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夜の言葉と夜の読書の記憶

思い返せば、10代の頃は家族が寝静まった夜にいつもひとりで本を読んでいた。物語が終わりその余韻を感じながら眠りにつくのが好きで、本を読み終えるのは夜ひとりの時間になるよう、気を使いながら読んでいた。

人間は昼の光のなかで生きていると思いがちなものですが、世界の半分は常に闇のなかにあり、そしてファンタジーは詩と同様、夜の言葉を語るものなのです。(解説より)

著者のル=グウィンは『ゲド戦記』や『闇の左手』で知られるSFファンタジー作家。自らがどのように小説と出会い、小説を生みだしているのか。ファンタジー、SFというジャンルや小説全般に対しての辛辣で真摯な言説の数々は、小説が持つ力とは何かどこまでも追及してきたル=グウィンだからこその迫力がある。

すぐれたファンタジーや神話や昔話は実際夢に似ています。(中略)つまり字義を追い、論理的に組みたてて意味をとらえる過程をすっとばし、あまりに深く潜んでいるので言葉にされることのないような考えに一足とびに到達するのです。P98

ル=グゥインは心の内面世界と小説世界がどれほど密接な関係にあるのかを本書の中で視点を変えつつ何度も説明する。小説を夢のようなものとして捉えたときに見えてくる小説の姿。それは私が感じていた小説の魅力に近いように思えた。小説の魅力をル=グウィンはこう表現する。

小説の美しさというものは、いつの場合も、心をかきみだすものだとわたしは考えます。それは詩や音楽のように、理解を越えた心の安らぎを与えてくれることはできませんし、また、純粋な悲劇を提示してくれることもありません。それはあまりに混沌とした形式だからです。小説の神髄は、この混沌にあります。にもかかわらずそれはーー個人を描くことをもっぱらとする小説は、人間の個性と人間の徳性とを頑強に主張することで、今なお希望が存在することを肯定しているように思えます。P268-P269

記憶を辿ると10代の頃に読んでいた本は心をかきみだすものばかり。読み終えて明かりを消し、物語を終えて私の心に残った登場人物のことを考えながら布団に入っていた。暗闇の中だからこそ見えてくる微かな希望の光に目を凝らしつつ。


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