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カスタム823のファンとして

パイロット、カスタム823は大好きな万年筆です。書き味、書き心地、外観、質感……いずれもが好もしい点ですが、プランジャー式吸入機構のおもしろさも私がこのペンを気に入るのに大きな一役を買っています。

このプランジャー式吸入機構により、およそ1.5mlのインクがすっと入ります。動画ではステップ2として、裏技的にインクを追加し、2.2mlまで充填する方法を紹介していますが、私はしたことがありません。私の使い方ではもう1.5mlで十分ですし、2.2mlとなると、さすがにペンが重くなりすぎるのではないかと思うからです。

私は2019年8月に中字を購入し、大変気に入って以来、いつか細字も欲しいものだとリストアップしていました。そうして、とうとう今月、その細字を買い求めました。実際の購入が3年半後になった消息について開陳することに意味があるかは疑問ですが、このノートは私の備忘録を兼ねているので、やはり書き留めておきます。

足踏みしていた理由1

私がこのペンの中字を気に入った最大の理由は、ペン先がリニアモーターカーのように浮いて走っているかのような感覚を、ときに覚える点です。もちろんペン先が浮いていては線は引けませんから、そんなことはありえないのですが、ただ滑らかといったのでは足りない書き心地に感心することがあります。

では、細字に同じだけの滑らかさがあるかと問えば、やはり字幅のぶん、借りられるインクフローの助けも限られますから、同等というわけにはいかないのではないか、と推測しました。

中字の、リニアモーターカーのように浮いて走っているかのような感覚が仮に期待できないのであれば、細字を私が買い求める必要はあるだろうか、がっかりすることになりはしないかと自問し、足踏みしたわけです。

Pilot Custom 823 Fine nib / Pilot Blue / MD Notebook A5

足踏みしていた理由2

万年筆について些かなりとも探究心を持つものとしては、同じペンの別の字幅よりは、別のペンにいっそうの興味を引かれるところがありました。

最近では、パイロットのペン種、フォルカン(FA)に特に関心がありました。何でも、ちょっとした力の加減で線の細さ、太さが変化し、表情豊かに文字が書けるらしいのです。したがって、いわゆる「トメ、ハネ、ハライ」もきちんと表現できるとのことです。

もう一つ気になっていたのが、やはりパイロットのウェーバリー(WA)というペン種です。やや反り返った形状をしていて、そのため、紙に接触する角度が多少鋭くなったり、緩くなったりしても大らかに受けとめ、一定の書き味を担保してくれるそうです。

それらのペン種がセットされているのは、カスタム743、カスタム742、そしてカスタムヘリテイジ912であるとのこと。私はそれらのペンを使ったことがありません。

そこで、それら3本のペンのいずれかにフォルカン(FA)かウェーバリー(WA)をセットしたものが欲しいなと思い、優先的な検討事項としていました。カスタム823には意識が届いていなかったということです。

理由1の解消

上述のとおりカスタム823の書き心地については、単に滑らかというのでは足りない、浮いて走っているような感覚を、ときに私は覚えます。

もちろんインクフローの豊かさでペン先を滑らせている面もあるのでしょうが、どうもそれだけではないという気がしてきました。

カスタム823はプランジャー式吸入機構を備えることもあり、けっこうな重量があります。その重みを、人差指と親指の付け根の間に載せることで、逆にペン先は、浮いたように軽やかに走るのではないか。そう考えました。

カスタム823が、浮いて走っているような感覚をもたらすためのキモは恐らくその重量バランスなのであって、それに比べればインクフローのそこへの貢献は取るに足らないのではないか、と。

ならば、細字は中字よりもインクフローが絞られるので、浮いて走るような書き心地は期待できないのではないかという私の懸念は、著しく妥当性を欠きます。

Pilot Custom 823 Medium nib / Pilot Iroshizuku Ajisai / MD Notebook A5

理由2の解消

フォルカン(FA)については筆記動画などを見ると、なるほど、ちょっとした力加減によって字幅は目まぐるしく変化し、文字は豊かな表情を見せてくれます。「トメ、ハネ、ハライ」もしっかりと表現されます。〈美しい〉と私は感嘆の声を漏らしました。

しかし、ふと我に返り、では私がこのペンを持ったらどうなるのだろうと考えました。

私は万年筆ではたいてい走り書きをしています。いくらかスピードを落として「トメ、ハネ、ハライ」を意識したことなどこれまでに数回しかありません。それに、活字に慣れているからか、線の太さが一定でも困らないばかりか、むしろ落ち着くところもあります。

筆記動画を眺めるのは楽しいが、私がこのペンを持っても仕方ないか、と気づきました。

ウェーバリー(WA)に関しては、どのような筆記角度にも対応しやすい大らかさと引き換えに、書いた線の濃淡の機微は減じられてしまっているとわかりました。

私は濃淡を愛でるために万年筆を使っているところがあります。そうして、このペンも私の選択肢からは消えました。

Pilot Custom 823 Fine nib / Pilot Blue / Tsubame Notebook H30S

カスタム823のファンとして

細字のカスタム823からすれば、急に視界が開けたかたちになりました。ここでぐずぐずしていると、また欲しいペンがわらわらと湧いてきて、カスタム823をリストの下位に沈めてしまうにちがいありません。今、この時しかないと私は決断しました。

さて、上述の「カスタム823が、浮いて走っているような感覚をもたらすためのキモは恐らくその重量バランスなのであって、それに比べればインクフローのそこへの貢献は取るに足らないのではないか」という仮定はあたっていたと私は感じています。

もちろん細字には、中字よりも細いがゆえの鋭さのニュアンスのようなものは感じますが、もう少し大きな意味での書き心地という点では、中字と細字に変わりはないと思われます。

改めて感じたのは、私はこのカスタム823については、単なるファンだということです。

中字と細字のどちらが好きということもありませんし、トランスペアレントブラックとアンバーのどちらが好きということもありません。どっちも好きです。その大好きな2本が使えることを喜んでいます。

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