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まったく新しい「ものがたり」の萌芽を見た話

見たこともやったこともないけれど、何度だって夢に見たような「ものがたり」体験が、あそこにはあった。

ナゾトキノコの『もの語展』。
昨年の11月にその開催が発表された時から、はちゃめちゃに楽しみにしていた。万難を排してでも行くと誓った。
今年の4月からは社会人になってだいぶ忙しくなったけれども、それでもこじ開けた休日を使って、大阪・心斎橋に向かった。
それだけ、この公演を楽しみにしていた。



僕がナゾトキノコにハマりこんだきっかけは、2020年の6月に開催された「ナゾトキミト+オンライン」でした。

これはね。やばかった。
リアルと虚構のはざま、虚構だとわかってはいるけれどリアルさを感じさせるネーミングや言葉づかい。やり取りの濃度。実在のオブジェクト。このさじ加減がうますぎて、僕は一瞬で好きになってしまった。
今でも覚えているのが、「映画を見に行く」くだりで、実在の映画館の実在のチケットをわざわざ買ってきて写真がアップロードされたところ。「木野くんが……本当にいる……!(いないけど)」となったのは、あの瞬間でした。

そんなナゾトキノコさんの久しぶりのリアル公演ともなれば、それはそれは否が応でも期待が高まるわけで。
僕は最近、期待をしすぎると現実との落差にがっかりすることが多くて、コンテンツを摂取する前に何か期待をする自分を戒めているのですが、そんなの関係なく期待して、そんなの関係なくめちゃくちゃ楽しめました。

この公演を、この団体を埋もれさせるわけにはいかねえ……! という謎の使命感でこの文章を書いているわけですが、そのためには何が/どこがおもしろかったのかを書かないといけないわけです。
ネタバレは禁止されているので、直接的にコンテンツの内容に触れることはしませんが、以下、抽象的な表現で「あの空間に何があったのか」について書き残していきます。
再演に備えて、あくまでもまっさらな状態で『もの語展』を楽しみたいという方は、ここで読むのをやめてください。


……いいですか? それでは。

語り方、読ませ方のうまさ

基本的な構造としては、「何か"もの"が置いてあり、参加者はwebページの問題を解きながら、"もの"に秘められた『もの語』を読み解いていく」というものです。この構造が、抜群にうまい。

僕の知る限り、このような物語の形のコンテンツというのは、まだ世の中にありません。ありませんでした。
まだ、ないのに。まだ、研究が進んでいないのに。
どうして、あんなにこなれた語り方ができるんですか……? 天才?

「もの語」たちは、ただ置いてあるだけでは読み解いてもらえない。開封して、漁って、頭も首も手首もひねって紐解いていくのが、おもしろい。
だから、誘導が――補助線が必要だった。それを、「webページの音声ガイドで『問い』を提示し、正解を答えることでストーリーの全体像を理解してもらう」という形に落とし込んだのが、まず、『もの語展』のすごいところだと思います。あの形式ならヒントも違和感なく出せるし。

なんというか、エンタメの文脈から生まれてきたコンテンツだな、という気がしました。たぶん、現代美術的な文脈から生まれてきたのだとしたら、ああいう補助線はなかった。そこにぽつんと"もの"が置いてあって、それを読み解くのは我々の自主性に任されていたと思う。

僕は、補助線があって、よかったと思います。
"もの語"を読み解く楽しさは、読み解いてみないとわからない。何度か読み解いた成功体験のある人ならほっといても読みに行くと思うけれど、世の中の99.9%の人はそうではない。探偵ではない。
楽しさを知ってもらうためには、解いてもらわないといけない。
だから、あれが正解なのだと思う。

たまに、補助線の外にもちょっとした意図が込められていたりして、またそれが憎いところだけれど。すき。

「レプリカ」という発明

なんで初回開催であれが用意できるのかわからない。いや、わかるけど。

今回の『もの語展』の展示概要を読んだ僕は、朝一番のチケットを買った。

『もの語展』では展示品を見るだけではなく、実際に手で触れて楽しむことができます。例えば、スクールバッグに入っている教科書を開いてみると、パラパラ漫画が書かれていたり、ポーチを開けると校則違反の化粧品が入っていたり、実際に手に取ることで初めてわかるようなことを目一杯詰め込んでいます。

展示を「実際に手に取る」のだったら、空いていた方がいいだろうし、むしろ空いていないと十分に楽しめないのではないかと思ったからだ。

杞憂だった。

展示会場には、展示品の「レプリカ」がたくさん並んでいた。本物の"もの"の脇に、おあつらえ向きにテーブルと椅子まで用意して、「さあ、読んでください!」とばかりに、"もの"の「レプリカ」が用意されていた。

すごいと思った。
物語を届ける相手のことを、本当にたくさんたくさん考えて制作された展示会なんだなあと思った。

「レプリカ」という、世界観を壊さない説明も好きだ。実際横目でちらちら見ていると、"もの語"に影響しない範囲で細かいところが微妙に違っていたりして、妙な納得感を覚えたりもしたものだった。

解き筋と読後感のバリエーション

「こんなこともできます!」の嵐だった。
僕は音声ガイド画面の上から順に解いていったけれど、はじめはチュートリアル的で、でも"もの語"は意外性のあるもので、だんだん情報量が増えたりギミックが増えたりしていったけれど、それぞれ読後感は違って。

ぜんぜん、飽きなかった。

最後の最後、いちおう虚構の世界ということになっている展示の内容と、そこから飛び出してきた現実世界のアレが接続するのも、思い返すと鳥肌が立つ。


やばいよ。
まちがいなく、まだ目にしたことのないかたちのコンテンツで、お手本も限られた状態で、それでも、あのホスピタリティとバリエーションを生み出せる「ナゾトキノコ」という団体の人たちは、本当にすごいと思った。

ケチをつけるところのない、すばらしい物語体験でした。

……いちおう、「俺ならこう作る」は、あるけどね!

10年先の未来で、今回のような"もの語"体験がもうちょっと一般的になっていたなら。その時には「むかしむかし、『もの語展』というコンテンツがあってな……」と話す仙人役をやれたらいいな、と思います。
きたるその時のための、備忘録として。
熱が冷めないうちに、書き残しておきました。

すごかったなあ。たのしかったなあ。

●●●の●●で「●●●●●●●●●● ●●」を●●た●●くんに思いを馳せながら
 兎谷 あおい


P.S.
関東再演、待ってます!!!
他の公演の再演も待ってます!!!

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