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海猫沢めろんの小説の書き方。カタパルト式に感情線を上げていく「感情のロジカルデザイン」

感覚的だし、論理的。カルチャーマガジンの編集者としてクリエイターにインタビューしてそう感じることがよくあった。

例えば小説家・海猫沢めろんさんに小説の創作法を教わったときそんな感覚を得た。『リズと青い鳥』について山田尚子監督のお話を聞いたときも。『リズ』の劇伴音楽の牛尾憲輔さんのインタビューでも。『クロノ・トリガー』などの作曲家・光田康典さんのときもそうだった。

皆さん、作品の本質を捉えるのにまっすぐで、感覚を大事にしながらも論理的だった。

感覚とロジックは相反するものではない……のかもしれない。ただ自分の経験では、自分の直感でモノをつくってうまくいっても再現性がないことが多かった。良い作品をつくる人は、なぜその表現にしたのかきちんと説明できる。そのことに素直に驚き、敬意を抱いた。

なぜ自分がこんなにも作品によって感動するのか、感情が揺さぶられるのか、その仕組みが知りたい。

万人に同じアプローチが有効かは分からないし、そもそも答えは1つではないだろう。でも小説を書いたり、漫画を描いたり、映像を撮ったり、音楽をつくったりする人には興味があるテーマのはずだ。

何より、名作が生まれた裏側を知るのが僕はとにかく好きなのだ。

批評や分析より人の話を聴くほうが得意なので、これから何回かに渡ってクリエイターに「感情のロジカルデザイン」について聞いていきたい。

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第1回は文筆家・小説家の海猫沢めろんさん。『左巻キ式ラストリゾート』でデビューし、『夏の方舟』『キッズファイヤー・ドットコム』などの小説、『明日、機械がヒトになる』ほかルポ・エッセイでも活躍。企画で何度もご一緒しているが、初めてお会いした日に小説の創作法についてお話を聞いた。
(2017年2月14日収録)

(音声版はこちら)めろんさんの生の声で解説がお聞きいただけます。

https://soundcloud.com/tog-gle/tog-gle-radio-1-meron-uminekozawa

小説は「カタパルト式」に感情を上げるよう書く

――30歳のとき初めて小説を書いたんです。めろんさんのnoteにあった「小説家が読んでいる小説を書くための本」も参考にしたんですけど……まあ、書けないんですね。一応完成させたけど……しんどかったんです。

海猫沢めろんさん(以降:めろん) どこらへんに悩んだんですか?

――まずプロット(話の筋)が先なのか、書き始めるのが先なのかに悩んで……。結局プロットを書いたけど、違う方向に途中から行ってしまった。全体の3分の2ぐらいで行き詰まって、書き直しました。

めろん:やり直して、もともと書きたかったことはブレましたか?

――そこはブレてないと思います。

めろん:書きたい場面は書けましたか?

――ストックしていたシーンがあったけど、どこにどう入れればいいかに悩みました……。

めろん:でもそこまでやれていたら非常に良いと思います。ペン貸してもらっていいですか?
最小限考えるべきなのはこういうことです(めろんさんが図を描いてくれる)。

――シド・フィールド的な三幕構成ですね。

※シド・フィールド……アメリカの脚本家、プロデューサー。著書『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと』は、ストーリーテリングの教科書として有名。

※三幕構成……シド・フィールド理論にも登場する、脚本・ストーリーの構成方法。ストーリーを
1.設定
2.葛藤(対立)
3.解決
の三幕に分けて考える。1→2幕の切り替わりになる事件をプロットポイント1(PP1)、物語の折返しで最も盛り上がるクライマックスをミッド・ポイント(MP)、2→3幕の切り替わりでエンディングに向かうポイントをプロットポイント2(PP2)とする。

めろん:そうです。最初のセットアップ、PP1、MP、PP2、エンド、で5つあるんで5ACTって言われてるのかな? ここにさらに感情線を入れるんです。ただの三幕構成だとそこがないので。

めろん:スタート時点に大きな事件を入れてドンッと感情を上げる。で、ミッドポイントまで行き、また最後に事件が起きて終わりへ向かう。三幕構成で組めるのはこういう出来事の盛り上がりですね。これは書き手のプロットラインだから「上がって落ちる」があってもいいけど、読者の感情は、常に上がっていかないといけない。

でも、これはあくまで基本なんですよ。僕も最初は三幕構成をベースに小説を書いてたけど間違ってたことに気づいた。ポイントを先に決めると、そこへのつなぎのシーンを書くのが苦痛になったんです。そうじゃなかったですか?

