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ベーシストじゃない私が寺沢功一さんご本人に訊いてみた

寺沢功一さんのベースがカッコいい

いきなりド直球のタイトルですが、私が寺沢さんのベースを初めて聴いたのは、「ギリギリchop」B'z/本人が弾いてみた!寺沢功一という動画。
2020年3月のこと。
その感想はこちらの記事に書きました。

ちょっと抜粋しますね。

まず、右手の爆走感。
疾走感じゃなくて爆走って感じ。
で、「自動横スクロールアクションゲーム」って伝わります…か?
こう…勝手に画面が進んでいくから止まったらゲームオーバーみたいな。
追い立てられるような急き立てられるようなシステムの中で、走らざるを得ない(中略)それを感じさせる寺沢さんの右手すごいなっていう。
間奏でベースが抜けてからギターソロに入る前。
2分15秒ぐらいからのタッピング…もイイんですが、そこから低音に戻るところがカッコいいんですよ~
低音のための高音といいますか、低音を効かせるための高音?
時間にすれば10秒くらいなんですけど、タッピングが弓を放つ前にグーっと引いてる感あって、低音に戻った時がカッコいいみたいな。

そして、寺沢功一さんのベースイベントに参加しました。
2020年9月。
感想はこちらの記事。

こちらからも抜粋しますね。

注目してほしいのは、弦の揺れ。
こんなに右手(ピッキング=弦の弾き方)が強いのに、弦はほとんど揺れてない…ように見えません?
でも弦の揺れとかタッチって動画では分かりづらいんですよね。
だからぜひ一度ライブで拝見したうえで、質問してみたいと。

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「弦を不要に暴れさせないことで音程感のある音が鳴る…と知り、ピッキングと弦の揺れに興味をもっている」ということが伝われば…
寺沢功一さんの回答を記憶のまま、要点だけ書きます。
「弦が揺れないのは無駄に力を入れてないから。力を入れるのは弦に触れる一瞬だけ。でもあえて弦を揺らすように弾くこともあるよ。」というような内容を、実際にはもっと丁寧に伝えてくれました。

そして、2020年12月にやっとライブへ行けました…!

抜粋を。

まずね、やっぱり弦が揺れてないんですよね。
1部の最後の曲なんてすごくイイ感じに勢いのある16分があって、激しいスリーフィンガー?ツーフィンガー?だったんですけど、やっぱり弦は静か。最初に動画を観たとき、あまりに揺れないから丸太みたいなヘビーゲージを使っているのかと思ったんですけど、一般的な太さだそうで。
前述のイベントで答えてくださったように、やっぱりピッキングの調整なんだなぁと。

なぜロックなベースでも好きになるのか

ちょっと失礼な書き方になってしまうかもしれないんですが、なるべく真っ直ぐ説明したいので聞いてやってください。

私は27歳でベースを聴く楽しさにハマり、曲を聴くときはベースラインだけを追うという日々を20年近く過ごしてきました。
その中で好きになるベースラインの傾向…みたいなものがあるんですね。
分かりやすい曲を挙げると「中央フリーウェイ」みたいな。
高低差があって、キレイな音色で、メロディアスな動きで…っていう。
逆に、歪んだ音で16分音符が続くようなハードロックやメタル系はハマったことがなかったんです。

寺沢さんのYouTubeチャンネルから動画をひとつ…。

例えばこの1曲目(REDEMPTION/Gackt)。
水泳に例えると、イントロがバタフライ→Aメロ(0:27~0:58)潜水→サビで再びバタフライ…みたいな緩急が感じられてカッコいいんです~!

まさにさっき「ハマらない例」として書いたようなベースラインでも、寺沢さんが弾くとグッときて、何度もリピートして聴いている
これは何だろう???
なぜ、寺沢功一さんのベースラインは前のめりで聴き惚れるんだろう?
という好奇心と探求心が、動画を見て、イベントに参加して、ライブで生音を2ステージ体感して、さらに高まったんです。

譜面作りとリハ音源の確認が真面目

そこで、寺沢さんの演奏動画や音源、そのコメント欄の返信、公式サイト、ツイート、旧ブログ…など、メモを取りながら見る日々を過ごしました。
我ながらすごい熱意だなぁと思うのですが、それぐらい寺沢さんの魅力の秘密?秘訣?が知りたかったんです。
メモやブックマークは大量にありますが、特徴的なツイートを二つだけ貼りますね。

