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アナログレコーディングを見学してきた@中野ボルタスタジオ

レコーディングの過程を実際に見られる神企画。
「アナログスタジオレコーディング 全部見せる公開収録 東京編」に参加してきました。

スタジオの録音風景をテレビや動画で見ることは山ほどありますが、実際にそこへ行って見られる機会なんて絶対ないじゃないですか。
たまーに「〇〇先輩に誘われるままレコーディングにおじゃましちゃいました。緊張した~!勉強になりました!」みたいなミュージシャンのSNS投稿を見かけることもありますが、それぐらい部外者が立ち入れないイメージ。

だから正直、どこまでガッツリ見られるんだろう?と思ってたんですね。
基本は待合室みたいなところで待機して、見てOKになったらちょっと入って隅っこで立って説明を聞いて、また待合室に戻る…みたいな。

それが、まさかの「コンソールの中にイスを置いてマジで全部ずっと見られる」という状態でした。
コーンソールっていうのはコントロール室というか、ミュージシャンが演奏する部屋を観ながら指示したりする、こんな感じの部屋です。

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こういうのとか…

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こういうのが置いてあって…

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私が座っている位置から見える景色は…

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こんな感じ。
いや、すごくないですか?

1部:スタジオ内の設備やアナログテープの説明

それだけでもすごいのに、なんと録音ブースの中にもイスが用意されていました…!
自分のヘッドホンを持ち込んで、それを何か()に挿すとミュージシャンと同じ状態になるんです。
つまりコンソールからの指示も、メンバー同士の会話も、さっき録音したものをチェックする時の音源も、もちろん演奏も聴けるという。
視界はこんな感じ。

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あ、今さらですが私はベースが大好きなので、ベースに特化したレポートとなります。
バランスの取れた全体写真やレポートは他の人が載せてくれると思うので、ツイッターのハッシュタグ「#dalabo1031」で探したりしてみてください。

ベーシストは紺野光弘さん。

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アンプは紺野さんのツイートに載ってました。

これ、ベーアンだけ別室に設置されてるんですよ。
他のスタジオでも普通そうなのかなぁ…?
ベーアンだけ隔離されているっていうのが、なんかイイなぁと。
で、アンプをマイクで拾った音と、ベースからラインで録った音を混ぜる。

という感じで、スタジオ内の設備を色々と説明してくれました。
コンソールではアナログテープを実際に持たせてもらったり。
あの「実際の重量だけでなく大切だからさらに重く感じる」という赤ちゃんみたいな重さを私は忘れません…。

1部:作曲とアレンジを現場でやる

ジングル(短いテーマ曲みたいな)をその場で作曲してアレンジして演奏するというのが1部のテーマです。
四分の四拍子とハ調が基本。
そこに、お客さんが好きな音階を4つ挙げるという。
「ミ」→「ド」と来たので、私は「ド」と重ねて、次の人が「ラ」。
この「ミドドラ」をアルペジオ?…こう…曲の根底でずっと鳴ってるメロディみたいな感じで作曲してアレンジするそうです。
そしてBPM(速さ)は90~130の中から選ぶということで、お客さんが「煩悩の数で108」と答えて決定~。

録音ブースに移動。
アレンジャー兼キーボードの縄田寿志さんがピアノで作曲し、それを主催者兼ピアノの土井あかねさんが採譜。
この時、パーカッションのnotchさんが紺野さんに話しかけたりしてワイワイ遊んで(言い方)いて、タイトな時間で作曲しなきゃならない縄田&土井ペアとの温度差が面白かったです。
バンドで曲終わりを決める時、ボーカルがヒマそうにしてるのと似てるなぁなんて思ってました。
いや本当は私たちお客さんが退屈しないようにっていうnotchさんのサービス精神だと思います(真顔)。

そして完成した譜面がこちら。

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いつの間にか「ミドドラ」から「ミドドレ」になっていることはフワッと全員がスルーしていました(単に記憶違いだったそうです)。

これがミュージシャンに配られ、各パートがアイデアを出し合って曲になっていく過程が今日イチ面白かったです。
ザックリ説明すると、これは「コード譜」といって、各楽器がやることは指定されてないんですね。
この状態で、アレンジャーの縄田さんが大まかなイメージを伝え「とりあえずやってみましょう」で最初の演奏。

そこから…例えば「ベースは最初ナシか高いところで弾く?」みたいな、そんな要望を縄田さんが出して、紺野さんがサッと弾いたり。
例えば、AからBの変わり目を出したいという縄田さん(だったかな?)の要望に、パーカッションのnotchさんが「Aの最後ブレイク(止まる・鳴らさない)するからウーン!って」とベースのグリスを求めるようなアイデアを出したり。