――そうでした! まさに……。

めろん:だからこのやり方は間違いだって分かったんですよ。僕なりの改良理論があって、それは事件のポイントじゃなくて、シークエンスで考えるんですよ。

めろん:この塊が1章なんです。大事なのはこの章の頭と最後なんですよ。最初に事件が起きる。次にさらに事件が複雑になる。主人公がピンチになる。そこで選択する。選択→結果→選択→結果……の繰り返しです。
それだけ考えるとつながるんですよ、話が。

――これは分かりやすいですね。

めろん:三幕構成の「点」だけで考える方法の何が問題かというと、その点で一度終わっちゃうことなんですよ。

そうじゃなくて、加速していく通過ポイントだと捉える。終わらせちゃいけない、どの章も。
1章で少年と少女が出会うとしたら、そこで終わりにしちゃだめなんです。少年と少女が出会いそうってところで終わりにするとか。出会った後に何かが起こって終わりにするとか。
ベクトル、運動量を切っちゃだめなんです。

――ゲーム「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」シリーズでソニックがカタパルトを通ると加速しますけど、そんな感じですね。

めろん:そうです。一段落させちゃ絶対だめ。収まりよく終わったら、無理やり崩してください。
で、前の章の最後と次の章の最初が重なるようにする。

――なるほど、最後のオチが次の始まりになるんですね。

めろん:これさえ分かっていればあとは推進力でいくので、ポイントは考えなくていい。ぜひこれでやってみてください。

感情の推進力が大事

――めろんさんの作品でいうと、三幕構成、「カタパルト式」で書いたのってそれぞれなんですか?

めろん:デビュー作の『左巻キ式ラストリゾート』は何も考えずに書いたんですが、今考えるとカタパルト式になってましたね。

『零式』は三幕構成と5ACTで書きました。ポイントだけ考えて書き始めると、感情線や大局が見えなくなるので、最初から上がって下がる話にしようと思いました。それで飛行機が飛ぶと感情が上がり、落ちると感情も下がるようにしました。

『ニコニコ時給800円』も三幕構成と5ACTでやったかな。
この理論って長編も短編も同じになるんで、短編なのに長編つくるくらいの労力がかかって……なんでこんな簡単なことに時間がかかるんだ……ってなりました。ちなみに長編だとここにサブプロットが2、3本必要ですね。

でも純文学の場合はこういう理論とは別の体系もあるんで、自分の作品だと混ざったりしてます。

――『愛についての感じ』とかは使ってないんですね。

めろん:そうですね。「オフェーリアの裏庭」は当時の『群像』の編集長が好きだと言ってくれたんですが、あれは理論をまったく使ってないです。短編の「ワールズエンド×ブックエンド」(『本をめぐる物語 小説よ、永遠に』角川文庫所収)はカタパルト方式でやっていて、完璧にうまくいきました。

めろん:物語全体の始まり、中間、終わりは考えたほうがいいですけど、シーンだけまず思いついたら、それを膨らませていけばいい。

最初に大事件を起こすべし

――ひとつひとつの章の中も三幕構成とか構造を意識する必要はないんですかね? それをやると大変そうで……。

めろん:なってなくて大丈夫です。最初と終わり、ツカミ・ヒキだけ考えれば。注意したほうがいいのは、なるべく早く事件を起こすこと。小説初心者が中盤に持ってこようとしている事件が、たぶん最初になきゃいけないやつです。

――重大な事件が最初に来なくちゃいけない。

めろん:初心者は、書きたいものが分からないまま自己確認のために書き始めることが多い。世界観、キャラクターの性格だったり。それが確認できて初めて事件がようやく起きる。でもそれじゃ遅い。大事件が先頭にこないと。

――お客さんに見せるもんじゃないと言えば、そうなのかもしれないですね。

めろん:骨組みの段階、ラフっていうかそういうものでしょうからね。ラノベなんかはそこがすごくうまくて、最小限でやっている作品が多い。

物語がなりたがってる形があるなら、逆らわないほうがいい

めろん:でも創作理論はないほうがいいんです。固まっちゃうから。最初のガイドとしてはいいけど、会得したら使わないでいい。

――染み込んで自由に書けるほうがいい。

めろん:身体化しないと無意識の部分が出てこないんですよ。全部計算されてるものってつまんないんですよね。

――やはり推進力が大事なんですね。めろんさんは骨組みをきちんとつくる理性・論理的な面があって、一方で感覚・激しい感情もあるんじゃないかと思います。それはどう制御してるんですか?

