小説書きの脳内思考――第1回「プラネタリウム」

自慢の彼氏と、プラネタリウムで満天の星空を観た。建物から出て空を見上げると、明るい看板の隙間から辛うじていくつかの星が見える。擬物は、見やすくて、きれいで、でも、決して真実ではなくて。本物は、見づらくて、とっても遠くて、でも、確かにそこに在って。ああ、私は、どちらを選べばいいの?

記念すべき第1回目は、こんな作品になりました。

まずは、テーマというか、主題というか、お題を決めます。
これはなんでもいいんですけれど、私の場合は何か決めてしまった方が書きやすいです。

今日は、ちょうど行ってきたので、「プラネタリウム」をお題にすることにしました。もちろんこれはランダムに何かお題箱みたいなので決めても構わないと思います。

とりあえず、思いついた情景を適当に書いてみます。

星が光る。「見えてきましたこちらの星座は~」スクリーンの上で、人工の星が光る。
どこにあるのかも知らないし、本当に見られるかも知らないけれど。
「こんどは、本物を見に行きませんか?」隣のこの人と、一緒に。
(102文字)

短いですね。言い忘れていましたが、私の場合、「140字小説」は140文字ぴったりに調節します。ので、まだまだ足りません。ここから色々書き足していきましょう。

さて、内容ですが。
意味不明ですね。前半はかろうじてプラネタリウムなことはわかるんですけれど、後半が意味不明です。何言いたいかこんなんじゃ伝わらないので全面リライトしましょう。
でも、「星が光る」の繰り返しは結構いいな、と思いました。活かせるものなら活かしたいところですね。

星が光る。「こちらに見えてきたのは、おとめ座でございます」スクリーンの上で、擬物の星が光る。きれいといえば、きれいだった。
誘われるままに、恋人のようなことをしている。
(83文字)

前半はちょっと良くなりました。「~」でごまかしていた部分も、適当に押し込みます。「おとめ」を選んだのは乙女チックな、ロマンチックな感じを出せたらなあと思っただけです。
後半を書き始めてみたら迷子になりそうだったので、一度この方向性は諦めることにします。


さて。どうしましょうか。

ぱっと書いてみて、頭に浮かんできたのは「プラネタリウムの人工の星——偽物」と、「空に浮かぶ天然の星——本物」という対比でした。
「近くて手が届く」「遠くて手が届かない」的な対比もできそうです。

擬物の星は、見やすくて、きれいで、でも真実ではなくて。
本物は、見づらくて、とっても遠くて、でも確かにそこに在って。

これをベースに、ちょっと肉付けしてみました。

新しい彼氏に、プラネタリウムに誘われた。擬物の星は、見やすくて、きれいで、でも真実ではなくて。建物から出ると、都会の照明の隙間から、1等星が僅かに見えた。本物は、見づらくて、とっても遠くて、でも確かにそこに在って。ああ、どちらを選べば、私は幸せになれるというの?
(131文字)

まだ9文字余裕がありますね。そして、「擬物」の文と「本物」の文が離れてしまって、ちょっとリズムが悪くなってしまった気がします。

でも、だいぶストーリー性が出てきた気がしませんか?
見た目だけはいい、新しい彼氏に誘われるままにデートに来たけれど、ふとした瞬間に、決してイケメンではないけれど、自分のことをいつも見守ってくれていた、今は遠くに引っ越してしまった幼馴染のことを思い出して、二人の間で心が揺れ動く。
そんな女子の独白が、皆さんにも聞こえてきたなら嬉しいです。

その辺を修正して、もう一度。

新しい彼氏に、プラネタリウムに誘われた。投影が終わって建物から出ると、明るい看板の隙間に、1等星が僅かに見えた。擬物は、見やすくて、きれいで、でも決して真実ではなくて。本物は、見づらくて、とっても遠くて、手が届くかはわからないけれど、確かにそこに在って。ああ、どちらを選べば、私は幸せになれるというの?
(151文字)

修飾も多くしたら、こんどはもっとオーバーしてしまいました。
「都会の照明」よりは「明るい看板」の方が、より具体的にイメージが浮かぶ感じで良いと思って、こう修正しました。

自慢の彼氏と、プラネタリウムで満天の星空を観た。建物から出て空を見上げると、明るい看板の隙間から辛うじていくつかの星が見える。

やっぱり、前半はこうしましょうか。「自慢の」で顔が良いことを示唆しておきます。後は、「満天」と「辛うじて」で対比を強めておきます。

ああ、私は、どちらを選べばいいの?

最後の文がちょっと傲慢すぎる気がしたので、マイルドにしておきます。

自慢の彼氏と、プラネタリウムで満天の星空を観た。建物から出て空を見上げると、明るい看板の隙間から辛うじていくつかの星が見える。擬物は、見やすくて、きれいで、でも決して真実ではなくて。本物は、見づらくて、とっても遠くて、手が届くかはわからないけれど、確かにそこに在って。ああ、私は、どちらを選べばいいの?
(151文字)

さて。だいたいこれでいいでしょう。あとは、骨子を変えず、できるだけ多くの表現を残してこれから11文字を削りきれば完成です。

うーん。
「とっても遠くて」と、「手が届くかはわからない」って、要するに同じこと言ってますよねえ……ノリで書いたまま残してましたけれど。
ここ、思い切ってカットしちゃいましょうか。

自慢の彼氏と、プラネタリウムで満天の星空を観た。建物から出て空を見上げると、明るい看板の隙間から辛うじていくつかの星が見える。擬物は、見やすくて、きれいで、でも決して真実ではなくて。本物は、見づらくて、とっても遠くて、でも、確かにそこに在って。ああ、私は、どちらを選べばいいの?
(139文字)

かわりに「でも」を入れても、逆に1文字足りなくなってしまいました。

あとはバランスですねー。「擬物」の方の「でも」の後に読点がないので、入れましょうか。これでぴったり140文字になります。

自慢の彼氏と、プラネタリウムで満天の星空を観た。建物から出て空を見上げると、明るい看板の隙間から辛うじていくつかの星が見える。擬物は、見やすくて、きれいで、でも、決して真実ではなくて。本物は、見づらくて、とっても遠くて、でも、確かにそこに在って。ああ、私は、どちらを選べばいいの?
(140文字)

以上、140字小説、完成です。

お疲れ様でした。また次回もよろしくお願い致します。
……初回はせっかくなので、「お試し」という感じで、無料にしました。読まれないのも悲しいし。
次回以降はたぶん有料にします。こんなんでよければ、是非銭を投げつけてください。

それでは。

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

2

兎谷あおい

140字小説の舞台裏

「140字小説」の完成品をお見せし、着想から完成に至るまで、私の脳内での考えを出来る限り文章として再現しています。 「小説、書いてみたいけど、どんな風にして書けばいいのかわからない……」というような方に、特におすすめです!
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。