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あなたの心に飾る詩

【とほん読書ノート011】

簡単に絵画鑑賞を楽しむ方法を聞いたことがある。ピカソだシャガールだマネだモネだと絵画に詳しくない私などは、その魅力をどう感じていいのかわからず美術館でも戸惑ってしまう。そういう時はシンプルに「自分の部屋に飾るならどんな絵がいいか」という基準だけで絵を見ればいいと。そうすれば「これはちょっと暗いな」とか「もっとシンプル(派手な)ほうがいい」、「この人物の表情は毎日見ても飽きなさそうだ」などとても好き勝手に論評でき楽しむことができる。

以前、東洋陶磁美術館にルーシー・リー展を見に行ったとき、おばさまたちが「これはシチューを入れたらよさそう」「花を飾ったらええんちゃか」などと言いながら見ていた。まさかのシチュー皿!と衝撃を受けつつも、美術品としての評価などは専門家に任せて、一般の私たちは自分の目線で見るのもありなのだと、楽しそうなおばさまたちを見て思った。

『そんなとき隣に詩がいます』(谷川俊太郎・鴻上尚史/大和書房)はまさにそんな風に自分の目線で読むことができる詩集だ。

この本は谷川俊太郎の全詩集の中から「さみしくてたまらなくなったら」「毎日しかめっつらだけになったら」「家族に疲れたら」そんな心に響く詩を、鴻上尚史さんが選び、エッセイを添えた詩文集。

今の自分の心を照らす詩を見つけるために本を開く。詩を作者の意図を読み取るためではなく、詩そのものを味わうためではなく、今の自分のためだけに読むという自分都合のアプローチ。だけど、だからこそ自分のためだけの詩として詩に出会うことができる。

あなたには、口ずさむ詩はありますか? 苦しい時、泣きたい時、嬉しい時、死にたいと思った時、切なくてたまらない時、好きという気持ちがこみ上げた時、さびしくてたまらない時、心がいろんな方向に動いた時、ふと、口をついて出る詩はありますか? (本文1Pより引用)​

その詩にしっくりこなければ、今の自分にその詩が必要でないというだけ。ページを捲り、次の詩に、また次の詩に。これが普通の詩集なら全てみても今の自分によりそう詩が見つからないかも知れない。だけどこの本は劇作家鴻上さんが稀代の詩人谷川さんの詩集を全てを読み選びぬいた詩たち。きっと、あなたの隣に寄り添ってくれるぴったりの詩があります。

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