後、角川からの要望で曲名を『セーラー服と機関銃』と映画タイトルに変更し、相米監督の希望にて薬師丸自身が歌うことになります。
薬師丸が歌う『セーラー服と機関銃』（1981年11月21日発売）と来生たかおの『夢の途中』（1981年11月10日発売）は、競作の形で共にキティ・レコードにて公開前の11月にリリースされました。
歌手デビューを果たした薬師丸のこの曲は、5週連続オリコン1位、年間2位を記録する大ヒット、来生の曲も映画公開後に順位を上げロングセラーとなります。
この曲で一躍注目を集めた来生は、その後ヒットメーカーとして『シルエットロマンス』など数多くの名曲を生み出しました。
映画とレコードの大ヒットでプロマイド売り上げも他のアイドルを抑え第1位となり、薬師丸のアイドル人気は頂点に達します。
また、東宝は、著しい功績をあげた映画製作者を顕彰する目的で大プロデューサー藤本真澄の名をつけた藤本賞を創設し、第1回受賞者（1981年度）に『セーラー服と機関銃』等の功績があった角川春樹を選びました。
『ねらわれた学園』で角川と溝ができた東宝でしたが、この受賞にて関係が修復されます。
９．真田広之主演『伊賀忍法帖』大ヒット、渡辺典子デビュー
1982年、角川は東映と共同で西村寿行原作・長谷部安春監督・渡瀬恒彦主演『化石の荒野』を製作します。
黒澤満社長のセントラル・アーツ（1980年11月設立）が制作協力したこの映画は、4月、東映洋画が配給し新宿ミラノ座や渋谷パンテオンなど松竹東急洋画チェーン（STチェーン系）にて公開されました。
残念ながら、配収2億6000万円と成績が振るわずに終わります。この映画は角川映画始まって以来の不入り作品となりました。
この年、角川と松竹は、つかこうへい原作『蒲田行進曲』を深作欣二監督・松坂慶子主演にて初めて共同製作します。
角川は始め東映の岡田茂にこの話を持って行きましたが、楽屋落ち映画は客が来ないと考えた岡田から断られ、タイトルの蒲田撮影所があり角川との提携を望んだ松竹が進んで手を挙げました。
この作品は、東映の俳優汐路章がテレビ番組で話した階段落ちを取り入れ作ったつかの人気舞台を映画化したもので、松竹作品を東映の京撮で東映スタッフが撮影するという、これまでの映画界では考えられない組み合わせで作られます。
深作の演出も冴え、主演の松坂だけでなく、風間杜夫と平田満のコンビの演技が評判を呼び、10月、同じく松竹と共同製作した斎藤澪原作・増村保造監督・岩下志麻主演『この子の七つのお祝いに』と合わせて松竹配給で公開されると配収17億6300万円の大ヒットとなりました。
また、桑田佳祐が作詞作曲し、中村雅俊が歌った主題歌『恋人も濡れる街角』も同じく大ヒットします。
そして、興行成績が良かったばかりでなく、第56回キネマ旬報において、日本映画ベスト・テン第1位に選ばれ、第6回日本アカデミー賞では、最優秀作品賞、最優秀監督賞、最優秀脚本賞、最優秀主演男優賞（平田満）、最優秀主演女優賞（松坂慶子）、最優秀助演男優賞（風間杜夫）、最優秀音楽賞、新人俳優賞（平田満）を受賞するなど作品内容的にも高い評価も得ました。
松竹と初提携した角川は、再び東映と共同し、1983年の正月作品として草刈正雄を主演に大藪春彦原作『汚れた英雄 THE LAST HERO』を製作します。
バイクレースの迫力を出すことを目指し、角川自らこの映画を監督しました。この映画が角川春樹初監督作品となります。
併せて、角川は、『魔界転生』で注目を集めた真田広之主演で『伊賀忍法帖』を東映と共同製作しました。
監督は『悪魔が来りて笛を吹く』『戦国自衛隊』『刑事珍道中』で起用した元日活の斎藤光正が担当します。
薬師丸に続くアイドルスターを育成したい角川は、本作のヒロイン役を選ぶため「角川映画大型新人女優コンテスト」を開催、グランプリを受賞した渡辺典子が真田の相手役を務めました。
『汚れた英雄』『伊賀忍法帖』は、正月作品として12月に公開されると配収約16億円の大ヒットとなります。
1983年3月、角川は角川アニメ第1作として平井和正と石森章太郎の共作による漫画原作『幻魔大戦』を東宝東和配給にて公開しました。
経営不振の虫プロから独立した丸山正雄、出崎統、りんたろう、川尻善昭たちが設立したマッドハウスが制作したアニメ映画は、配収10億6000万円を記録。
『幻魔大戦』が成功した角川は、ここからアニメ製作にも進出します。
10．原田知世登場
この年7月には東映洋画配給にて角川製作の薬師丸ひろ子主演第3作『探偵物語』が公開されました。
『探偵物語』は、大ヒットした『セーラー服と機関銃』の原作を書いた赤川次郎が、1982年に薬師丸映画を前提に角川ノベルズに書き下ろした小説で、薬師丸の相手役には松田優作、監督にはディレクター・カンパニーの根岸吉太郎が起用されます。
制作にはセントラル・アーツも協力し、黒澤満、長谷川安弘、紫垣達郎がプロデューサーとして参加しました。
角川は、『探偵物語』の同時上映作品として、『ねらわれた学園』を担当した大林宣彦監督で筒井康隆原作『時をかける少女』を製作、原田知世を主演に起用します。
大林は1982年に監督した、日本テレビ・ATG(アート・シアター・ギルド）製作『転校生』が高い評価を受けていました。
また、主演の原田知世は、『伊賀忍法帖』での「角川映画大型新人女優コンテスト」に応募、角川の目に留まり特別賞を受賞。フジテレビのテレビドラマ『セーラー服と機関銃』（1982/7/5～9/20）『ねらわれた学園』（1982/10/11～12/27）に主演しており、この作品が映画デビュー作となります。
7月、『探偵物語』は東映洋画配給にて公開され、配収28億円を上げる大ヒット、1983年度日本映画配収第2位を記録しました。
『探偵物語』の成功とともに、同時上映された『時をかける少女』は、ジュブナイル映画を代表する作品として高い評価を受けます。
原田が歌った主題歌『時をかける少女』はオリコン第2位まで昇り、薬師丸が歌った主題歌『探偵物語／すこしだけやさしく』もヒット、原田は映画デビュー作で一躍薬師丸と並ぶアイドルスターとなりました。
11．薬師丸ひろ子・真田広之共演『里見八犬伝』大ヒット
『探偵物語』『時をかける少女』が大ヒット公開中の7月26日、1984年の正月公開作品、薬師丸主演第4作、深作欣二監督『里見八犬伝』の製作発表が行われます。
薬師丸の相手役には『伊賀忍法帖』に主演した真田広之が起用されました。
深作監督は、『柳生一族の陰謀』『宇宙からのメッセージ』『魔界転生』などで真田広之とは仕事をしていましたが、薬師丸とは初めての撮影となります。
11月には、東京府中競馬場と宝塚の阪神競馬場をヘリコプターで掛け持ちをするキャンペーンイベントを実施。今を時めく男女のアイドルスターの共演は大きな話題を呼びました。
12月に公開されると予想通り大ヒット、薬師丸と真田、二人のトップアイドル共演作は配収23億2000万円を記録し、1984年度日本映画配収第1位となります。
角川が見出した薬師丸ひろ子、原田知世、渡辺典子は角川三人娘と呼ばれ、映画のみならず歌手としても活躍しました。