これがどれぐらい普通?当たり前?のことか分からないんですが、ライブで演る譜面を自分用に書き直したり、より見やすく短縮したり、リハの音源を16分音符単位でチェックするという。
寺沢さんのプレイスタイルからは見えてこない細かい下準備が意外で、でも意外に意外じゃないというか。
調べれば調べるほど、答え合わせをしたい気持ちが強くなりました。

というわけで、寺沢功一さんご本人に訊いてみました
私はベーシストじゃないただのベース好きですが、レッスンという形でお時間を頂き、直接質問しました。
結果、ベースのことだけ訊いたはずなのに、プロとして音楽家としての在り方まで学べた貴重な時間になりました。
ベーシストの皆さんはもちろん、他のパートの人にも、なんなら音楽をしない人にもぜひ知ってほしいので公開します。
※寺沢さんの許可は頂いています

読みやすさを優先して、私からの質問(抜粋)→寺沢さんの回答を意訳した箇条書き→私の感想、の順に書いていきます。
実際は寺沢さんの回答に私が質問を重ねる会話になっていましたので、その流れが大事なときは会話と同じ順番にしているところもあります。

Q1.歪みがイイ感じなのはなぜ?

【質問】
私はアンプ直(エフェクターで音色を変えない素の音)が好きです。
でも寺沢さんの歪み(ひずみ)はイイなぁと感じます。
これは何か秘密や工夫(実はそんなに歪ませてない等)がありますか?

【寺沢さんの回答】
・エフェクターで歪みと原音をブレンドさせている
・ブレンドのバランスはバンドによって変える
・アンサンブル(バンド全体)で鳴らすと、歪みは他の楽器が重なってマスキングされる
・それを想定して、歪みが聴こえなくなって真ん中の美味しいところが聴こえるようセッティングしている
・バンドによっては歪みを効かせることもある
・そういうバンドのセッティングのまま別のバンドで弾くと「あれ?そんな音色だっけ?」と言われたこともある
・音色はバンドの要望や、バンド内でのバランスを考えて決める
・自分の好きな音色を決めてどのバンドでもそれを出すんじゃなく、アンサンブルに溶け込んでいることが大事
・中域を持ち上げると抜けて(音がよく聴こえて)自分は気持ちイイけど、全体がダンゴ(中域に全員が集まる)になってバンドの安定感がなくなる
他のメンバーによって自分の出すべき音が変わってくる

【私の感想】
勝手なイメージで、寺沢さんは「俺の歪みはこれだ!」という感じの音作りをされるタイプかと思っていました。
でも実際の寺沢さんは、バンド全体のことを考えて自分の音を決めるという方向でした。
そして歪み推しなわけじゃなくて「真ん中の美味しいところ」を聴かせることも考えてくれているから、私がイイなぁと思えたんですね。

Q2.ベースを歌わせるとは?

【質問】
過去のツイートを調べていたら、次の二つを見つけました。

1.ファンの人のツイート
寺沢さんが「ベースはギターと歌を自由にさせるためにある」と言っていた(というようなことが書かれていた)
2.寺沢さんのツイート
オレのベースライン作りの基本テーマは「ベースだって歌いたい!」だよ

「ベースが歌う」という表現からメロディアスで高低差のあるベースラインが浮かびますが、寺沢さんのプレイとは離れている気がします。
歌うベースと「ギターと歌を自由にさせるベース」というのが私の中で両立しないのですが、ベースを歌わせるとはどういうことですか?

【寺沢さんの回答】
・バンド全体を安定させることがベースの役割
・ボーカリストとギタリストを自由にさせてあげる
・歌うっていう言葉だけみるとメロディアスなイメージだけど「そのフレーズを生き生きさせる」ということ
・音符通りに弾けば弾けるけど、生かしきれてないし歌わせられてない
・スクールの学生によく言うのは「与えられた音符通りに弾けた!は高校生までだよ」「与えられたフレーズに命を吹き込むのが俺たちの仕事」「今弾いたベースラインはかっこいい?」
・かっこいいが何か分からない様子の学生のベースを借りて弾いたら「あーかっこいい!」となる
・メロディアス、攻撃的、どんなベースラインでもそのフレーズにはそのフレーズの表情がある

【私の感想】
ルートだけでも8分を刻んでいるだけでも、なぜかウキウキさせられたりワクワクしたりするのは、ベースが歌っているからなんですね。
寺沢さんの「そのフレーズを生き生きさせること」という言葉と実演で、パァッと雲が晴れるように理解できました。

Q3.自分用の譜面を作るのはなぜですか?

