2024の抱負

その夜は雨であった。それもかなり酷い雨である。天井と地面を叩く音は、お気に入りのJロックでしか掻き消せぬだろうなと鈴木は思った。雨音のせいでそのリズムも思い出せず、ウィンカー音に合わせてハンドルを人差し指でトントンと弾く。

雨の日にとって信号を待つ時間は憂鬱を起こすにはあまりにちょうどいい時間だった。鈴木は雨の日の憂鬱をなんとなく思い出していた。具体的には思い出せぬが、たしかに雨の日は憂鬱なのだ。
ようやく信号が青になった。道路に反射した緑が目に届くタイミングと指のリズムがずれ、さらに鈴木は憂鬱を覚える。

こんな夜中に他に走る車もない。それでも鈴木は信号が青である以上、ウィンカーを出した右に進まざるを得なかった。右に進まずともよかった。セブンスターの箱はまだ3本入ったような湿った音で転がっている。交差点で一服しようと良かったのである。
それでも鈴木は、アクセルを踏まなければならなかった。
パンクしかけたタイヤのぎゅっと滑る音が、交差点に別れを告げる。
いつの間にか雨が雪に変わっていることに、フロントガラスを見た鈴木はようやく気がついた。
鈴木の憂鬱を晴らすには、それだけで十分だった。

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