競馬連載

【第60回宝塚記念】回顧「ハーツクライの面白さ」

「先週の重賞を回顧してみた」
編集部Kによる重賞回顧。レースをあらゆる角度から読み、
独自の視点で語ってみる。
次走狙いたい馬、危険な馬を指摘しつつ、
なんとなく役に立ちそうなコーナー。
 基本、競馬が終わった、ちょっと寂しい月曜日に掲載。


「ハーツクライの面白さ」
【第60回宝塚記念】回顧
2019年6月23日(日)3歳上OP、GI、阪神芝2200m


 リスグラシューに乗ったダミアン・レーン騎手はスタート直後からインの馬たちの出方をチラチラと見ていた。あのリスグラシューでそんな余裕をかました騎手はこれまでいない。
 と、レーン騎手だからこそという賞賛をする気はない。

 賞賛すべきはリスグラシューだ。1角をキセキの直後2番手で回るなど予想できた人がいただろうか。番手でキセキを徹底的にマークし、早めスパートに余裕でくっつき、あっさり抜け出して宝塚記念を圧勝した。こんな競馬いつ覚えた? 思わず馬に聞いてみたくなるほどのスマートな競馬だった。

 ああ、ハーツクライか。
 リスグラシューはこんな競馬をしたことがない。では、どうしてできたのか。行き着く先は父ハーツクライ。

 自身の現役時代はキングカメハメハが勝ったダービーで4角17番手から猛然と追い込んで2着。4歳宝塚記念ではスィープトウショウには屈したものの、追い込んで2着と、最後はいい脚を使い、惜しいところまで来るが……。強いんだけど、結果が出なかったハーツクライが豹変したのは4歳終わりの有馬記念。前走ジャパンカップでいつものように差して惜敗だったハーツクライは英雄ディープインパクトを相手にまさかの先行策から完封してみせた。

 突然の先行策や突発的な素質開花はハーツクライの十八番。
 産駒にもしっかり受け継がれており、シュヴァルグランは3歳時に500万下(現1勝クラス)でモタモタしていたと思ったら、連勝で一気にオープン入り。ワンアンドオンリーもハーツクライのように追い込んで届かずという競馬を続けていたと思えば、日本ダービーでは突発的な先行策で栄冠をもぎとった。

 リスグラシューの競走成績もハーツクライの典型。
 3歳時はマイル戦で後ろから競馬をして2、3着を繰り返し、クラシック3冠は②⑤②着。好走パターンは最後にいい脚は使ったが……という競馬ばかり。じれったい競馬はハーツクライそのもの。エリザベス女王杯を勝ち、いよいよ本格化と思わせるも香港ヴァーズ、金鯱賞、QE2世Cは②②③着とじれったい結果。ただ、この3走いずれも牡馬相手の格の高いレースで、そこで積んだ経験値がレベルを1段階アップさせていた。

 そんなこんなで宝塚記念を突発的な先行策で快勝した。色濃く受け継いだハーツクライの血、矢作芳人調教師の厳しくも愛が満ちたローテ、それらが結実した宝塚記念。
レーン騎手もすごいが、レーン騎手だけがすごいわけじゃない。リスグラシューがとにかくすごかった。

 出遅れたキセキをわざわざ待ち、スローに持ち込んだ他馬の出方には疑問符がつくが、流れに対応したリスグラシューとレーン騎手を褒めるしかない。
レーン騎手がすごいわけじゃないとは書いたが、最後の直線で併せると力を出すキセキに対して、ちょっと無理してリスグラシューを外に持ち出し、併せないように走らせた戦略は見事といえる。キセキのことをよく研究したことがうかがえる。

 研究熱心なところは日本の競馬にここまで適合できたレーン騎手の成功の秘訣。あんまり超一流になると、かえって「しがらみ」が多くなり、短期免許で来日しにくくなってしまうのは切ないが、世界の大舞台での再会を心待ちにしたい。

あ、南関東で短期免許取得したんだっけ。抜け目ないねー。

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