【質問】
自分用に譜面を作成したり書き直したりしているツイートをよく見ます。
それが大変そうでもあり、面白そうでもあり。
その理由やこだわりなどを教えてください。

【寺沢さんの回答】
・送られてくる譜面はベース用じゃない(ト音記号で書かれている)から、指定されたフレーズやメモを書き込むためヘ音記号に書き直す
・愛用している五線譜は小節がプリントされていて、細かい16分音符が入らないので「ダダッダダー」みたいに言葉で書く
・「次に休符があるから忘れないで」というお知らせや、間違えやすい場所の注意など、「自分対策譜面」があればスッと演奏できる
・例えば、何人もの歌手が次々に34曲歌うステージがあった。ドラマーも次から次へ出されるクリックでカウントを出す状態なので「これどんな曲だっけ?」とか考えていられない。とりあえず弾かなきゃならない。
・譜面に書かれてある通りに弾けば何とかなるという状態にしておく
・自由なセッションをしていて、構成が分からなくなって思い切っていいかげんになる…というようなことはあってもいい
・でも「まず最初はきちんとやる」というのが前提
・学生に話すのは「バーベキューやる時に材料はコンビニでいいじゃん~じゃなくて、肉はどこが安くて美味しいか用意周到に準備すると幸せになれるでしょ」「なんでもテキトーにやっちゃダメ」と
・そしたら「ちゃんとやってくれる」って、また呼ばれるから
・歌わなそうなメンバーだからここは俺が歌った方がいいかなぁと考えてコーラスとったり、言われないこともちゃんとする。

【感想】
寺沢さんって自画自賛されるし、自信満々な感じっぽいのに、すごく真面目で謙虚なんだと分かりました。
俺の音を聴け!とか俺の音が欲しいなら行く!とかじゃなく、まずはきちんと要望に応えようとされるプロ意識が伝わってきました。
変な表現かもしれませんが、唯一無二のプレイヤーなのに、自ら便利であろうとする謙虚さというか。
プロって対応力とかアドリブ力が求められるイメージありますけど、それは人事を尽くして天命を待つというか…まず「人事」の部分が凄かった…!

Q4.リハ音源のチェックとは?

【質問】
リハ後のツイートで「他の楽器とのグルーヴを16分音符単位でチェックする」と書かれていたのがずっと気になっています。
どんなチェック方法なのですか?

【寺沢さんの回答】
・例えば、自分と誰かのリズムの取り方が違っていたり(食い方が16分と8分で違う等)、ビミョーなコピーミスや勘ちがいをチェックする
・次のリハでそれを伝えて確認する

※回答を受けて【私の質問】
寺沢さんがリハ音源で確認したことを相手に伝えても「え?そうだっけ?」と忘れていたりすることはないですか?

【寺沢さんの回答】
・よくある(笑)
・でもそれがカッコいい場合もある

※回答を受けて【私の質問】
動画のコメントへの返信で、寺沢さんが伊藤広規さんの名前を挙げて「俺はまだまだだと思い知らされる」みたいに書かれていました。
やはりそういう(私のイメージですが)「細けぇことはいいんだよw」みたいなところに惹かれるのですか?

【寺沢さんの回答】
・言葉では表せない絶妙なタイミングに惹かれる
・「俺はそこに行けないなぁ」「この雰囲気は出せないなぁ」と、大きな意味としてのベースの捉え方に憧れる

【私の感想】
リハ音源を16分音符単位でチェックするという細かい下準備をする寺沢さんが、そうじゃないタイプのカッコ良さも認めていたのが素敵でした。
あっ、あくまでも広規さんの例は私の勝手なイメージですよ(強調)
ちなみに、他には湯川トーベンさんのお名前が挙がったり、リンク先のコメント返信では坂井紀雄さんのお名前が書かれてありました。
寺沢さんが広規さんと共演した時に「譜面見せて」「見やすいね」と言われたと、嬉しそうに話されていました。
その当時のツイート

ここからはQ&A形式ではなく、寺沢さんの発言から特に書き残しておきたいことを紹介します。

全てに意思がある

【寺沢さんの発言】
イヤモニしているドラマーから「いつも俺のちょっと前にいるよね」と言われたことがある。
それは、ドラムが重い人だからそれにピッタリ合わせるとバンド全体のグルーブがベタベタになってしまうから。
常にドラムが出しているビートと自分との距離をはかりながら弾いている。
わざと合わせないことで、疾走感もありつつヘビーで理想的になる。
サラッと聴いている時もあるけど、フィルの着地点だけは必ず予測して合わせるように弾いている。

