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「困った人」との付き合い方 自己愛・サイコパス・アスペルガーはどんな人か

周りにこういう人は、いないだろうか?

〇 職場で常に誰かを「敵」にして悪口を言っている。相手をあまりに完全悪のようにののしるので「それはちょっと言いすぎじゃ……」と口を挟もうものなら、自分も標的にされる。

〇 普段はめちゃくちゃ話が面白くて、気のいいやつ。だけれども、仕事や勉強ができない人間にやたら冷たい。思いついたように、人をいじめることもある。理由を聞くと「え、しょうがないじゃん」と事も無げに言うのでびっくりする。

〇 そういうのって、常識じゃん……と思うようなルールを破ってくる。職場で旅行先のお土産を置いたら、自分の分だけごそっと持って行ってしまったり、飲み会でお子さんがいる社員に気を遣わず2次会へ誘ったり。悪い人じゃないんだろうけれど、空気が読めてなさ過ぎてびっくりする。

この例は上から順に、自己愛、サイコパス、アスペルガーによくある例を書いたものだ。この三者は身近によくいる「困った人」だから、ネットでは三者がよく混同され、批判される。

しかし本来、自己愛・サイコパス・アスペルガーの考えている頭の中身は大きく異なる。また、周りや本人が取るべき対策も違う。そこで、当事者や周囲の人、またメディア等でこれらの障害を扱う方のために三者の違いを書いておく。

基礎知識

①サイコパス、自己愛、アスペルガーには対応する病名がある

自己愛は「自己愛性パーソナリティ障害」サイコパスは「反社会性パーソナリティ障害」アスペルガーは 「自閉症スペクトラム障害」という診断名がつく。サイコパスなどは通称や旧称だが、いまはこれらの人をバカにする意味でよく使われるため、この項目より後は診断名を使って説明する。

②解説記事を読んでも「診断」はできない

この記事の情報収集には10年以上かけた。また、複数の精神科医の先生方にお話を伺った。しかし、だからといって記事を読みさえすればあなたの目の前にいる"困った人"が「自己愛性パーソナリティ障害か、反社会性パーソナリティ障害か、自閉症スペクトラム障害か」を絶対に区別できるとは約束できない。

そもそも、医師以外は診断名を推測できても、判断するべきではない。あくまでこの記事は「この事例に似ているから、対処法を参考にしよう」くらいの資料としてほしい。

③障害には「よい面」もある

自己愛・サイコパス・アスペルガーは、どれもネットでマイナス面が語られやすい障害だ。しかし社会適応がうまくいくと、診断名がつかないどころか世間で活躍する要素になることもある。

たとえば、自己愛は誰よりも働くバイタリティがあり、会社の売上に貢献しやすい。サイコパスはリストラなど冷徹な判断も下せるため、人情に引きずられて経営破綻を招くよりも、多くの雇用を生める。アスペルガーは"きちんとさん"なので、法務や個人情報管理などの業務で適性を発揮しやすい。

そうして強みを発揮し、本人も幸せな限りは「障害」と診断されない。あくまで障害になるのは、本人や周りの人に支障が出たときだけである。

④障害は合併したり、診断名が変わることもある

たとえば「純粋な自己愛性パーソナリティ障害だけの人」はそういない。二次障害といって、性格上の偏りが理由で環境に適応できないことから鬱や摂食障害などの苦しみを抱えているケースも多い。むしろ、受診のきっかけは二次障害によるものが多い。

また、病状で症状も変わる。たとえば自己愛性パーソナリティ障害の人は、病状が悪化すると統合失調症や境界性パーソナリティ障害など、他の病気の症状を見せることがある。

具体的には恋人に見捨てられるのではないかと不安になって自傷行為をしたり、誰かが自分を陥れようとしていると思い込んで攻撃したりする。逆に治療の過程では、解離性障害のような「自分が自分でない感じ」を味わうこともある。

病状は0か1かではないし、日によってアップダウンがある。また、治療や悪化の過程で別の症状を出すことがある。今の姿だけを見て「絶対に自己愛だ」などと断定するのは素人には難しい。

★監修

本記事は精神科医のチー太郎先生にご監修いただきました。優しく丁寧なご指導をいただき、誠にありがとうございました。

★筆者のバイアスについて

これを書いている私は、かつて自己愛性パーソナリティ障害だった。「だった」というのは精神療法で寛解(かんかい)したからだ。寛解は雑に言うと「社会生活を送れるくらいにはなっていますが、完治とは違いますよ」という概念なので、病的ではなくてもいまだに"そういう性格"だと思うし、バイアスもある点をご容赦いただきたい。

自己愛性パーソナリティ障害は世間の評価=自己評価になってしまう性格

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自己愛性パーソナリティ障害を一言でいうと、「世間の評価がそのまま自己評価に直結してしまう性格の人」だと思ってもらえればいい。

自己愛性パーソナリティ障害の診断基準はDSM-5を見ると「過剰な賛美を求める」「自分が“特別”であり、独特であり、他の特別なまたは地位の高い人達(または団体)だけが理解しうる、または関係すべきだ、と信じている」と書かれている。これだけだと、ひたすらチヤホヤされたいクソ野郎を想像するだろうが、現実はちょっと違う。

自己愛性パーソナリティ障害の人は、ちやほやされていない自分に生きる資格がないと思っているのだ。「こんなにすごい私が愛されないなんてありえない ♪」ではなく、世間が求める「最高の自分」でいられなければ自己肯定できず、死を選ぶ人である。