また質問コーナーで書きますが、この過程が本当に面白かったです。
ベースだけのレコーディング動画も大好きなんですが、全ての楽器が初めて鳴らしてディスカッションするところを見られるなんて…!
あの「ザ・レコーディング」を生で体験しているような(あれはアレンジが事前にできていたんだっけ…)。

1部:アナログとデジタルの聴き比べ

そして何度かのファーストテイク()を重ねて、コンソールに戻ります。
さっき録音したものをみんなで聴くわけですが、ここでこの企画のメインコーナー「アナログとデジタルの聴き比べ」が行われました。

今回は中野にある「Volta Studio Recording」という、国内でも数少ないアナログテープレコーダーが現役のスタジオで、ヴィンテージ機材を使ってレコーディングを行います。

エンジニアの水谷勇紀さんが、超大きいテープ(アナログ)を巻き戻して再生してくれるのをみんなで聴きます。
ふんふん…(この時点では特に何も感じません)。

次に、テープと同時に録音していたデジタルの方(プロツールス)を再生。
おぉ…違う…!!
アナログの方が弦と指の皮膚感がより伝わる!!
…と、それぞれが感じた音の違いを話すコーナーで喋ったところ、紺野さんに「そのコメントください 笑」と褒めてもらいました~。
ちなみにこの企画は紺野さん発案だそうで、以前に経験したアナログレコーディングの音が印象に残っているから、と。
ベースの音色を愛でるベーシストの発案で生まれた企画…いい話だなぁ。

この後、パーカッションとキーボードが音を重ねて終了。
…って簡単に書きましたけど、notchさん素晴らしかったです。
ドラムとパーカッションって同じ人がやりがちだから役割も似てそうだけど、一番下で支える土台のドラムと一番上で装飾するパーカッションは真逆というか。
無くても成立しちゃうパーカッションって、センスやサービス精神がすごく出ると思ってるんですが、notchさんが「あと!すいません!ウインドベルだけ入れさせて!」みたいに最後の最後まで明るく真剣に徹していたのがとても素敵でした。

1部:質問コーナー

思い切って勇気を出して質問してみました。
こんな感じです。
(すぅっ…)←息を吸う

「コード譜だけ渡された状態で演奏するコーナーが一番面白かったです。そこで質問なんですが、AからBのブレイクが最初ベースのグリスだけですごくカッコ良かったんですけど、ピアノのグリッサンドも入ることになったじゃないですか。あぁいう時ってガッカリするというか何か思われますか?もしかしてグリス入れるのやめようって思われましたか?」

みたいな。
普通は制作過程なんて見られないので、こんな質問すら思いつく機会もないんですよね。
紺野さんの返答は、有料アーカイブとかが発売されるかもしれないので伏せておきます~。

という感じの1部でした。
そして私は2部にも参加しました。

2部:アレンジャーのディレクションが見られる

アナログ録音の説明やスタジオ案内などは、1部とほぼ同じ。
でもパーカッションがドラムに変わっていたり、ベースの足元を説明してもらえたり…と、参加者が変われば説明も変わるという面白さ。

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私は「その缶は弦の滑りを良くするやつですか?」というベース好きらしい質問をしました。
さらに「1部では普段グリスしないって仰っていたけど使うんですね」とか言ったような…。
それに対して紺野さんは「こういうのとかやるので」って左手でニュアンスつける動きをしてくださったような…。

2部は1部と違い、事前に曲も決まってアレンジも済んで、皆さんにデモ音源が配られています。
なので、アレンジャーの縄田さんのディレクションが見どころ
ということで私たちは、コンソールで縄田さんが注文を出しているところを見たり、録音ブースで演奏を見たり。

曲は「Video Killed The Radio Star」

面白かったのは、縄田さんから皆さんに配られたデモ音源が聴けたこと。
楽譜も配ってもらったけど、コードとリズムパターンぐらいしか書かれていないんですね。
だからこのデモ音源を聴けたことで、どこからがベーシストのオリジナルか知れたという。
いつもは書き譜かベーシスト案かモンモンと考えているんですが、それまで教えてもらえるという、本当に神企画です。

そして、このアレンジがとても好みで…!
音源が公開されれば伝わりやすいのですが、ベースがイントロだけでなく主メロも高めの音で弾いて、そこから低音に下りるという。
この…ベースがハイポジションで主メロを弾いている緊張感から本来の役割である低音にドーンと下りて曲が動き出す感じ、超好き~~~~!