【私の感想】
寺沢さんのお話から伝わる、「俺の絶対」じゃなく「この中でのベスト」…みたいなスタンスがとても素敵だなぁと。
ライブで、寺沢さんがバンド全体を冷静に見ているように感じたことを思い出しました。

「REDEMPTION」の緩急

この記事に貼った動画「REDEMPTION」の緩急がすごいと伝えました。
ドーンと弾くイントロから、グッと潜るように抑えるAメロが特に好きなんですが、「あのAメロを弾く時って息してます?」と訊いてみました。
変な質問かもしれませんが、大真面目に気になっていたので。
してます(笑)と仰った後に「でも浅いかも」と自己分析してくれました。

そこから「ベースが生き生きと弾くことで打ち込みのドラムでも人が叩いているように聴こえる」というすごい話も聞けました。
(前述した)フレーズを歌わせるということだけでなく「イントロ、Aメロ、Bメロ…セクションごとの色や景色を理解して弾く」と。
だから、イントロとサビで同じフレーズ(だと思う)を弾いていても、Aメロの無機質な表情を挟むことで、よりダイナミックに感じられるんですね。

年齢や経験とベースライン

寺沢さんから「テクニックとハートの両方大事だけど、テクニック重視で弾く若い子が多い」という話があり。
私から「技術面を解決しないと表現の部分には進めないという側面はありますか?」と訊いてみました。
すると、そういうこともあるけど「今しかできないことを大切にしなさい」と若い子には伝えている…と。
経験や年齢を重ねることでやれなくなることもあるから、今しかできない若々しい演奏をしてほしい。
未熟な演奏だとしても、それもいい。
大人になってから笑い話にすればいい。

…と。

寺沢さんのスクール

この質問をした少し後、寺沢さんが代表を務める「ROCKSTAR MUSICSCHOOL」という音楽スクールの発表会に参加したんです。
その時、この質問会の答え合わせができたような気持ちになりました。

生徒みんなが「その人らしい」んですよね。
個性的っていうんじゃなくて(個性的な人もいたけど)講師が生徒それぞれの良いところを見つけて伸ばした結果…みたいな。
私はスクール生じゃないので誰一人知らないんですけど、だからもちろん成長過程も見てないんですけど、そう感じました。

それと、寺沢さんも講師の皆さんもすごくフレンドリーなんですが、良い意味での距離があるというか。
誤解を恐れずに書くと、ちゃんと怖い…みたいな。
いや、優しいんですよ!
優しいんですけど、こう…生徒ってスクールだと特に「お客さん」みたいになっちゃうこともあるじゃないですか。
でもそうじゃなくて「いつか同じ現場に立つかもしれない人」みたいな、そういうピリッとした生徒へのリスペクトもあるように感じたんです。
どこかで「プロもレッスンを受けに来る」と書いてありましたが…納得。

と、めちゃめちゃ真面目に書きましたけど、校長自ら真剣に楽しむところも魅力☆

寺沢功一 ベース1本一人旅ツアー

そしてこの企画です。
今週末(11月19日)から西のツアーが始まります~!

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今回の質問会でも実演つきで話してくださったんですが、めちゃめちゃ面白かったし幸せでした!
ライブの中で聴くベースとは全く違う面白さを、ぜひ皆さんも!

最後になりますが、寺沢さん。
たくさん教えてくださってありがとうございました。
お話を聞きながら、全てが腑に落ちました。
寺沢さんのエモーショナルなところときちんとしているところ、両方が丁寧に存在していることが私を惹きつけたんだと思います。
ライブやイベント情報をこれからもチェックして、行ける日を楽しみにしています!
本当にありがとうございました!

※寺沢さんの演奏動画
・ご本人のYouTubeチャンネル
・Facebookで寺沢さんがまとめてくれたYOYOKAさんのセッション

世界のドラマー100人に選ばれたYOYOKAちゃんの、12歳の誕生日をお祝いするセッション動画をまとめました😃 【メンバー】 Drums - YOYOKA Bass - Kouichi Terasawa Guitar -...

Posted by 寺沢 功一 on Sunday, November 14, 2021

【宣伝1】流しのベース談義というイベントを月1回やります

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記:2021年11月16日

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