だから、誉め言葉や地位、権力への渇望感が普通の人とくらべて強くなる。ずっと自分の自慢話をしたり、誉めてもらいたがるのは他人の賞賛が酸素と同じくらい必要だからだ。

なんでこんなことになるかと言うと、自他の境界があいまいだからである。

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普通の人間は、他人から批判されても自分の存在意義までおびやかされることはない。たとえ1人の人間から批判されても「まあ、私は私のこと好きだし」となんとなく自己肯定できているからだ。

世間の評価と、自己評価の間に一定の距離を置けているのである。

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ところが、自己愛性パーソナリティ障害の人は自他の境界があいまいだ。

人は生まれたとき、自分と母親の区別がつかない。お腹がすけばミルクをもらい、眠くなれば寝かしつけてくれる母親は"自分の一部"なのだ。

だが、少し成長すると母親もしつけを始める。そこで子供は「ママが自分の思い通りにならないのはなぜ? そうか、ママは自分と違う人間だったんだ!」と自他の区別をつけられるようになる。自他の区別がつくと、世界が自分の思い通りにならないことを当然だと理解できる。

だが、幼少期にこのママー自分間の分離につまずくと、「なんで私の思ったとおりに世界が動かないのか」を頭では分かっても、心が理解できないまま大人になってしまう。そうすると、誰かのちょっとした批判も、自分の世界が揺れるくらいの大きな衝撃を受けてしまう。「それ、やめたほうがいいよ」という注意すら、存在意義を否定されるのと一緒になってしまうのだ。

*自己愛性パーソナリティ障害の原因は母子関係だけではない。発症には本人の傷つきやすさ、虐待、遺伝的要素などが複雑にからみ合う。また、全条件を併せ持っても発症しない人もいる。

自己愛性パーソナリティー障害の当事者が抱える苦しみ


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自己愛性パーソナリティ障害の人は、自分を批判する誰かを許せない。上司なら、自分に物申す人を恨むタイプになる。SNSなら常日頃からアンチを叩く人になる。

他人の評価がない自分には生きる価値がないと感じているのだから、自分を批判する人は「自分を殺そうとする人」と同じくらいの脅威に映る。だから自分は常に被害者だと思っており、自分の意見が間違っていても反省することができない。反省は「私は間違いをおかしても、生きてていいんだ」と思えて初めて可能になるからだ。

自己愛性パーソナリティ障害の人は、DVをふるう傾向もある。それはパートナーの心が少しでも自分から離れそうなそぶりを見せられると「生きるのを否定されるレベル」で傷つくからだ。

自己愛性パーソナリティ障害の人が、自分は"死ななくてもいい存在だ"と信じるためには、パートナーを支配下に置いてでも「あなたが必要だ」と言わせるか、パートナーを全否定するしかない。

だからDVの加害者はよく「お前が俺を傷つけたせいで俺が殴るはめになったんだ」「なんでこんなに私を傷つけて平気でいられるの!?」と怒りを露わにする。周囲から見ると支離滅裂でも、本人は自分を被害者だと思っているのだ。

より消極的なタイプだと、引きこもったり、人前に出る機会をなるべく避けて「関わりさえしなければ恥をかかないし傷つかない。そうすれば世間からの評価も受けずに済むから、私は死ななくてもいい」と考える。

人を傷つけるばかりが自己愛性パーソナリティ障害の現れ方ではない。私は自分が失敗するたびに自殺未遂を繰り返した。成功していない自分に、生きる価値がないと感じていたからだ。本人から見れば世界は自分を傷つける敵ばかり。生きることは苦痛でしかない。

自己愛性パーソナリティ障害と周囲の対処法

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周囲がどうすべきかは、あなたが自己愛性パーソナリティ障害の人を愛しているか、そうでないかで大きく異なる。あなたが相手を愛していて、共に生きてきたいなら「このままだとあなたは死んでしまう。そんなあなたの姿を私は見たくない」と泣いてでも精神科へ連れて行った方がいい。

なぜなら、自己愛性パーソナリティ障害は中年期になると衰える容姿や見えてくるキャリアの天井に耐えられず、危機を迎えるといわれているからだ。10代になる前から自殺未遂を繰り返してきた私など、治療がなければ30歳になる前に死んでいただろう。

パーソナリティ障害に対応してくれる精神科は残念ながら限られているため、事前にパーソナリティ障害を治療可能か、精神科へ相談してほしい。(この記事の末尾にある参考文献一覧に、私がお世話になった先生や病院も書いた)

もしあなたが自己愛性パーソナリティ障害の人を憎んでいたり、あまり関心を抱いていないなら、相手を刺激しないのが一番だ。噂話でも触れず、言及せず、我関せずを貫くこと。気に入られれば無限の賞賛を求められ続けるし、けなせば攻撃対象になる。仕事の仲間程度の距離なら、超めんどくさい相手だ。

もしあなたの親が自己愛性パーソナリティ障害で、しかも憎んでいる場合は……全力で逃げて、自分が心身ともに楽になってからどうしたいいかを決めればいいと思う。

自己愛性パーソナリティ障害の人は底なしの飢餓感を抱えているので「あの人に愛されたかった」という願いはあきらめるしかない。相手は幼少期に「ママに愛されたかった。受け入れられたかった」まま人格がフリーズした人だ。愛情不足でおぼれているのに、あなたを愛する余力はない。


反社会性パーソナリティ障害は「良心を持てない」人

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反社会性パーソナリティ障害を一言でいうならば「良心」という機能を持たずに生まれてきた人だ。「機能」というと脳の一部がごっそり欠けているようなイメージが湧いてしまうので、生まれながらにすべて決まるように思えるかもしれない。しかし、反社会性パーソナリティ障害も自己愛性パーソナリティ障害と同じく、遺伝だけで全部決まるわけではない。

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