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神様のいる街はここですか?

【とほん読書ノート005】

「文」と「本」と「旅」こそが自分を支えていた。「旅」を街に差し替えて「文と本と街」でもいい。自分が旅に出る理由は、いつも歩いているなじみの街とは別の街を歩きたかったからだ。 P37

吉田篤弘の小説が好きで読んできた。大正ロマン昭和モダンな雰囲気を持ち、ハイカラで西洋的な道具仕立て。少し気取った物腰をごく自然とまといつつ、どこか人懐っこい人たち。吉田篤弘が神戸を好きだと知り、その世界観が腑に落ちた。

『神様のいる街』は吉田篤弘が高校を卒業してから結婚するまでの自伝的エッセイ。学校をさぼり神保町に入り浸り、時間をつくってお気に入りの神戸の街を訪れる吉田篤弘。自分の生きる世界の手触りを確かめ、神保町で、神戸で、運命の歯車が少しづつ動いていく。

少し小ぶりで手になじむ造本。余白の多い文字組。夏葉社らしい佇まいに、クラフトエヴィング商會らしい洒落た雰囲気を持つ装幀。本文の中で古本屋の店主が会計をする際に本をみて「これは、いい本だよなぁ」と思わず声をもらす場面があるが、この本もそう言いたくなる。

これは、いい本だよなぁ。

私は尼崎出身で、大和郡山で本屋を営んでいる。いつの頃からか奈良の居心地の良さに惹かれていた。吉田篤弘にとっての神戸のような存在が、私の奈良なのだろうか。阪神間に生まれ育った私とって山が見える方向は北であり、海がある方が南だ。東西南北を山に囲まれ、海のない街でどっちが北か南か混乱ばかりしている日々。でも、とても居心地が良い。この街にも、きっと神様はいる。


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