めろん:制御してないですね。

――静かに怒るスーパーサイヤ人的な……。

めろん:常に逆のことが気になるんですよ。何でも対偶で考えちゃう。右翼の本読んだら左翼の本読みたくなる。自然にバランスとりたくなる。理屈を勉強したら、次は無意識だ、と。だから理論に行ったら自然と感覚に戻ろうします。

――カタパルト式で書いたときに、「あ、これ脱線してるな」「考えてたのと違ってるな」とは思うことはないんですか? 書き始める前の目論見みたいなものがあったとして。

めろん:ものによりますけど、動き始めてから方向が定まってくることってあるじゃないですか。それを遮らないほうがいいです。物語がなりたいと思っている形があるなら、それを生かしてあげたほうがいい。こう打ったらこういくしかない流れってある。

ただそれも2種類あって、よくあるパターンになる場合とそうじゃない場合。パターンの場合は崩したほうがいい。読者が想像できるようになっちゃうと面白くないんで。

曲げちゃいけないのはキャラクターの気持ち

めろん:最初のガチガチの三幕構成理論で書いたときに忘れたのは、キャラクターの気持ち、感情。一番曲げちゃいけないのは気持ちなんですよ。

「こういうふうに進めたい」ってストーリーがあっても、例えば今僕らが牛丼食べてたとして、急に裸で踊ったりはしない。感情ってそんなに曲げられないんですよ。みんなが自然に思って納得する感情のパターンってそう多くはないから。そこを軸にしないとめちゃくちゃずれちゃう。読んだ人が同じ感情になってないと心が働かないんですよ。そこまでコントロールできてるか、ですね。

単純な話、みんなを悲しい気持ちにさせようと思ったら、「感情移入させてから殺す」これでしょうね。

――泣きゲーの定番ですね……。

めろん:あるいは最初から死ぬ運命の設定にしておくとか。工夫は必要です。どういう話か分からないことに読者はイライラする。「どうなるの」って知りたいフックがあるから読む。「それどうなるの?」の部分を書くのが小説家なんですよ。最初に「それどうなるの?」って思われないのはだめなんですよ。

だから、理屈でやることからはもう抜けて、感情で何とかしちゃってください。
さっき上げた短編『ワールズエンド×ブックエンド』は、感情が理屈を超えてます。最後の終わり方は意味分かんないんですよ。でもエモい感じはある。「意味分かんないけどエモいっ!」てなる。

「今までだったら理屈で書きそうだけど、この作品は感情を優先すべきだ」って判断して書けた作品ですね。

小説はワンチャンある

――そもそもめろんさんの小説を書く原動力って何なんですか?

めろん:「常に書かなきゃいけない」強迫観念みたいなのはありますけど、もともと読むのが好きだったから、書くようになるのが自然でした。書きたいから書く。
なぜかみんな小説書きたがるでしょう?

――そうですね(笑)。僕もなぜか昔から書きたかったです。

めろん:そういうものだと思います。「書きたい」幻想はみんなが持ってる。

――みんな書くのが目標になってたりしますよね。今は社畜だけどいつか小説家に……とか。それってなぜなんでしょう? 自己実現?

めろん:小説には夢があるんですよ。ワンチャンある(笑)。

――ワンチャン! ほんとそれですね。夢。

めろん:よく「小説家になりたい」はダメで、小説が書きたい人が小説家になってくださいって言う人がいます。でもそこは本当に分けられるのかなって思ってて。作家じゃないけど小説書いてる人もいるし。作家になりたくて書いた小説が良かったりもするし。作品と作家は関係ないとも言えますから。

出版社からすると「ワンチャンねーよ」「漫画のほうがワンチャンあるよ」かもしれない。ビジネスとしてのワンチャンじゃなくて、「夢」ですよね。人間のクズでも小説書いたらなんとかなるような。めったにないでしょう、他にこんなものは。

――村上龍さんの「小説家は最後の職業である」って言葉がありますね。

めろん:僕もそう思いますけど、ダメな人だけじゃなくて、リア充ほど書いて欲しいってところもあります(笑)。
ラグジュアリーかつバブリーな小説が求められているかもしれない。だから、いろんな職業の人が小説を書くべきなんですよ。

――めろんさんはいつ頃から小説家になりたかったんですか?

