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パイロットのカスタム74について

万年筆の愛好家がいろいろなペンを使ってみてから、結局最後はカスタム74に戻ったという話を聞くことがあります。カスタム74が一本あれば、もうそれで十分ではないかという声を耳にすることさえあります。それら見解に諸手を挙げて同意するものではありませんが、そこに一面の真実が含まれていることは認めるべきなのかもしれません。

Pilot Custom 74 Medium nib / Pilot Iroshizuku Fuyu-gaki / MD Notebook A5

カスタム74に色気や魔力といったものを些かでも求めることはできません。何か尖った自己主張があるわけでもありません。しかし、あるいはだからこそ、クセのない書きやすさ、心地よさをこのペンは高水準で担保しているように思われます。私もカスタム74(M)で書くたびに、このペンの心地よさ、ともすれば脅かされなければ気づかない安心のありがたさを享受しています。

一方のカスタム74(F)は中古で手に入れたもので、何ともいえないグリーンのボディがとても気に入っています。

Pilot Custom 74 Fine nib / Pilot Iroshizuku Shin-kai / Tsubame Notebook H30S

ただ、私は走り書きする際には、滑らかに素早く書けることを優先してきたので、同じカスタム74ならば、字幅があるぶんこのFよりも滑らかだと感ぜられるMのほうを手に取ることがどうしても多くなってしまいました。また、やはり字幅のぶんMのほうが線の濃淡を愛でやすいという面もありました。そうしたわけで、Mに比べてこのFは、あまりかわいがってこなかったというのも変ですが、十分に活躍の場を与えてやれていない残念さがあります。

しかし、今こうして書きながら、書きやすいし、実は滑らかだし、柔らかいし、とてもいい書き心地だな、と。事によると、私の食わず嫌いだったかしらんと反省しています。うん、とても感じがいいですね。

実は、最近ある啓示といえば大仰ですが、少し心境の変化というものがありました。

欲しいなと狙っているペンが二三あるのですが、でも高いな、どうしようかななどと惑っているときに、ふとこのカスタム74(F)をはじめとする数本のペンのことを思い出しました。万年筆を使っていると、どうしてもよく使うペンと、さほどでもないペンとが色分けされてきます。

あまり使わなくなってしまったペンには、やはりそれなりの理由はあったのでしょうが、少し時間を置いた今、改めて使ってみるならば、こちらの万年筆ユーザーとしての僅かなりの成長とも相俟って、存外に使いやすかった、そうならないともかぎりません。多分に一面だけを見て切り捨ててしまったきらいがあるのではなかろうかとも疑われますし、こちらもその頃と比べれば、もう少し多角的な視点が持てているのではないでしょうか。

新しいペンに手を出すのは、あまり使わなくなってしまったそれらのペンを、もう少し使い込んでからでも遅くはないだろう。そう思いました。結果的に、第一弾のカスタム74(F)は幸先がよかったわけで、我ながらよい判断でした。

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