2部:アナログとデジタルの聴き比べ

1部と同じく、録音したものをアナログとデジタルで聴き比べました。
皆さん(特にピアノの音色について)アナログを褒めていたんですが、私はデジタルの方が好みでした。

これも感想を話すところで喋ったんですが、ダブルストップ(ベースが2つ以上の音を同時に鳴らすこと)はデジタルの方がキレイだったんです。
この曲はベースが高い音できれいなラインを弾くのがポイントだし、紺野さんのダブルストップは和音だけじゃなく音がパラパラと散る感じも素敵だったので、これはデジタルが好みでした。

2部:アナログのパンチインはすごく大変

カセットテープにダビングしたことのある世代なら分かると思うんですが、要するにあれです(説明雑か)。
デジタルならサッと差し替えられる演奏も、アナログの場合は「前に録音した位置に寸分違わず上書き」という技術が必要になります。

しかも、位置だけでなくつなぎ目にも違和感がないようにっていう。
ミュージシャンも前の演奏と同じようにプレイして修正箇所に入らないといけないし、エンジニアもスタートとストップのタイミングを見極める。
これが本当に大変そうでした。
誰かが「でも間違えないで1回で演奏すればいいってことでしょ 笑」と言ってましたが、つまり当時はそれが求められたってことですよね~。

2部:ミックスの違いが聴ける

これも楽しみにしていた部分です。
どうしてもミックスについて訊きたいことがあったんです…!
というわけで、水谷さんから「ミックスする前に訊いておきたいことはありますか?」とプチ質問コーナーみたいなのがあったので聞いてみました。
(すぅっ…)←息を吸う

「ベースの音ってスマホでは聴こえないじゃないですか。でも最近はスマホで聴く人が増えてますよね。となるとミックスの段階でスマホでもベースが聴こえるように…例えばエッジを増やしたりとか、スマホで再生することを前提とした音作りをするのか、それともベースの本来の美味しい低音を生かすのか、どっちに寄せていますか?」

みたいなことを訊きました。
私は「ベースの音が聴こえるようになる方法」という動画を作ってイヤホン推奨活動をしているぐらいなので、どうしても知りたくて。
これまた有料アーカイブが発売されるかもしれないので水谷さんの返答は伏せますが、こういうのに興味がある人はぜひぜひ参加してほしいと心から思います…!

そして水谷さんのミックスタイム。
ミュージシャンとお客さんは自由時間。

ミックスが終了して、コンソールへ戻ります。
まず、水谷さんから作業内容の説明が。
ここで「イントロはベースにリバーブをかけました」と仰ったんですね。
私はパッシブアンプ直(エフェクターで音色を変えない)が好きなぐらい、ベースの素の音が好きなので…心の中で「え!!!」と。
もちろん心の中だけですよー。

で、ミックス後の音源を聴きます。
あぁぁぁ…やっぱりリバーブがイヤ…!(こら)

そしたら、何と!
紺野さんが「あの…すいません…ちょっといいですか…イントロのリバーブがちょっと深すぎるかなぁと思ったんで浅くしてほしいです」と。

えらい!!!
どっからの誰から目線か分からないけど、紺野さんえらい!!!
1部の曲を作っていく時も2部のアレンジの時も特に主張なくひっそりされていた紺野さんが、リバーブに物申してくれた~!

ここがこの企画のハイライトでしたね(違う)。
そこから最終的に、足元を説明してくれた時に好きだと仰っていたワウ(ミョンミョンした音になる)っぽい音に近づいたのも面白かったです。
アンプ直派ですけど、変わった音の後で生音になる感じも好きなので。

感想:温故知新

今またレコードが売れていたり、良い音で配信しても再生はスマホだったり、デジタルでもアナログっぽい音が作れたり、アナログだからこその緊張感や技術があったり…。
どちらが良いということでなく、歴史や記憶を愛でつつ新しいものを学ぶというスタンスでいたいなぁと改めて感じた企画でした。

というわけでレポートはこれで終了です。
まだアーカイブ(配信?)を見ていない状態なので完全に記憶のみですし、後で確認すればいいやとメモも取っていなかったので書き漏れがあるかも。
私はベース好きなのでベースに特化して書いていますが、それ以外にも面白いお話が盛りだくさんでした。
企画はこれからも続きますので、ぜひ皆さんも参加してみてくださいね。

企画してくださった⼟井さん、ミュージシャン、エンジニア、カメラマン、スタッフの皆さん、同じ時を過ごしたお客さんたち、皆さんありがとうございました。

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記:2021年11月2日

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