めろん:高校のときには既になりたかったですね。全寮制の高校で自由があまりなかったんですけど、ライトノベルを読んでいたときに「これならワンチャンある」って思って。

――ずっとその思いは持ち続けてたんですか?

めろん:なろうと思っただけで、ちゃんと書いてはなかったんです。本気で小説家になろうと思ったのは27才ぐらい。そのときは小説の冒頭ばっかり書いてました。冒頭だけで終わるファイルがいくつもありました。

――完成させるのがまず一歩と聞くことも多いですが、そこから前に踏み出せたのは何がきっかけだったんですか?

めろん:人って、状況が迫ってこないとやらないんですよ。締切もそう。自分の意志では無理です。

――とすると、書かざるをえない状況になった?

めろん:20代の頃に大塚ギチさんというライターに出会ったんですよ。そのとき、小説が書きたいというぼくに、「俺、おまえみたいなやつが一番嫌いなんだよ。いままで何十人も作家になりたいってやつと会ったけど、誰も小説書きやしねえ。どうせおまえも同じように、完成しない原稿抱えて『本当は作家になりたいんですよー』とか言い続ける、みっともない大人になるんだよ。さっさとやめちまえ」ってキレながら言われたんですよ。

ぼくはその言葉を否定するため、半年かけて初めて500枚くらいの長編小説を書き上げました。もちろん初めて書いた作品がまともなわけがなく、返ってきたのは、「おう……書いたな」だったんですけど。

その2年後くらいにゲームをノベライズするってなって、それも追い込まれてました。期限が決まったから書けたんです。何個かゲームの企画出さなきゃいけなくて数個出したうちの1つを作ることになって。そのときは経験なかったし18禁だけどゲームをつくってみたかった。恋愛アドベンチャーじゃなくてトランプの「大富豪」のシステムで。

――それが『左巻キ式ラストリゾート』ですね。

めろん:契約書にノベライズの項目があって、権利を自分にしておいたんです。だから書けたんですよ。そういうチャンスを掴むべきだと思います。チャンスはどこにでもある。

――たしかに。僕も「断られるかな……でもお願いしてみよう」って取材申し込んでみると意外といけて、そこから他の企画も転がり出すことがあります。

めろん:やる・やらないの違いです。なんでもやる。準備して待っても来ない。そのときあるものをやるしかない。「なんとか賞を獲って」とか考えなくても、デビューしたあとでも文学賞には応募できますから。今やれることをやりましょう。

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「どうなるの?」「こうなるよ」選択と結果の反復。それで物語は推進力を得て、読み手の感情は昂ぶっていく。めろんさんの話を聞いて、「ピーク・エンドの法則」を思い出した。行動経済学者のダニエル・カーネマンによる、“人間はある体験のピーク(絶頂)とエンド(最後)が良かったかどうかでその体験を評価する”というもの。例えば映画で言うなら、クライマックスのシーンと、エンドロール前のシーンが良ければ「良い映画だな」と感じやすい?ということ。

物語や体験全体の細かい章やシーンの中に、感情が最大になる部分が途中にあり、最後にまた良い波が来る。そして次につながるように設計される。小説では章だが、映画ならシーン、音楽なら8小節ぐらいのまとまりだろうか。そう、めろんさんのお話はどこか音楽体験を想起させる。文芸なんだけど、楽譜のような構成がある。Aメロでいい感じで始まって、Bメロで少ししっとりするけど、サビでガッと最高潮になって、アウトロで感動的に終わるような。そういうアプローチを前提に、書き手自身の推進力も下げずに書く方法をめろんさんは選んでいるように感じた。

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今後もクリエイターの方々に「感情のロジカルデザイン」について聞いていきます。お楽しみに。作り手の生の声、熱量もお届けしたく音声版(podcast)も継続予定です(スポンサーお待ちしてます)。今後の活動のためにサポートいただければ嬉しいです!
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Dai Hirata

Web編集者。カルチャーマガジン編集長として、多くのクリエイターにインタビュー。noteではWeb編集のノウハウ、その他書きたいことを書きます。↓お仕事のご相談はこちらからhttps://tog-gle.com/

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